『一倉定の社長学シリーズ⑩』(一倉定)<新・社長の姿勢>(◯)
著者(1918−1999)は、経営指導歴35年、我が国の経営コンサルタントの第一人者で、大中小約5,000社を指導。本書は、著者の社長学シリーズ(10冊)の最終巻「経営の思いがけないコツ」。
こちらは、第一巻〜第九巻の総まとめ的な位置付けになります。したがって、シリーズの中で一冊読むならコレと言えます。1997年出版。
このシリーズ、お高いですが、内容は相当良かったです。仕事柄30年近く中小企業金融・中小企業経営に関わってきましたが、実務で使えるまさに実学書です。特に、MBAなどの経営書ではカバーしていない領域や一般の経営書では陥りそうな罠について触れられているところに価値があるように思います。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯第一章:事業経営とは「市場活動」である
・とにかく最終購買されている場所を訪問すること。製造業なら小売店を回ること。問屋ではない。良い商品を出せば、あとは売れるだろう、問屋が販売してくれるというのは「天動説」と同じ発想。
・小売店を訪問を社長一人だけで行うこと。あらかじめ商社や問屋に小売店訪問の目的を話し、了解を取り付けておくほうが良い。
◯第二章:事業の成果はお客様から得られる
・会社に出勤しても、そのほとんどの時間を社内で過ごす。この人々を「穴熊社長」という。穴の出入口から見える外部の景色しか知らない。全くの世間知らず。
・初心者の社長と先輩社長の最も大きな違いは、一つはお客様訪問回数であり、もうひとつは、その素晴らしい自信と柔軟な頭脳。
・クレーム処理の方針を経営計画書には必ず載せること。基本方針に載せるよう指導している最重要事項とは、①お客様第一主義、②環境整備、③お客様訪問、④クレーム処理
・クレーム処理の方針には、絶対に外せない4つの重要な点
①すべての業務に最優先する
②言い訳は絶対不可
③費用無視、復元最優先
④クレームの責任を追及せず、クレーム不報告の責任を厳重に追及する
◯第三章:環境整備という強力な武器
・環境整備とは、規律、清潔、整頓、安全、衛生。
・規律とは行動ではなく心構え。その心構えとは、決められたことを守る、指示や命令は必ず実行する。
・清潔とは、いらないものを捨てる、いるものを捨てない。
・整頓とは、ものの置き場と置き方を決める、管理責任者を決めて表示する。
・社長は一ヶ月に一日はからなず自ら点検して回らなければならない。
・仕事の時間を大きく食ってしまうと心配する向きがあるかもしれないが、実際にやってみると、生産性が20〜30%も上昇するという、考えられない結果が生まれてくる。
◯第四章:社長は決定する人である
・グループというものは、政策を決定することはできる。だが政策を実施するのはあくまでも個人。経営を行うのはあくまで個人であってグループではない。
◯第五章:経営計画をたてる
・目標は、事業の経営に必要なさまざまな活動について設定されなければならない。
・主なものとして、市場の地位、利益、革新、生産性、人的資源、物的資源、資金、社員の処遇があげられる。
・事業とは、利益が最大になるように行動するという経済学の理論は、あくまでも経済学のものであって、経営学の理論ではない。企業があげられる最大利益は、企業が必要とする最小利益より少ない。
・一倉式の考え方は「3年間売上が横ばいでも、3年目で赤字転落しない額」。3年を考えて、その第一年目の経常利益で、2年目と3年目の人件費と経費と物価上昇分を賄える額×安全係数」
・過去は確認するもの。それは我が社の位置を知ることだから。目標は生き残るためのもの。だから、「生き残るための条件とは何か」が最大の設問。その目標は過去の実績から見たら、達成不可能な場合が非常に多い。それを不可能だと言ってしまったら、会社は潰れる。
◯第六章:資金に強くなる
・資金繰りは、資金収支の時系列計算。資金運用は、期末における資金構造を計画する断面計算。すなわち、期末断面で、どのような勘定科目に、いくらの資金を配分するかという計画、あるいは計算。
・会社を存続させるには、どうしたら良いか。それは支払い手形を発行しないということ。
◯第七章:販売戦略の決め手
・ランチェスターの法則。大消費地を狙うな、敵の近いところに近寄るな。
・ランチェスター戦略とは、市場を細分化し、優先順位w決め、これに従ってひとつひとつのテリトリーまたはチャネルに、敵に勝る戦力を投入することにより、その地域またはチャネルの占有率を高めてゆく戦略。
◯第八章:会社内部の最小限管理
・販売部門を別会社として独立させる危険。お客様の要求が販売会社で止められて、製造会社には伝わらない。新入社員は別々に入社し、数年経つとお互いに知り合いが少なくなってかつての会社とは別の会社になってしまう。
・人材というものは、作ろうとして作れるものではない。社長の死に物狂いの努力を見て、これを真似しているうちに、自然に人材が生まれてくる。
◯第九章:コンピュータに使われるな
・コンピュータにどんな計算をさせるかは、人間が命令しなければならない。言い換えると、コンピュータにできることは、すべて人間にできる。ただコンピュータに比較すると時間がかかり、不器用で間違えやすいだけ。
・経営者がどうしたらいいか分からないから、コンピュータに決定してもらおうということはできない。
これでシリーズ全10巻を読み終えたのですが、一冊あたりが高いので、なかなか手が出ないと思いますが、長年にわたり数多くの中小企業の経営者と接し、事業について対話を続けてきた身としては、とても素晴らしいシリーズであり、費用対効果はあると感じました。
学問ではなく実学として、実際の経営に使えるノウハウが満載の本シリーズ。このシリーズで勉強会ができたらおもしろそうだなと思える内容です(参加者は全員読んでいる前提ですが)。