『ブッダが説いたこと』(ワールポラ・ラーフラ著、今枝由郎訳)(◯)<2回目>
「人間は誰でも、決意と努力次第で仏陀になる可能性を秘めている」。最古の仏典に収められた仏陀の言葉のみに依拠して、仏教の基本的な教えを体系的に説いた一冊。仏陀が考えた究極真理を目指す実践の本質とは何か?岩波文庫の本は良書が多いのですが、本書は読みやすさという点でも優れていて、とっつきやすい一冊だと思います。
【本書の学び】
①教えは筏のようなもので、保持して持ち運ぶようなものではない(その時々に使って置いていくもの)
②真実に名称はない。人間はものを識別しようとする傾向が強い。
③私とは5つの集合要素。1)物質、2)感覚、3)識別、4)意志、5)意識。これらは全て移ろう(=ドゥッガ)。「執着の5要素はドゥッガである」。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯疑いの除去
・疑いは真理を明確に理解し、精神的に進歩するための5つの妨げの一つ(他に、感覚的欲望、悪意、肉体的・心的無活力と沈滞、落ち着きのなさと不安)。
・すべての悪の根源は無知であり、誤解。疑問、戸惑い、ためらいがある限り、進歩できないのは否定できない事実。物事が理解できず、明晰に見えない限り、疑問が残るのは当然。本当に進歩するためには、疑問をなくすことが不可欠。疑問をなくすためには、物事を明晰に見ることが必要。
◯真実に名称はつけられない
・真実にことさら名称は必要ない。
・人間に物事を識別しようとする傾向が強いあまり、誰にでも共通する性質とか感情にまで個別的名称をつけて識別している。
◯盲信を捨てる
・汚れと不純さの消滅は物事を知り、物事が見える人にとってのみ可能なことであり、物事を知らず、物事が見えない人には不可欠である。常に問題なのは、知ることと見ることであり、信じることではない。
・人は自分の好きなことを信じる権利があり、「私はこう信じます」と述べて差し障りはない。その限りにおいて、彼は真実を尊重している。しかし自らの信心あるいは信仰から、自分が信じていることのみが真実で、他の全ては偽りであると主張することは許されない。ある一つの見解に固執し、他の見解を見下すこと、賢者はそれを囚われと呼ぶ。
◯四聖諦
①ドウッカの本質
・一般的には苦しみ、痛み、悲しみ、あるいは惨めさを意味する。
・ドウッカの三面
1)普通の意味での苦しみ
2)ものごとの移ろいによる苦しみ
3)条件付けられた生起としての苦しみ
・ドウッカとは執着の五集合要素
1)物質
2)感覚(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚・第六感)
3)識別
4)意志
5)意識
・存在するのは5つの集合要素。私たちが存在、個人あるいは私と呼んでいるのは、この5つの集合要素に対する便宜上の名称に過ぎない。それらはすべて無常であり、絶えず移ろうもの。「無常なものはすべてドウッカである」というのが「要するに、執着の5集合要素はドウッカである」というブッダの言葉の真意。
②ドウッカの生起
・ブッダの分析によれば、この世における問題や係争は、家庭内の小さな個人の喧嘩から、国家間の大戦争に至るまで、すべては利己的な渇望から生じる。
③ドウッカの消滅
・ドウッカの消滅はすなわちニルヴァーナの真理。ニルヴァーナは、渇望の消滅、構成されないもの、条件づけられないもの、欲望の滅亡、停止、燃焼、絶滅といった言葉が用いられる。
・ニルヴァーナ、究極真理、実存に関してどれほど議論を尽くしたところで、それは時間の浪費で、本当の理解には達しない。ニルヴァーナは、賢者が自らの内に体現すべきもの。
④ドウッカの消滅に至る道
・ドウッカの消滅に至る道は2つの極端な道を避けるがゆえに「中道」と呼ばれる。2つの極端な道の一つは、感覚的な快楽を通じて幸福を求める道。もう一つは、様々な禁欲的行為によって自らを苦しめることにより幸福を求める道。
◯八正道
・ブッダが45年にわたって説いた教えは、実質的にはこの八正道に凝縮される。
①正しい理解
②正しい思考
③正しい言葉
④正しい行い
⑤正しい生活
⑥正しい努力
⑦正しい注意
⑧正しい精神統一
・八正道は一つずつ実践していくものと思ってはならない。それらは各人の能力に応じて、すべてを同時に実践しなくてはならない。8つは各々繋がっており、一つの実践が他の実践に役立つ。
・8項目は仏教的修練と規律における3つの基本を増進して完成することを目的としている。
①論理的行動(正しい言葉、正しい行い、正しい生活)
②心的規律(正しい努力、正しい注意、正しい精神統一)
③叡智(正しい理解、正しい思考)
まとめの他に瞑想法や呼吸についても書かれています。自己とは何なのかというところにフォーカスを当て、特に5集合要素と八正道について考えるだけでも「私」に対する理解が進み、「自分の味方」というものが出来上がっており、様々な感情もここから生じているんだなぁと感じます。さらに理解を深めていくための入門書としても最適でした。