『マネジメント脳VSマーケティング脳』(アル・ライズ、ローラ・ライズ)(◯)<2回目>
著者は、フィリップ・コトラーと並ぶ世界屈指のマーケティング戦略家。『売れるもマーケ、当たるもマーケ』『フォーカス』『ポジショニング』など名著揃いで、私もとても好きな方ですが、本書もホント素晴らしい気づきを与える内容です。マネジメント脳(左脳)とマーケティング脳(右脳)は常に相反するもの。マーケティングの実務を通して、理屈は正しいが実際にうまくいくマーケティングではない。
一方で、経営者をはじめとした会社の意思決定者は論理的に正しい方を選ぶため、右脳的な発想は採用されないことがほとんど。この2項対立を25のテーマで解説したのが本書です。特に左脳派、経営者層の方には注意点を理解するためにもお勧めの一冊です。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯序章:ビロードの厚い膜
・左脳タイプである経営者は、まず事業の拡大を図ろうと言う。
・右脳タイプであるマーケティングの人間は、的を絞ることから始める。消費者の心に刻まれるようなはっきりとした独自色を打ち出せなくては、ブランドを築くことはできない。そのためには、市場を支配できそうなひとつのサービスに特化するとか、自分たちの持っている特徴の一つを際立たせるとかいう方法が、最も効果的であることが多い。
◯25の論点
①マネジメントは「現実」に取り組む、マーケティングは「認識」に取り組む
・マネジメント:経験的に妥当と思える方法を取ろうとする。
②マネジメントは商品に力を注ぐ、マーケティングはブランドに力を注ぐ
・マネジメント:最後には製品がものをいう。
・マーケティング:良い製品が売れるとは限らない。カギは買い手の心の中に存在する。
③マネジメントはブランドを保とうとする、マーケティングはカテゴリーを持とうとする
・カテゴリーを支配することが、マーケティングの最大の目的。
④マネジメントはより良い商品を求める、マーケティングは他とは違う商品を求める
・マネジメントはより良い商品をより効率的に、より安いコストで作ろうとする。そのこと自体は間違ってはいないが、それは市場の覇権を握る方法ではない。
⑤マネジメントはフルラインナップを好む、マーケティングはラインナップを絞る
・マーケティングの計画においては、売ることは第二段階。第一段階は、消費者にブランドを覚えてもらうこと。フルラインナップではそれが難しくなる。
⑥マネジメントはブランドの拡大を図る、マーケティングはブランドの縮小を図る
・マネジメント:成長を第一目標に掲げる。
・マーケティング:売上げより利益を伸ばすべきであり、そのためにはブランドの拡大ではなく、ブランドの縮小を図る必要があると考える。簡潔な言葉で説明できないブランドには、マーケティング上重大な問題がある。
⑦マネジメントはファースト・ムーバー(先行者利益)を目指す、マーケティングはファースト・マインダーを目指す
・新しいカテゴリーにおいては、最初に消費者の心に入り込んだブランドが必ずと言っていいほど勝利を収めている。
⑧マネジメントはビッグバンを期待する、マーケティングはスロースタートを予想する
・アイデアが革新的であればあるほど、消費者に受け入れられるまでに長い時間がかかる。
⑨マネジメントは市場の中央を狙う、マーケティングは両極のどちらかを狙う
・マネジメント:市場の真ん中(スイートスポット)に向けて商品やサービスを売ればいいと考える。
・マーケティング:どの業界においても、泥沼の中間市場は避けなくてはならない。
⑩マネジメントはすべてを詰め込もうとする、マーケティングは視覚的な表現を使う
・消費者が買うのは、位置付けのはっきりした商品。実際には最高ではなくても、そう思われていることが重要。
⑪マネジメントは抽象的な言葉を使う、マーケティングは視覚的な表現を使う
・マネジメント:言語思考なので抽象的なものに引かれやすい
・マーケティング:視覚思考なので具体的なスローガンを好む。凝った表現は使わない。使うのは視覚化しやすいシンプルな言葉。釘とハンマー。釘は言葉、ハンマーは視覚イメージ。
⑫マネジメントはブランドをひとつにしようとする、マーケティングはブランドの数を増やそうとする
・中核事業以外の商品やサービスに自社名を使ったときには、大きなチャンスを逸している。
⑬マネジメントは才気を重視、マーケティングは実績を重視
・マーケティング大切なのは、一貫性を保つことと、実績を示すこと。
⑭マネジメントはダブルブランド派、マーケティングはシングルブランド派
・消費者はダブルブランドとシングルブランドのどちらか一方を選ぶときには、必ずシングルブランドを選ぶ。
⑮マネジメントは永遠の成長を目指す、マーケティングは市場の成熟に備え
・経営者は短期思考だから永遠の成長などという不可能さに気づけない。この現実を金と理解することから始まるのがマーケティングの発想。
⑯マネジメントは新しいカテゴリーをつぶす、マーケティングは新しいカテゴリーを生み出す
・単一のカテゴリーにしておくと、トップブランドである自分たちが、長くカテゴリーの支配者であり続けるというのが経営者の発想。
⑰マネジメントは情報を伝えようとする、マーケティングはポジションを獲得しようとする
・良いものを売りさえすれば、良い評判は後から自ずとついてくると、マネジメントタイプは考える。しかし、実際にそういうことは滅多にない。
⑱マネジメントは顧客を一生手放すまいとする、マーケティングは顧客を短期間で手放すことを厭わない
・ブランドを強化するためには、常に新たな土地を開拓しようというのではなく、すでにある土地を肥沃にしようという努力が必要。消費者は年を重ね裕福になるにつれ、地位にふさわしいブランドに乗り換えようとする。ブランドはそういう消費者の「出世」を追いかけるべきではない。放っておくべきだ。
⑲マネジメントは割引券とセールスが大好き、マーケティングはそれらが大嫌い
・割引券で商品を支えられるのは、本当の戦略が見つかるまでの当面の間だけ。
・左脳タイプの経営者は、割引券を戦略と考える。右脳タイプのマーケターは割引券を補助手段と考える。
⑳マネジメントはライバルのまねをする、マーケティングはライバルの反対を狙う
・ライバルの真似をするより、その反対のやり方にこそ、チャンスはある。
㉑マネジメントは名称の変更を嫌う、マーケティングは名称の変更を厭わない
・肝心なのは、商品やサービスや価格そのものではなく、それらが消費者にどう認識されるかだ。名前が悪ければ、いい認識のされ方はしない。
㉒マネジメントは絶えざるイノベーションに必死、マーケティングはひとつのイノベーションで満足
・ブランドの信頼は、一貫性によって築かれる。イノベーションは戦略ではない。あくまでマーケティング戦略のもとで使われる戦術のひとつ。
㉓マネジメントはマルチメディアを礼賛、マーケティングはマルチメディアに懐疑的
・マネジメント:チャンスに見える
・マーケティング:焦点を失うことにしかならない
㉔マネジメントは短期的にものごとを見る、マーケティングは長期的にものごとを見る
・どんなことも一歩後退、二歩前進が原則
・原則として、マーケティングは長期的な計画であり、そこでは新しい戦略が身を結ぶまでに長い年月を要することもある。
㉕マネジメントは常識を拠りどころにする、マーケティングはマーケティングの感覚を拠りどころにする
・マーケティングのアイデアは、概念的に難しい。なぜなら、常識とは相容れないから。マーケティングは消費者の認識を変えることを目的にしているので、一筋縄ではいかない。
左脳と右脳の対立論。マーケティングに関わらず、クリエイティブな仕事のマネジメントやコミュニケーションにおいても起こりがちです。この壁を越えるには、双方の歩み寄りが必要。マーケティング脳のアイデアを受け入れてもらうためには、マーケティングの言葉ではなくマネジメントの言葉を使うこと。対局的なコンセプトを説くには分析結果を交えること、裏付けとなる事実や数字や市場シェアなどを示すこと。こうした相互理解が進むことで、感性を生かした経営ができ、他者との差別化にもつながるのだと思います。