『孟子』(貝原茂樹)
孔子と並ぶ賢者として孔孟と呼ばれ、著書『孟子』は四書五経の四書のひとつとされています。魏・燕・斉などの七強国が覇権を争った中国戦国時代に、小国の鄒(すう)に生まれ、諸国を巡って説いた仁政とは。本書は、『孟子』本文に入る前に、時代背景や孟子の生涯の解説があるため、全体像が捉えやすいと思います。本文は、書き下し、現代語、注釈、解説の4本立てとなっており、現代語+解説だけを読んでいってもいいと思います。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯衆とともに楽しむ
・音楽は一人で楽しむより、衆とともに楽しむのがまさっている。この衆とともに楽しむ心で政治をやって、人民とともに生活を楽しくするようにすれば、政治はうまくゆくと説く。
・人間の欲望を肯定し、その欲望を肯定し、その欲望が個人主義の枠から脱し、広い社会の立場に立つ。性善説の基礎をなす考え方。
◯政治の規矩準縄
・天下の政治も、先王の残した仁政、人に忍びざる政治の制度によらないとうまくいかないと。主観的に良い政治を行う意志をもっているだけでは不十分で、仁政という客観的な基準の制度がなければならない。
◯修身の心得
・他人を愛しているのに親しまれないとときは、自分の仁愛に至らぬ点がなかったかと反省する。他人を支配して思い通りにゆかないときは、自分の知恵に至らぬ点がなかったかと反省する。他人に敬意を表しているのに答礼されないときは、敬意のあらわし方に至らぬ点がなかったかと反省する。
・すべて自分の行為が思い通りにゆかなかったときは、いつでも自分のやり方を反省する。自分の行いが正しければ、天下の人が皆自分についてくる。
・『詩経』に「いついつまでも天の命に叶うように振る舞えば、限りない幸福が求めるに従ってくる」と歌っているではないか。
◯誠は天の道
・真心こそ自然の原理、つまり天の道である。真心を込めようと努力することが人間の原理、つまり人の道である。真心が本当にこもっていれば、動かされない人があるはずはない。真心がこもっていないと、人が動かされるはずはない。
・上役の気に入る者で、同僚や下役に受けのいい者は少ないのが現実。友達に受けのいい者で、両親の気に入る者の少ないのも現実である。この現実に反対し、現実には不可能なことを可能にする意志力こそ誠の本質。
◯人を見る目
・人間を観察するには、瞳が一番いい。瞳はその人間の悪心を覆い隠すことができないからだ。胸の中の考えが正しいときは、瞳は澄んでいるし、胸の中の考え方が正しくないときは、瞳が濁っている。その人の言葉をよく聞きながら、その人の瞳を観察すれば、その人の胸の中は隠しおおせられない。
・「その以(な)す所を視、その由る所を観、その安んずるところを察すれば、人焉んぞ廋(かく)さんや」(論語)
◯君子の求道
・君子が道を求めてどこまでも深く進んでゆくのは、自分でこれを会得しようとするからである。これを会得してしまうと、しっかりとそこに落ち着く。しっかりと落ち着くと、深く根元から知識を取り入れることができる。深く根元から知識を取り入れていると、手近の物事を取り上げても、すぐその根源を突き詰めることができる。こういうことは、君子が道を自分で会得しようとするからできるのである。
◯君子たる所以
・君子は仁によって本心を保ち、礼によって本心を保つ。仁ある人は他人を愛するし、礼ある人は他人を敬う。他人を愛する人は、他人もいつもその人を愛する。他人を敬う人は、他人もその人を敬うであろう。
◯良知・良能
・人間が学問をしないのにできること、それを良能という。人間が考えないで知ること、それを良知という。幼児でも、親を愛することを知らない者はなく、少し成長すると、その兄を敬うことを知らない者はいない。親に親しむのは仁、年上を敬うのは義である。この良知・良能を天下に推し及ぼすと仁となり、義となる。
◯人間の三楽
①父母がお二人ともご存命で、兄弟が息災で暮らしていること
②上を向いて天に恥じる行いがなく、下を向いて人に恥じる行いをしないこと
③天下の英才を集めて教育すること
⇨天下の王となることは、その中に含まれない。
『孟子』は、日本でも佐藤一斎、吉田松陰といった方が引用して教えを残しているくらい影響力のある書物です。自分にとって響くところ、響かないところがあり、それが自分の現状把握にもつながるという、読み手の力が問われる良書です。