大乗の教え(下)(中村元)
『大乗の教え(下)』(中村元)
本書は、20世紀を代表する仏教大家である著者がNHKラジオ第2放送で全26回の講義を行った講義録です。第4巻となる本書では、『阿弥陀経』『大無量寿経』『観無量寿経』『華厳経』『理趣経』などが解説されています。もともと著者の著書はわかりやいのですが、講義録ということもあり、入門書的なわかりやすい一冊です。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯『阿弥陀経』
・「五根、五力、七菩薩分、八聖道分」は、それぞれ人間が修行によって達成すべく、修養に努めるべき徳目。全部で三十七あるとされ「三十七覚支」という。
・「五根」は、悟りを得るための五つの機根をいい、信根、精進根、念根、定根、慧根。
・「五力」は、信仰、努力、憶念、禅定、智慧という悟りに至らしめる五つの力で、信力、精進力、念力、定力、慧力。
・「七菩薩分」は、七覚支ともいい、七つの悟りに役立つもののこと
・「八聖道」は、人間の生き方の八つのあるべき姿。正しい生き方ということ。
◯『観無量寿経』より
・「至誠心」は、まことの心。「深心」は深い信仰の心。「廻向発願心」は自分が積んだ功徳を極楽浄土に振り向けたいという願い。この三心を備えていたならば、必ずかの国に生まれる。
・「六念」は、「仏」「法」「僧」の三宝と「戒」(戒めを保つ)、「捨」(ものを捨てて人々に施す)、「天」(天に生まれようと念ずる)。これらを繰り返し念じ、一日ないし七日でも行ったならば、かの国に生まれることができる。
・「五戒」は、不殺生、不偸盗、不邪婬、不妄語、不飲酒。「八戒斎」は「五戒」に加えて、ゆったりしたベッドに寝ない、装身具をつけず歌舞を見ない、昼過ぎの食事を取らないという戒。
・「五逆」は、母を殺し、父を殺し、阿羅漢を殺し、仏身から血を流さしめ、仏教教団を破壊するという大罪のこと。
・「沙弥戒」は「八戒斎」をさらに広げ金銀・宝を蓄えてはいけないなどが加わっている。
・「十戒」は、殺生、偸盗(ちゅうとう)、邪婬、妄語、綺語、悪口、両舌、貪欲、瞋恚(しんい)、愚痴。本当に悪いことをした人たちのように、まったく救われないように見える人間であっても、最後に仏様を念ずるならば、罪を滅ぼすことができる。
◯『華厳経』より
・現実の実践(菩薩行)を強調する。現在ある『華厳経』は膨大なものであるが、『十地経』や『入法界品』などのような、もともと独立した経典であったものが、4世紀ごろ中央アジアでまとめられ、この経典になったのではないかと言われている。
・華厳宗では、『華厳経』の趣意は事事無礙の法界縁起の説に基づいて菩薩行を説いているという。事事無礙は現象界の事物。それがひとつひとつお互いに異なっているのではない。とけあっている。決してお互いに排除しあうものではなくて、とけあっていて滞りがないということ。ありとあらゆる人々のことを考えて、共に手を携えて進もうという、その理想を『華厳経』では掲げている。
・「十力」
①道理と非道理を分別する力(処非処智)
②因と果報との関係を知る力(去来現在諸業報智)
③様々な禅定を知る力(一切諸禅三昧正受解脱垢浄起智)
④衆生の機根の上下を知る力(衆生諸根智)
⑤衆生の種々の望みを知る力(随諸欲楽智)
⑥衆生や諸法の本性を知る力(種々性智)
⑦衆生がどこへ行くか知る力(至一切処道智)
⑧自他の過去世を想い起こす力(無障礙宿命智)
⑨衆生がここに死んで彼のところに生まれることを知る力(無障礙天眼智)
⑩涅槃とそれに至る手段を知る漏尽智の力(断習気智)
この下巻(第4巻)は、1〜3巻に比べなかなか難しかったです。なぜ難しかったのか?が今ひとつわからないのですが、シンプルな表現の教えから、表現自体が難しくなってきているのかもしれません。