『呻吟語』(呂新吾)
本書は、中国の明の時代の高級官僚であった呂新吾が著した、人間はどうあるべきか、人生をどう生きるべきかなど、我々にとって切実な問題を様々な角度から解き明かした古典的名著です。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯沈着で深みのある人物
・第一等の人格。しかし、深みがあるほど周りから見てわかりにくくなる。そうならないためにも必要とされるのが、「わかりやすさ」。
・深沈厚重は第一等の資質。積極的で細事にこだわらない人物は第二等の資質。頭が切れて弁の立つ人物は第三等の資質にすぎない。
◯心の中から「偽」を取り除く
・心から人々のために尽くしていても、感謝を期待する気持ちが少しでも雑(ま)じっていれば、それは「偽」である。
・心から善を行っていても、それを他人に知られたいという気持ちが少しでも雑(ま)じっていれば、これも「偽」である。
・道理の上からいって完全に実行しなければならないのに、いささかでも満足できない部分が残っていたのでは、これもまた「偽」である。
・昼間することはことごとく善であっても、夢の中で悪を働いていたのでは、これもまた「偽」である。
・心では9割しか達成しないと思っているのに、外に向かって十割成し遂げたように見せかけるのは、これもまた「偽」である。
◯人間関係に対処する心構え
・自分の長所は、なるべくひけらかさない。そうすれば、懐の深い人間になることができる。
・他人の短所は、できるだけあばかない。そうすれば、器の大きい人間になることができる。
◯「隔」の一字によって怨みや離反を招く
・隔の一字は、人情の大患なり。分け隔てすることは、甚だしく人情に反している。だから、君子、親子、夫婦、朋友、上下の関係においては、つとめて「隔」を取り除かなければならない。この「隔」の字によって、怨みや離反を招かなかった例は、古来から一つもない。
◯「静」は三つの教えに共通している
・儒教、道教、仏教、この三つの教えの根本は、要するに「静」の一字に尽きる。いずれも出発点は欲望を押さえ込むことにあり、帰着するところは無欲にある。これは、三つの教えに共通している点だ。
◯本物ほど分かりやすい
・道を深く体得している人物ほど、語ることがわかりやすい。難しいことを言う人間は、道を体得することがまだ浅い。
◯責任感、襟度、修養、見識
・大きな事件や困難な事件にぶつかったときに、どの程度の責任感を持っているかがわかる。
・逆境や順境にあるときに、どの程度の襟度を持っているかがわかる。
・喜びや怒りに心がふるえるときに、どの程度の修養を積んできたかがわかる。
・集団で行動しているときに、どの程度の見識を持っているかがわかる。
◯切れ味は内に秘める
・鋭い切れ味は、十分に磨いておかなければならない。ただし、切れ味は内に秘めて、おっとりと構えている必要がある。昔から、禍をこうむるのは、10人のうち9人が切れる人物であった。おっとりした人物で禍をこうむった者は一人もいない。ところが近頃の人間は、ひたすら切れ味の鈍さだけを心配している。これは愚か者以外のなにものでもない。
◯4つの欲望と戦う
・財貨、色欲、名誉、地位、この4つは、相手の人物を判断するうえで、重要な決め手になる。昔から人間を磨いた人々は、この4つの欲望と戦うことによって修養を積んだ。くれぐれも軽く考えてはならない。
◯智愚、禍福、貧富、毀誉の分かれ目
・智愚の分かれ目は、他でもない、本を読むか読まないかにある。
・禍福の分かれ目は、他でもない、善を実行するかしないかにある。
・貧富の分かれ目は、他でもない、勤勉であるかいないかにある。
・毀誉の分かれ目は、他でもない、思いやりがあるかないかにある。
◯最も大きな過ち
・人間の一生の中で最も大きな過ちは、自分を肯定し、自分を弁護すること。
◯人を責めないこと、人を理解すること
・人を責めない、これが自分を向上させる第一のポイント。
・人を理解する、これが自分の器を大きくする第一のポイント。
◯仕事を成し遂げる4つの条件
①十分に考えをめぐらして慎重に対処すること
②意欲を燃やして全力でぶつかっていくこと
③着実に前進をはかり、中途で投げ出さないこと
④細心を旨とし、こまかく気を配ること
◯相手に忠告するときの心得
①相手がどんな人間であるかを確かめてかからなければならない。
②相手の長所を引き出し、短所を矯正するようなやり方で対処しなければならない。
③相手が嫌がっていることは指摘すべきでない。
④相手の欠点を数え立ててはならない。
⑤相手に逆らってはならない。
⑥つっけんどんな言い方をしてはならない。
⑦くどくどお説教してはならない。
⑧同じことを繰り返してはならない。
◯人と争わないこと
・私は50歳になってから、五項目にわたって、人と争わないことの妙味を悟ることができた。そのことについて、ある人から尋ねられたので、こう答えた。
①資産を蓄えている人とは、富を争わない。
②巧妙にはやる人とは、地位を争わない。
③上部を飾る人とは、名声を争わない。
④おごり高ぶっている人とは、礼節を争わない。
⑤感情的な人とは、是非を争わない。
◯多難な時になると
・平穏無事なときには、大勢の小人が混じっていても、識別することができない。
・多事多難なときになって、初めて君子の存在を確認できる。
東洋哲学、人間学は、人としてあるべき自分の理想像を描きなおしたり、内省したり、一度俯瞰的に物事を整理したり、いろいろな局面で役立つと思います。本書も長く読み続けられている名著であり、示唆の多い一冊でした。