MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

思考の整理学(外山滋比古)

『思考の整理学』(外山滋比古)(◯)<2回目>

 1983年に発売されたロングセラー本です。久しぶりに読み返しましたが、読み手の思考が刺激される良書でした。著者の本をかなり読んでから読み返してみると1冊で多くの切り口から問題提起をしながら自身の考え方を示していくスタイルは一貫しているなぁと感じました。本書はその原点にあたる一冊で、主に、教えている大学生を見ながら感じることを中心に記載されています。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯グライダー

・生徒は先生と生徒に引っ張られて勉強する。独力で知識を得るのではない。グライダーのように、自力では飛び上がることはできない。

・学校はグライダー人間の訓練所である。飛行機人間は作らない。グライダーの練習に、エンジンのついた飛行機などが混じっていては迷惑する。危険だ。

・学校では、引っ張られるままに、どこへでもついていく従順さが尊重される。優等生はグライダーとして優秀なのである。飛べそうではないが、ひとつ飛んでみろ、などと言われても困る。指導するものがあってのグライダーなのである。

・いわゆる成績のいい学生ほど、論文に手こずるようだ。言われた通りのことをするのは得意だが、自分で考えてテーマを持てと言われるのは苦手である。

 

◯寝させる

・どうして「一晩寝て」からいい考えが浮かぶのか、よくわからない。ただ、どうやら、問題から答えが出るまでには時間がかかるということらしい。その間、ずっと考え続けていてはかえってよろしくない。しばらくそっとしておく。すると考えが凝固する。それには寝ている時間がいいのだろう。

・”朝から晩まで、ずっと考え続けた”というようなことを言う人がある。いかにもよく考えたようだが、その実は、すっきりした見方ができなくなってしまっていることが多い。こだわりができる。対局を見失って、枝葉に走って混乱することになりかねない。

・外国に”見つめるナベは煮えにくい”と言う諺がある。早く煮えないか、早く煮えないかと、絶えずナベのフタを取っていては、いつまでたっても煮えない。あまり注意しすぎては、かえって、結果がよろしくない。しばらく放っておく時間が必要だということを教えたものである。

 

◯エディターシップ

・全体は部分の総和にあらず。独立していた表現が、より大きな全体の一部となると、性格が変わる。上手に編集すれば、部分の総和よりはるかにおもしろい全体の効果が出る。

・頭の中でカクテルを作るには、自分自身がどれくらい独創的であるかはさして問題ではない。持っている知識をいかなる組み合わせでどういう順序に並べるかが緊要事となるのである。

 

セレンディピティ

・行きがけの駄賃のようにして生まれる発見、発明のこと。

・中心的関心よりも、むしろ、周辺的関心の方が活発に働くのではないかと考えさせるのがセレンディピティ現象である。視野の中央部にあることは、最も良く見えるはずである。ところが皮肉にも、見えているはずなのに、見えていないことが少なくない。”見つめるナベは煮えない”は、それを別の角度から言ったものである。

 

積ん読

・関心がものを言う。メモやノートを取らなくても、興味のあることはそんなに簡単に忘れるものではない。忘れるのは、関心のない何よりの証拠である。知りたいと言う気持ちが強ければ、頭の中のノートに書き込めば、なかなか消えない。

・かりに、関連文献が10冊あるとする。これを1冊1冊読んでいく。3冊目くらいから、互いに重複するところが出てくる。そうすると、これが常識化した事柄、あるいは定説となっているらしいと見当がつく。前の本と逆の考え方や知識が現れれば、ここでは諸説が分かれているのだとわかる。

・初めの1冊が最も時間を食う。従ってまず標準的なものから読むようにする。同じ問題についての本をたくさん読めば、後になるほど、読まなくてもわかる部分が多くなる。最初の1冊に3日かかったとしても、10冊で30日、などという計算にはならない。一気に読み上げるのは、案外、効率的である。

 

◯整理

・倉庫としての頭にとっては、忘却は敵である。博識は学問のある証拠であった。ところがこういう人間頭脳にとって恐るべき敵が現れた。コンピュータである。ようやく創造的人間ということが問題になってきた。

・倉庫にだって整理は欠かせないが、それはあるものを順序よく並べる整理である。それに対して、工場内の整理は、作業の邪魔になるものを取り除く整理である。

・コンピュータには倉庫に専念させ、人間の頭は、知的工場に重点を置くようにするのがこれからの方向でなくてはならない。それには、忘れることに対する偏見を改めなくてはならない。

 

◯テーマと題名

・長く説明しなければならないほど、考えが未整理なのである。よく考え抜かれてくれば、自ずから中心が絞られてくる。だいたい、修飾語を多くつけると、表現は弱くなる傾向を持っている。

・一般に、長い間、語り伝えられてきたおとぎ話などには、あまり形容詞がない。表現をギリギリに純化してくると、名詞に至る。まず、副詞が削られる。研究論文の題目、その他の題名に、副詞(きわめて、すみやかに、など)の用いられていることは例外的であろう。副詞の次には、形容詞もギリギリ必要なものでない限り、落とした方が、考えがスッキリする。削り削って、最後に名詞が残るというわけである。思考の整理は名詞を主とした題名ができたところで完成する。

 

 全部で33のテーマについて論じられている本書。含蓄があり、自問自答できるところが、自分の思考の整理につながるという点で、本書の題名ともピタリと符合しました。90代半ばにして、いまだに書籍を出版し続けられている著者からの学びは、不易流行につながるものがあります。それにしてもすごい方です。

思考の整理学 (ちくま文庫)

思考の整理学 (ちくま文庫)

 

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