MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

マネジメントへの挑戦(一倉定)

『マネジメントへの挑戦』(一倉定)(◯)

 これは、企業経営を学ぶうえで素晴らしく良い書籍でした。著者(1918-1999)は、「日本のドラッカー」と呼ばれた経営コンサルタントで、約1万社の企業を指導してこられました。机上の理論や知識に異論を唱え、競争社会で企業が生き残るために本当に必要な実務の観点から物申される視点が素晴らしく、経営者及び経営者を補佐する経営陣の方に読んでもらいたい一冊です。私にとってもしばらく探求を続けたい著者です。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯計画とは

・「将来に関する現在の決定」(ドラッカー)。将来のことを、あらかじめ決めること。あくまでも「そのとおりやる」という責任がある。

・「計画以上ならいいだろう」という考え方は間違っている。

・「来月は忙しくなるから、今月は計画以上にやる」というのは、もっともらしく聞こえて、実は間違った考え方。来月忙しかろうと、暇だろうと、今月は今月の計画通りやれば良い。来月忙しくなることがわかっているのなら、それに応じるように、今月の計画数を増やして、そのとおり実施する。

・格別の努力をしなくとも実現できるような、低い水準の計画を立てて、これを突破したからといって自慢するのはおかしい。高い水準の計画を立てて、そのとおり実現させることこそ、真の誇り。死に物狂いの努力をしなければ「そのとおりやる」ことができないような計画こそ、本当の計画。

 

◯「これだけ主義」と「できるだけ主義」

・「できるだけ」というのはどれだけなのか誰にもわからない。「大至急やる」というのは、「できるだけ主義」。「できるだけ主義」には基準がなく、従って評価のしようがない。客観的評価を恐れる臆病者の旗印としては、これほどいいものはない。

・「できるだけやってみます」というのは、いかにも責任をもって仕事するように聞こえる。その場逃れの台詞としてはもってこい。計画は「できるだけ主義」ではいけない。「いつまでに完成する」「これだけ安くする」というように、「これだけ主義」でなければいけない。

 

◯計画の基礎の第一は「生きるため」

・世に言われる計画に具備すべき条件は、筆者に言わせれば、全部嘘で間違い。

(例)実現可能なものでなくてはならない、事実に立脚したものでなくてはならない、無理と無駄があってはならない、科学的なものでなくてはならない、納得のいくものでなくてはならない

・実現可能とか無理・無駄がないということは過去の実績や過去の理論を根拠にしている。過去の実績は不手際と失敗の積み重ねであり、過去の理論は、今までにわかったほんのわずかな事柄に過ぎない。

・過去の実績をもとにしていたら、そこには進歩もなければ、確信も生まれない。優れた計画は、こうした過去の実績や事実とは本質的に無関係である。

・今まで原価が1,000円かかり、1,200円で売っていた商品があるとする。それと同様のものが他社から950円で売り出されたらどうするか?どうしても950円またはそれ以下で売って、なおかつ、引き合うようにしなければならない。これが現実。このように計画とは、生きるためのものである限り、実現不可能に見え、事実に立脚せず、無理があり、非科学的なものであり、納得がいかないもの。

 

◯計画の基礎の第二は、トップの意志

・トップの夢こそ、革新の推進力。トップの意志、トップの夢に期限をつけて、未知のものに取り組んでいる。期限を切って、それまでに何がなんでも達成しようという、計画とはこういうもの。

・優れた業績ほど、それが計画された時は不可能視されている。過去の実績という尺度では計れないような計画でなければ、確信は生まれない。

・「出来もしない計画を立てても仕方ない」「実施がうまくいかないのは、計画に無理があったからだ」と、自分の怠慢を棚に上げて、罪を計画になすりつけることを教える権威者があまりにも多すぎる。不可能だ、無理だ、と思い込んだ瞬間から人間は努力しなくなる。できないことは、やっても無駄だからだ。そしてこれが努力不足をカバーし、責任を逃れる口実として利用されている。

・不可能を可能なものに変質させるのは人間であると同時に、可能なものを不可能なものに変質させてしまうのも人間。

・経営は環境に順応することによって生きられるものではない。環境を自らの力で変革することによってのみ、存続できる。これを行うことができるのは、経営者の意志のみ。この意志を明文化したものが経営方針。明文化しないものは、経営方針ではなく経営者の考えにすぎない。

・優秀会社とボロ会社の根本的な違いは、資本でもなければ、設備でもない。技術でもない。それは経営方針の有無と優劣なのだ。

 

 これで本書全体の1/6弱の部分です。

 本書は、復刻版で原書の初版は昭和40年。発売から50年以上が経っており、その間にデジタル革命がありましたが、むしろデジタル化(利便性)の中で見えづらくなっている本質的なところが明確に掴めるように思いました。現在も一倉経営を実践されている企業が多いことにも頷けます。

 復刻版は本書を含めて3冊(他に目標管理、原価管理に関する書籍あり)。そして、一倉経営を10冊(4,000ページ超)にまとめたシリーズ本があります。現在復刻版の2冊目を読んでいますが、いずれ10冊シリーズを読んでみたくなる内容でした(こちらは10冊で10数万円する高額商品です)。