MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

空海に学ぶ仏教入門(吉村均)

空海に学ぶ仏教入門』(吉村均)

 苦しみから離れられないのは、執着や欲求を追いかけ続けるあり方そのものが原因。その心を変えるための考え方の全体像を真言密教の祖である空海が記したのが「十住心」。本書は、新書サイズでありながら、膨大で深い世界観が広がる「十住心」のエッセンスをまとめた一冊です。正直、分かったような分からないような、、、やっぱり人にはうまく説明できない。そんな感じが残るのは、この世界の広さを感じ逆に魅力的だと言えるかもしれません。

 

【本書の学び】

①伝統的な仏教理解の全体像を知れるのが空海の「十住心」

②捉えかたの問題はエゴの問題。問題の出発点はここ。

③最後には言葉では表せない世界がある。ここが究極。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯10段階の大別

・対象を実体視する心に合わせた段階(1〜3段階)

・仏教固有の段階(4〜10段階)

1)それぞれの関心や理解の度合いに合わせて実体視からの解放を目指す段階(4〜7段階)

2)すでに空の境地を体験した者に現れる仏の世界(8〜9段階)

3)実体視から完全に解放された言葉で表せない境地(10段階)

 

◯十住心論

①異生羝羊心(いしょうていようしん)

・欲望のままに振る舞い悪をなす心。

・苦しみを減らしていく段階。

 

②愚童持斎心(ぐどうじさいしん)

・悪いことを見ると、嫌だという気持ちが起きるようになる。世俗の善悪を守る段階。

・欲しいもの/嫌なものはありありと映っているが、それは実体ではなく、それを実体と捉える心のメカニズムに苦しみの真の原因を見るのが仏教。どこにも不変の実体はない。どんな悪人でも変わらないということはなく、何かのきっかけがあれば人は変わりうる。

 

③嬰童無畏心(ようどうむいしん)

・今よりもはるかに素晴らしい天の神々の世界があると聞くと、修行してそこに生まれることを目指そうという気持ちになる。

・瞑想中に仏教の説く本当の空を体験することができると、瞑想を終えて心が再び対象を捉えても、もう実体としては映らなくなる。

 

④唯蘊無我心(ゆいうんむがしん)

・苦しみの原因を断ち切ることによって、輪廻から解脱することを目指す。

・欲しいものを手に入れ、嫌なものを排除して苦しみから解放されようとするが、それはうまくいかない。欲しいけれど手に入れることはできない(求不得苦)、嫌だけれどなくすことができない(怨憎会苦)ことで逆に苦しみましてしまう。仮に望みどおになってもその幸せは一時的。

 

⑤抜業因種心(ばつごういんじゅしん)

・無明を断ち切り、独覚仏の境地を目指す。

・前世の無明に基づく行為によって、次の生の胎内に意識が宿り、心と体を持つ。生まれると感覚器官が対象と触れ、感受する。それによって、良い/悪いという気持ちが生じ、欲しい物については自分のものにしたいと思うようになる。それに基づく行為によって輪廻し、生まれ、老死に代表されるあらゆる苦しみを味わう。

 

⑥他縁大乗心(たえんだいじょうしん)

・実態のように映っている対象は全て心の中の現れで、心のみが真実であると理解する唯識の心。

・三性説

1)暗がりで縄を見て、そこに蛇がいると思い恐怖の心を起こす(遍計所執性)。

2)しかしその蛇は実際には朽ちた縄をそう捉えたに過ぎない(依他起性)。

3)実体と思っていたものが心の現われで、蛇などどこにもいないことが理解できれば、恐怖の心はなくなる(円成実性)。

・四無量心

1)他の衆生が幸せとその原因を得るよう願う慈しみの心

2)苦しみとその原因から離れるよう願うあわれみの心

3)他の喜びを自分のことのように喜ぶ随喜の心

4)自分と親しい/親しくないなどの差別をしない平等の心

 

⑦覚心不生心(かくしんふしょうしん)

・苦しみからの解放とは、それまでの間違った捉え方がなくなることで、輪廻の外に目指す解放の境地が本当にあるわけではない。

衆生の視点から仏陀の視点へと、大きく視点が切り替わるのが第七住心。

 

⑧一道無為心(いちどうむいしん)

・すでに空を体験した、聖者である菩薩の実践。人間に見えるのは人間の世界だけ。そのような捉え方から解放された時に現れてくるのが、仏の世界、浄土。

・空を体験するのは、対象を捉えていない深い瞑想中で、瞑想を終えると、再び心は対象を捉えるが、かつてのように実体としては映らなくなる。そうやって、瞑想中・瞑想後を行き来して修行を深め、最終的に瞑想中と瞑想後に全く差がなくなったのが、修行が完成した仏陀の境地「色即是空、空即是色」。

 

⑨極無自性心(ごくむじしょうしん)

華厳経の世界。

・「水に自性なし。風に遇って即ち波立つ。法界は極に非らず。警(いまし)目を蒙って忽ちに進む」(水には決まった本性というものがない。鏡のような水面も、風に合えば波立つ。すべてが静まった法界は究極の境地ではない。仏から呼びかけられ、さらにそ子から進む)

・月は大海だろうと、コップの中の水だろうと、小さいから入りきらないということなく、それぞれの水に合わせて姿を映し出す。『華厳経』の教えを聞くことができたのが菩薩たちだったのは、月の側に問題があるからではなく、私たちの心があまりにも波立ち、濁っていて、月を映し出すことができなかったから。

 

⑩秘密荘厳心(ひみつしょうごんしん)

・言葉を超えた境地を直接、師から弟子へと伝える。

・苦しみから解放された境地においては、自/他の二元的把握はない。

 

「そもそも漢字からして難しそう」「具体的にどういうこと?」「頭でなんとなくわかるけど、実際どんな感じ?」。。。いろいろな疑問が湧いてきます。その疑問こそ関心!なんとなくでもステップアップしていく感覚があれば、「今自分はどこにいそう?」「もっと上のレベルにいる人ってどんな人?」っていう風に着眼ができてきます。まずは意識を向けるところから!

空海に学ぶ仏教入門 (ちくま新書)

空海に学ぶ仏教入門 (ちくま新書)

 

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