『一倉定の社長学シリーズ⑦』<社長の条件>(◯)
著者(1918−1999)は、経営指導歴35年、我が国の経営コンサルタントの第一人者で、大中小約5,000社を指導。本書は、著者の社長学シリーズ(10冊)の第七弾「社長の条件」。昭和52年の作品です。前半が社長学編として社長の役割について、後半が人間社長学編として社長の人間性についてフォーカスが当てられた二本立ての構成となっています。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯ある事例からの学び(教訓)
①能率主義に会社を発展させる力はない。会社を発展させるのは、収益性の良い製品を売るという効率主義である。
②効率主義に必要なものは、営業活動である。
③効率主義に大切なものは、価格政策である。
・我々は、能率の力の限界をよくわきまえておかなければならない。能率は重要である。しかし、会社を発展させる力はない。あるのは、会社の業績低下のスピードを遅くするだけである。
・「能率から関心を遠ざけ、効率に関心の焦点を集めよ」。収益性の良い製品を探し出して、これを採り入れ、収益性の悪い製品を非常に捨てていくという効率主義こそ、本当に会社を発展させる道。これこそ経営者の第一の心構え。
◯効率化のための価格政策
・商品の本来の価値に対応する価格より高く売れば暴利であり、安く売れば安売りであって、原価とは無関係であり、従って、適正利益率なるものは元々存在しない。元々存在しないものを、存在するかの如く思い込んでしまうところに混乱の元がある。
◯情報量
・経営者として(幹部も全く同じ)、大切なことは、「これさえ見ておれば対局を見誤ることはない」という情報・・・最小限の情報だけを見ているという態度。つまり、「ツボを押さえる」こと。
◯いくらの利益が必要か
・利益とは、会社を発展させるために必要な「費用」。利益という名の必要経費。危険に耐え、ピンチに対処することができるのは、利益あっての話。占有率を維持するためのいろいろの投資も、利益がなければできないし、増資も銀行からの借金も、利益がなければ不可能だ。
・厳しい現実は、我々があげうる最大の利益よりも、どうしてもあげなければならない最小限利益の方が、はるかに大きいこと。この不可能を可能に変えなければならない。
◯社長とは決定を下す人
・決定で最も積極性を要し、難しいのは「捨て去る」という決定。陳腐化した製品を捨て、魅力の薄れたサービスを捨て、そして何よりも大切なのは既成概念を捨てること。
◯部下に無理をさせる
・無理があろうとなかろうと、やるだけの仕事はやらなければならないのが現実。いかに無理であろうと、これだけの仕事をこなさなければやっていけないということを、よくよく部下に説明し、納得させ、部下と一緒になって、死に物狂いで努力しなければならない。
・「部下に無理を言ってはいけない」というのは、遊戯の理論であって、企業戦争の理論ではない。
◯摩擦なき企業の危険
・経営者の第一の、そして最大の関心は、常に外部情勢の変化であり、お客の要求の変化でなければならない。それらの変化を見つけ出し、それが自社にどのような影響を及ぼすか、その影響にどのように対処しなければならないか、を決めていかなければならない。
・企業体内に良好な人間関係が維持されているということは、その企業体において革新が行われていない実証である。ということは、生き残るために死に物狂いの努力がないことであり、企業が倒産に向かって爆進している姿そのものなのである。企業において最も危険な状態は、摩擦があることではなくて、実は良好な人間関係が維持されていることなのである。
一見、逆説的に見えるところに本質がある。また良かれと思ってやっていることに、実は穴がある、ということに気付かされる内容です。もし、現代に著者が生きていらっしゃったら、なんとおっしゃ他であろうと本書を読みながら想像してみることで、いろいろな気づきが得られる内容でした。
本書は、一冊13,000円(税別)しますが、発行元の日本経営合理化協会に登録(無料)すれば、同協会のホームページで一冊11,000円(税別)で購入することができます。高額な書籍ですが、非常に参考になるので、10冊読破に向けて、現在4冊目が終了するあたりを読んでいます。著者が気になる方は、まずは復刻版三部作から入っても良いと思います(こちらは、各1,980円)。