『一倉定の社長学シリーズ②<経営計画・資金運用>』(一倉定)
著者(1918−1999)は、経営指導歴35年、我が国の経営コンサルタントの第一人者で、大中小約5,000社を指導。本書は、著者の社長学シリーズ(10冊)の第二弾「経営計画・資金運用計画」がテーマ。昭和50年の作品です。経営計画と資金運用計画の本質と役割、作り方、使い方、両者の関連性などが解説されています。これは、30年近く金融の世界で働いていて、経営計画や資金計画を山ほど見ている私から見ても、とても本質的で役立つ内容です。企業審査の基本として学ぶ内容でもあり、めちゃくちゃ実践的な内容です。巻末の経営計画書や添付資料などの帳票類(様式サンプリング集)も実務レベルで活用できる内容です。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯経営計画は未来を考えるためのもの
・過去の数字を確認することは必要である。しかし、それらは過去の数字を研究することではなく、その数字に立脚して、「これからどうするか」を考えるためである。
・目標と実績の差は、客観情勢の我が社に及ぼす影響を量的に知らせてくれるもの。言い換えると、客観情勢をどのくらい見損なっていたのかの度合いを表すもの。目標はその通りいかないから役立たないのではなく、その通りいかないからこそ役立つもの。
◯目標の設定
・目標は事業経営に必要な様々な活動について設定されなければならない。少なくとも次の8つは必要。
①市場の地位
②利益
③革新
④生産性
⑤人的資源
⑥物的資源
⑦資金
⑧社員の処遇
・社長が、我が社の未来を決める最高方針の樹立と目標の設定を自らの責任と意思において、自らの手によって、作り上げることこそ本当。その重要なことを、他の人にやらせるということは、明らかに社長の重大な責任放棄。
・「あちら立てればこちら立たず」の矛盾と不可能の突破口は、社長が外に出て、市場の状況をよく見、顧客の要求を聞き出すことによってのみ可能。
◯魂の入った計画書(魂と仏の関係)
・社長は、自らの経営理念に基づく、我が社の未来像を持っているはず。その未来像をどのようにして実現するかという基本的な行動方針が方針書。「方針書の作成」は、必ず社長自らが筆を取って書くということを要求する。
・方針書の3つの要件
①我が社の将来に関するものであること
②社長の姿勢を示すものであること
③具体的であること(箇条書きが良い)
・方針書に書く具体的なこと
①基本方針
②商品に関する方針
③得意先に関する方針
④販売促進の方針
⑤未来事業に関する方針
⑥内部体制整備の方針
・この方針書に基づき、決めなければならない3つのこと
①目標貸借対照表
②利益計画
③資金運用計画
◯経営計画書の記入
・まず記入するのは経常利益。社長は自らの意思で決めれば良い。いくらが妥当であるか、というようなことを考えるのは全くの無駄。あるのは、社長ただ一人の意思。その決意に基づく利益目標を達成するには、どのような数字を手に入れなければならないのかということを明らかにするのが利益計画。
・経常利益が決まったら、あとは次々と逆算していく。営業利益、一般管理費・販売費を順に見積もっていく。
・総合チェックとして「損益分岐点」「一人当たり粗利益」「一人当たり経常利益」「労働分配率」を活用。
◯販売計画
・利益計画ではわからない売上の難しさを嫌というほど思い知らされる。社長は頭をフル回転させて不足する売上をどうして埋めるかを考えざるを得なくなる。「この不足をどうして埋めるか」が本当の意味での販売計画であり、これが利益計画に通ずる。
・この時に突破口となるものが、社長が得意先を回って手に入れた情報。社長が顧客のことを、自らの目と耳と肌で知っていなければ、本物の販売計画を作ることは不可能。
◯長期計画
・「我が社の将来はこうなるだろう」という予測でもなければ、可能性を示したものでもない。「我が社はこのようにならなければならない」という社長の決意を示したもの。
・「優れた我が社の未来を築くために、現在何をしなければならないか」という設問がなされ、その答えを出さなければならない。「我が社の未来のための現在の決定」こそ、長期計画の真の目的。
・短期計画と長期計画は性格が違う。短期計画は「今日の行動」の基準。長期計画は我が社の未来像に関することであって、「将来に関する現在の決定」。短期計画は変更せず、長期計画は前向きに変更することこそ、正しい態度。
本書は、一冊13,000円(税別)しますが、発行元の日本経営合理化協会に登録(無料)すれば、同協会のホームページで一冊11,000円(税別)で購入することができます。高額な書籍ですが、非常に参考になるので、10冊読破に向けて、現在4冊目が終了するあたりを読んでいます。著者が気になる方は、まずは復刻版三部作から入っても良いと思います(こちらは、各1,980円)。