『謙虚なリーダーシップ』(エドガー・H・シャイン、ピーター・A・シャイン)
マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院名誉教授のエドガー・H・シャイン先生がリーダーシップの一つのあり方を語った一冊。リーダーシップとは関係性。謙虚なリーダーシップとは、本質的に、他者との繋がりに基づくプロセスのこと。真に成功しているリーダーシップは、極めて率直に話しをし、心から信頼し合うグループの文化の中で成果をあげている。伝統的な経営文化は、決められた役割と役割の間にできる、単なる業務上の一連の関係であった、そのような関係では、率直に話すことも信頼し合うこともあまりできない状態が生み出される。そういう状況の中で、いかにグループ内に率直に話し、信頼し合う関係が築けるのか。リーダーシップの書籍でありながら、企業文化の書籍でもあります。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯関係性の4つのレベル
①レベルマイナス1
・まったく人間味のない、支配と強制の関係
②レベル1
・単なる業務上の役割や規則に基づいて監督・管理したり、サービスを提供したりする関係。大半の「ほどほどの距離感を保った」支援関係
③レベル2
・友人同士や有能なチームに見られるような、個人的で、互いに助け合い、信頼し合う関係
→経営文化をレベル1→レベル2へ進化させること。それが、謙虚なリーダーシップの最重要の責務。
→レベル2の関係で何より重要なのは、相手を「役割」〜「ほどほどの距離感」を保つ必要のある、その人の全人格の一部、あるいは他者と差異のない個〜ではなく、「一人の人間」として見て、共通の目標や経験に基づき、より個人的なつながりをつくること。
④レベル3
・感情的に親密で、互いに相手に尽くす関係
⇨部下とのやり取りにおいては、部下をできる限り「下に見ない」ようにしよう。「協力」や「共同責任」を強調し、部下の成功をあなたが積極的に支援するつもりであることを際立たせるため。関係をレベル2に深めることは、「互いに信頼し合い、一層良い仕事をするためには、あなたについてもっとよく知りたい」と思っていることを、言葉と行動で表すこと。仕事の問題については、率直かつ、正直に話せるようになる必要がある。
◯謙虚なリーダーシップが、これから数十年のうちに私たちの仕事に影響を与える傾向と共進化する、6つの方法
①内容よりコンテクスト
・謙虚なリーダーシップは、内容や専門知識よりコンテクストやプロセスの方を、遥かに重視するようになる。理由の一つはAIの影響が大きくなっているため。
②文化の不均一性
・謙虚なリーダーシップは、トライバリズム(部族中心主義)に対処し、無意識のバイアスのない関係を築いていく。
③権力の分散
・謙虚なリーダーシップは、個人による権力の濫用に「ノー」と言う。
④マス・カスタマイゼーション
・謙虚なリーダーシップは、グループが機敏性と適応力を高め、より協力的になるのを後押しする。そして、従業員、ステークホルダー、顧客に合うよう、リーダーシップをカスタマイズする。
⑤ダイナミックな組織デザイン
・謙虚なリーダーシップでは、グローバルで不安定な世界において、関係と作業グループを組織的に構築する方法を、絶えず再考する必要がある。
⑥バーチャルな存在
・謙虚なリーダーシップは、現実にもバーチャルにも存在することになるだろう。組織が、地球規模で一層分散するようになるから。
優秀なビジネススキルを持った人になるという「個」ではなく、優秀なチームを作るという「チーム」をテーマとした場合、ビジネス知識を頭で理解するというだけではなく、コーチングなどのコミュニケーションスキルの学びと実践(私の場合は社外でのコーチング経験)がものすごく効いていると思います。シャイン先生の考え方もコミュニケーションやさらにその前提となる人として在り方が結局は成果にも結びつくのだろうと思います。