イチローの哲学(奥村幸治)
『イチローの哲学』(奥村幸治)
著者は、イチロー選手より1歳年上で、オリックスに打撃投手として入団し、その後イチロー選手の専属打撃投手となり、「イチローの恋人」としてマスコミに紹介された方です。本書は、2011年に発行されました。2001〜2010年まで10年連続200本安打を達成した翌年、イチロー選手38歳の頃になります。スーパースターを間近で見てきた著者だからこそわかる部分があり、それが知れるところに本書の価値があります。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯自分のルーティンを何よりも大切にする
・練習では、決まって最初はレフト方向へ流し打ちから始め、次にセンター方向に打ち返し、最後はライト方向に引っ張っていました。その日の気分によって「今日はライト打ちから始めよう」なんてことは絶対にありませんでした。これはイチローがルーティンを大切にしているからです。毎日同じことを繰り返していると、いつもと少しでも違う感覚があれば、すぐに気がつくことができます。
・するとフォームやスイングが崩れたときも、早い段階でそのことに気づきます。ごく微妙な修正で本来のバッティングに戻ることができます。だから大幅なバッティングフォームの改造や不要な練習に取り組まなくてもいいわけです。
・試合のある日には、毎日同じ時間に球場に入り、同じ内容の練習に取り組んでいました。その日の気分で練習メニューを変えるようなことはありません。自己管理が徹底しています。そんなイチローが出場機会が減ったからといって気持ちが切れて、試合に向けた準備をおろそかにしてしまうことがあるでしょうか。
◯イチローの目的設定
・イチローは当時から、目的意識が明確でない練習には決して取り組もうとはしませんでした。
◯スランプになると・・
・イチローは私んこんな話をしてくれました。「スランプになると急にバッティングフォームを変える選手は多いですよね。でもあれは今の状況が精神的に苦しいから、むやみにフォームを変えようとしているだけだと思うんです。その証拠に、フォームを変えて、また打てるようになると、みんな元のフォームに戻ります。それなら最初から、本来の自分のフォームで練習をしたほうがいいですよね」
・明確な目的があるわけではなく、焦りからくる練習をいくら重ねヒーロー も技術的な成長には結びつきません。だからイチローどがは、私が「試合後に残って投げようか」と声をかけても「その必要はありません」と断っていた。
◯「変化」ではなく「進化」
・あれこれと迷っていろいろなバッティングフォームを試すことを「変化」というのに対して「進化」とは自分の中に「こうなりたい」というイメージがあって、そのイメージに向けて自分を磨いていくことを言うのだと思います。
・イチローは、同じバッティング練習でも「何のための練習なのか」ということを常に明確に意識しているのだと思います。キャンプの時のバッティング練習は、目指すバッティングフォームに向けて自分を進化させたり、そのフォームを固めるための練習です。
◯夢は高く、でも目標は手の届くところに
・イチローの目標設定の特徴は、いきなり高い目標を自分に課さないことです。イチローは常々、「目標は、ちょっと頑張れば手が届くところに設定しなくてはダメなんですよ」と話していました。
・「いきなり高い目標を設定すると、その目標と今の自分とのギャップを目の当たりにすることになりますよね。すると『どんなに努力しても、これは自分にはとても無理だ』という気持ちの方が強くなって、意欲がどんどん低下していくんです。けれども『今の自分には無理だけど、ちょっと努力すれば達成できそうだ』という目標だったら、頑張ることができます。その結果目標を達成できたら、それが喜びや自信となって、もっと頑張ることができるんですよ」
・ただし、イチローは、夢や憧れについては高く持っていました。夢や憧れは、物事に取り組むときの強いモチベーションになります。だから夢や憧れはどんなに大きくても構いません。
◯スポーツ新聞は読まない
・イチローは自分が設定した目標に向かって、ブレることなく努力を継続することができる人です。イチローというと「強靭な精神力の持ち主」というイメージがあるかもしれません。しかし私から見るとイチローは、決して人並み外れて精神力が強いわけではないと思います。精神的に弱い部分もたくさんあります。むしろイチローがすごいのは、心に弱い部分があることを自分自身でちゃんと分かっていることです。そして、その弱い部分によって自分の心が揺れてしまわないように、しっかりとセルフマネジメントできていることです。
◯なぜイチローは打率より安打数を重視するのか
・打率を意識するとバッターは苦しくなります。なぜなら打率は毎日変動するからです。打率を機にすることはむやみに自分の心の状態を不安定にさせるようになります。それに比べて安打数は、一本一本の積み重ねです。増えていくことはあっても、へることはありません。バッターボックスに入ったときにはヒットを打つことだけに意識を集中することができます。その積み重ねの結果が200本安打になり、それを打席数で割ると打率になります。言い方を変えれば、打率は計算の結果でしかないのです。
私は、「好きな人物や憧れの人物は?」と聞かれると「イチロー選手」と答えています。結果にもプロセスにも強いこだわりや信念があって、毎日を丁寧に生きて、毎日積み重ねるものの質を高めていく取り組み姿勢がとても好きなポイントです。これまであまりイチロー選手の本を読んでこなかったのですが、「どういう考えで何を積み重ねていくのか」という点が気になり始めたこのタイミングでまとめて読んでみようかなと思い始めています。