『般若心経(NHK100分de名著ブックス)』(佐々木閑)
本書は、NHK100分de名著シリーズです。『般若心経』の作者は、釈迦の死から500年以上経って現れた「大乗仏教」という新しい宗教活動を信奉する人たちの中にいる。釈迦の教えを部分的に受け継ぎながらも、そこに全く別の解釈を加えて「般若経」と呼ばれる一連のお経を作った。その中の一つ、「般若心経」について、まとめられた1冊です。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯五蘊(ごうん)
「照見五蘊皆空」(五蘊があり、そしてそれらの本質が空であるとみた)。つまり、五蘊は全部錯覚だ。実体のないものだ。
①色:我々をなしているものの外側の要素すべて
②受:下界からの刺激を感じ取る感受の働き
③想:物事を様々に組み立てて考える構想作用
④行:何をしたいと考える意思の働きや、その他の心的作用
⑤織:心のあらゆる作用のベースとなる、認識する働き
◯十二処
・「我々は六種の認識器官で世界を認識している」と考える。
・釈迦はこの世界を細かく分類して考えた。
・釈迦が構築した世界観を「空」という概念を使うことによって無化し、それを超える形で、さらなる深遠な真理と新しい世界観を提示した。
(認識する側)↔︎(認識される側)
①眼↔︎⑦色 ⇨眼織
②耳↔︎⑧声 ⇨耳織
③鼻↔︎⑨香 ⇨鼻織
④舌↔︎⑩味 ⇨舌織
⑤身↔︎⑪触 ⇨身識
⑥意↔︎⑫法 ⇨意識
①諸行無常:この世の中の常であるものは何もなく、耐えず変化している。
・有為:因果によって生まれ出るすべてのもの
・無為:因果を離れた不変不滅のもの
②諸法無我
本来「これが私だ」と言えるような究極の事故などどこにも存在しない。
◯十二支縁起
・人の心に苦しみが生じるメカニズムを説明したもの。
・ゆえに心の修練を繰り返し、苦悩の根源となっている無明をとにかく滅しなさいと指導した。
①無明:一人間の煩悩のうち最大のもの。無知。
②行
③識
④名色
⑤六処
⑥触
⑦受
⑧愛
⑨取
⑩有
⑪生
⑫老死:おいて老衰し死ぬという絶えがたい苦悩
◯四諦(しだい)
①苦諦:この世はひたらすら苦である。一切皆苦。
②集諦:苦の原因は煩悩であるという真理
③滅諦:煩悩を消滅させれば、具が消えるという真理
④道諦:煩悩の照明を実現するための8つの道。
◯八正道(はっしょうどう)
①正見:正しいものの見方
②正思惟:正しい考え方を持つ
③正語:正しい言葉を語る
④正業:正しい行いをする
⑤正命:正しい生活を送る
⑥正精進:正しい努力をする
⑦正念:正しい自覚を持つ
⑧正定:正しい瞑想をする
◯輪廻
・命あるものは、この六(五)種類の領域の中でぐるぐると色々なものに生まれ変わっていく。
・善い事をすると人はその業の結果として楽しいところに生まれ変わり、悪い事をすれば、その業の結果として苦しい場所に生まれ変わる。どちらにしろ、業は私たちをどこか次の世界へ引っ張っていく。そしてそこでまた、「老い」と「病」と「死」の苦しみに悶えねばならない。たとえ、楽しい世界に生まれたとしても、やはりそこにも寿命があり、心身の衰えはあり、市の恐怖はある。輪廻することのない静寂の境地である涅槃を目指そう。それこそが真実の幸福へと向かう道。
①天:神々
②人:人間
③(阿修羅):悪しき神々
④畜生:牛馬などの動物
⑤餓鬼:飢餓などで苦しみ続ける生き物
⑥地獄:ひたすら苦しむ恐ろしい状態
◯釈迦の仏教と大乗仏教
①釈迦の仏教
・この世界の因果則は厳然たるものであって変えることは出来ない。だから、特別な努力をして自分の心のあり方の方を変えよう。それによって生きる苦しみに打ち勝っていこうと考えるのが釈迦の仏教。
・まず自己救済の「自利」があり、それが回り回って結果的に他者の救済、つまり「利他」に転じるという「自利→他利」の流れを基本構造として持っている。
・悟りに近づくためには、まず自分の煩悩を消す修行を必要と考える。
②大乗仏教
・自分を変えるのではなく、逆に世界の因果則の方を変えられるようにした。つまり、出家して修行に身を捧げなくても、業の因果則から解放されるアイデアを考案した。
・最初から「利他」をよしとして他人の救済に目を向ける。
・最初から人のために身を捧げることを奨励する。
仏教の世界は広く深いですが、心のあり方を整えるヒントが詰まっているので、いつかは深めたいと思っていた分野です(できれば通信制大学にでも入りたいくらいに)。100分シリーズは、そのさわりの部分をざっとつかむことができるのでとても便利です。