MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

ゆがめられた目標管理(一倉定)

『ゆがめられた目標管理』(一倉定)(◯)

 著者(1918-1999)は、「日本のドラッカー」と呼ばれた経営コンサルタントで、約1万社の企業を指導してこられました。机上の理論や知識に異論を唱え、競争社会で企業が生き残るために本当に必要な実務の観点から物申される視点が素晴らしく、経営者及び経営者を補佐する経営陣の方に読んでもらいたい一冊です。私にとってもしばらく探求を続けたい著者です。

 本書は、復刻版3冊のうち2作目。昭和44年の作品です。テーマは目標管理。「企業は放っておけば赤字になり、倒産するようにできている」「目標は上司の決意であり、チェックは執念の表れである」。生きるための目標を立てることの現実を示した一冊です。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯自主設定では客観情勢に対応できない

・目標管理では、「客観情勢の変化に対応する」と言いながら、一方では個人の自主的な意志に基づいて設定するという。こんな器用なことができるわけがない。そもそも企業体の人々の関心は、企業体の内部に向けられているのが普通。つまり自分に与えられた職務の遂行。

・客観情勢の変化を見極めて、それらを自らの企業に結びつけ、我が社はどうすべきか、その中で自分は何をすれば良いかを考えられるほど広い視野を持ち、高い次元でものを考えられる人は、トップ層と、それに近いごく少数の人々のみに望めるだけ。

・「自ら目標を立てよ」と言ってみても、それは自分に与えられた仕事についての目標が立てられるだけであって、客観情勢に対応する目標が立てられるものではない。そのような目標を全社で立ててみても、それは「全社の個人目標の合計」ではあっても、「企業の目標」とは、まったく別のもの。

・こうした矛盾が生じるものだから、「上司が期待する目標を、あらかじめその人に示す」とか、「立案は各人にさせるが、決定は上司が行う」というような、苦しいこじつけが行われるのである。

・事業の目標とは何か、それをどのように理解すべきか、それを目標管理と具体的にどう関連させたらいいのか、ということこそ、実は目標管理にとって根本的な問い。

 

◯企業の目標は生き残るための条件が基礎

・目標を設定するということは、客観情勢の変化に対応し、その圧力に耐え、これを跳ね返すための会社の決意を固めるということ。客観情勢の圧力が、目標という形をとって、我々の上にのしかかってくる。だから目標は圧力。目標を達成しなければ企業は押し潰されるのであるから、これはどうしても達成しなければならない「ノルマ」なのである。

・「圧力として感じさせてはいけない」とか「ノルマではない」というようなことは、目標の何たるかを知らないものの寝言であるだけでなく、実は会社を潰す危険思想。

・「上司が押し付ける」のではない。「客観情勢が上司を通して圧力をかける」。企業の目標とは、「生きるための条件」が基礎になっている限り、これは問答無用。無理であるとかないとか、実現可能であるとかないとかいう議論は、一切成り立たない。

・目標について議論があるとすれば、それは無理であるかないかではなくて、目標それ自体が生き残るための条件として適切なものであるかどうかということ。

 

◯必要最小限の目標

・厳しい現実は、「これだけはどうしてもやらなくてはならない最小限の事柄」の方が、「出来うる最大限度の事柄」より大きい。「企業があげうる最大の利益」は「企業がどうしても必要とする最小限の利益」よりはるかに少ないのが常態。

・ここに最大限主義の恐ろしさがある。あげられた最大限の成果という自己満足で、最小限必要なギリギリの成果が忘れられてしまうから。だから我々の関心は常に「あげられる最大限」ではなくて、「どうしても必要な最小限」でなければならない。

 

◯目標はワンマン決定でなければならない

・もともと目標は客観情勢に基づき、それにトップの意図が上乗せされる。客観情勢について一番知っているのがトップで、下に行くほど知らない。客観情勢に基づいて設定する目標を、客観情勢に暗い部下に聞いて何になる。病気の治療法を素人に聞くようなもの。

・だいいち、部下に相談しなければ、決定のできないようなトップや幹部こそ大問題。部下に聞かなければならないのは、目標達成のための具体策。目標の決定と、決定を実施するための具体策の相談を混同してはいけない。

・ワンマン決定とはいえ、その前に部下の意見をくことは良い。会議で検討するのも良い。しかし、最後の決定は、あくまでもワンマンの意志によって決定される。「ワンマン決定」と「ワンマンコントロール」は違う。決定はワンマン、実施は任せる。これが本当のトップ。

 

 本書を読むと、目標管理の厳しさを感じます。綺麗事ではない厳しい現実への自覚とその中でも会社を存続させていくという取り組みは、やはり経営者(または経営者と同志の経営陣)でなければ決められない世界かもしれません。外部環境に対して自社はどう在らねばならないのか。社内の意見を聞いて折り合った目標は、社会では役に立たないという点は、好き嫌いではなく、それが現実。その経営の実際の厳しさをずばっと指摘するところに、一倉経営が受け入れられる良さがあるのだと思います。