カラー大判の本書。真言宗の祖、空海(弘法大師)の生涯、関連する場所のカラー写真満載でざっくり「空海ってどんな人?」というのを掴むのに役立つ一冊です。空海に関する本を読み進めていますが、とっかかりの一冊としては、今のところ一番いいです。ゆかりの場所の写真があるだけで随分理解が進むものです。解説は、ポイント解説なので、深堀は他の本にて。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯超人
・空海は62年の生涯(774〜835年)の中で数えきれないほどの仕事をした。
・複雑で難解な密教の教えを完全な形で我が国に伝えた。
・東寺や金剛峯寺を送検して、日本の古い仏教界を刷新した。
・多くの詩文や書を著した芸術家でもあった。
・土木事業の指導者もした。
・庶民のための慈善事業を行った社会活動家でもあった。
◯使命を帯びて唐から帰国
・本来20年止まらなければいけない身分の留学僧だったが2年で帰国。20年の滞在費用のほとんど全てを使って膨大な請来品を購入した。
・空海が持ち帰った品々(『御請来目録』より)
①新訳の経典類:142部247巻
③論琉章(経典の注釈書):32部170巻
④仏・菩薩・金剛などの像、曼荼羅、彫刻など:10点
⑤法具:9種
⑥阿闍梨附属物:13種
①『理趣釈経』の貸与拒否
最澄は空海の持ち帰った経典を借りて筆写し『理趣釈経』の貸与も望んだが、空海は読んだだけでは学べるものではないと考えており、強い態度で謝絶した。
②弟子の泰範をめぐる問題
後継者と考えていた弟子を空海のもとに修行に出し、再三戻るように手紙を送ったが、空海は手紙を代筆し、最澄との宗教上の見解の違いと比叡山に帰る意思がないことを記した。
③密教に対する考え方の違い
最澄は、天台宗も密教も同じ大乗仏教なので優劣はないとしたが、空海は密教こそ全ての仏教の中で最上の教えであるとした。
◯空海の教え「十住心」
①異生羝羊心(宗教以前)
動物のように食欲と性欲を貪る無知の状態
②愚童持斎心(儒教)
愚かな子供の状態ではあるが、道徳心に目覚めた状態
③嬰童無畏心(道教・バラモン教)
信仰心が芽生え、心が安らいだ状態
④唯蘊無我心(小乗仏教(声聞乗))
世界は、色・受・想・行・識(五蘊)の融合であると悟り、無我を自覚する状態
⑤抜業因種心(小乗仏教(縁覚乗))
万物の因縁を知り、無明(無知)を断ち切ることのできる状態
⑥他縁大乗心(法相宗)
すべての人に慈悲心を持ち、救済しようとする状態
⑦覚心不生心(三論宗)
すべてが空であることを悟り、迷いがない状態
⑧一道無為心(天台宗)
あらゆる現象が清浄で、真実であることを悟る状態
⑨極無自性心(華厳宗)
あらゆる物事が対立せずに、真理であると悟る状態
⑩秘密荘厳心(真言密教)
永遠の真理に到達した究極の状態
◯空海の主な著作
①『三教指帰』(797年)
『聾瞽(ろうこ)指帰』を改訂。三教とは、儒教・道教・仏教を指し、登場人物の対話形式で仏教の優位性を説く。
②『御請来目録』(806)
唐留学の報告書。経典や仏具の目録のほか、密教と顕教の違いといった思想についても記されている。
③『梵字悉雲字母并釈義(ぼんじしったんじもならびにしゃくぎ)』(814年)
嵯峨天皇に献上した悉雲(凡字)の研究書。
④『弁顕密二教論』(815年)
顕教と密教の違いを明らかにし、密教の優位性を述べる。
⑤『吽字義』(うんじぎ)(817年ごろ)
「吽」(うん)という一字に真実の意味が秘蔵されていると説く。
⑥『般若心経秘鍵』(818年又は834年)
「般若心経」を密教の立場から解き明かす。
⑦『即身成仏義』(823〜824年)
顕教の三刧成仏に対して、密教の即身成仏の教義を説く。
⑧『声字実相義』(826年ごろ)
音声と文字はそのまま真理を表すと主張する。
⑨『秘密曼荼羅十住心論(十住心論)』(830年ごろ)
密教思想の集大成。悟りに至るまでの心の発達を十の段階にまとめたもの。
⑩『秘蔵宝鑰』(ひぞうほうやく)(830年ごろ)
「十住心論」の要旨をまとめたもの
⑪「遍照発揮性霊集』(835年ごろ)
弟子の真済がまとめた遺文集。
◯真言密教の主な教え
①即身成仏
すべての人間は生まれながらに仏性を備えている。この世のありとあらゆるものが大日如来の化身だからである。それゆえ、人間はその身のままで仏になることができると空海は説く。
②阿字観
・第1段階「数息観」
意識を呼吸に集中することによって精神を安定させることで、座禅やヨーガと同じものと考えて良い。
・第2段階「阿息観」
呼吸に際に大日如来の胎動を感じる。
⇨この2段階を経ると、己の中に満月が輝くイメージを浮かべる「月輪観」へと進む。その満月が大きく膨らみ、自分を包み込むようになったら、掛け軸の「阿字」にのみ意識を集中させ、最終段階の「阿字観」に至る。下界のありとあらゆるものと己が融合することを悟ることであり、人知を超えた存在・現象を知ることができるという。
③四度加行(しどけぎょう)
1)十八道法
2)金剛界法
3)胎蔵界法
4)護摩の法
⇨「十八道法」というのは18種類の印と真言の組み合わせによって仏尊との一体化を目指すもの。金剛界法と胎蔵界法は、それぞれ金剛界と胎蔵界にある諸仏の印と真言を用いることで大日如来との一体化を志向するもの。護摩の法とは大日如来の智慧の炎で煩悩を焼き尽くすための修法。
④三密加持
密教独自の瞑想法で、精神を一点に集中して行う。大日如来の身・口・意を三密と言い、それが修行者の身・口・意と感応して仏と修行者が一体化することを指す。加持は、仏の力で衆生を守ること。
頭ではわかりにくいところが多いですが、読んでいるうちになんとなくイメージができてきて、あとは体験の中でどう感じて自分のものにしていくか。難しい世界だけれど、奥深くて魅力的な世界観ではあります。