漢文、読み下し文、現代語訳で全文を網羅している本書。『孟子』を読むならまずこれが手元にあれば十分ではないかと思いました。孟子と言えば「性善説」、孔子の後継的存在で「仁」「義」「礼」「智」を重んじたことでも有名です。当時の君主や役人との会話を中心にその中で、現代にも活かせそうなポイントを重点的に読んでいくと、2500年の時を感じさせない真理をついた内容が多いなあと感じます。
（印象に残ったところ・・本書より）
◯浩然の気
・気というものは、いたって大、いたって剛、そして直、害することなく養っていけば、広大なる天地の間にも充満するほどのもの。その気というものは、道と義とに配合するもので、もし道義がなければ飢えてしぼんでしまう。つまりこの気は、内に義を積集した結果、生ずるものであって、外にある義が入り込んできて浩然の気ができる、などというものではない。自分の行為に何かやましいことがあると、その気は飢えてしまう。
・浩然の気を養うには、必ず常に努力をしなくてはならないが、自分のした努力に対して結果を予測してはならない。然りとてその大目的を忘れてはいけないが、早く効果をあげようとして助長するようなことはしてはならない。
◯言を知る
・偏って公正でない議論は、その人の心が物に覆われていることを見抜く。
・出任せの議論は、その心が何に陥溺していることを見抜く。
・よこしまな曲がった議論は、その心が道理から離れていることを見抜く。
・ごまかして言い逃れようとする議論は、その行き詰まって困っていることを見抜く。
⇨このような間違った心が為政者の心に生じたならば、単に言辞の上にとどまらず、必ず政治に弊害を生ずるし、政治に弊害を生じたならば、もろもろの事務に弊害を生ずるものである。
◯四端
・痛ましく思う惻隠の心がないのは人ではない。同様に不義不善を恥じ憎む羞悪の心がないのは人ではない。他人に譲る辞譲の心がないのは人ではない。是非善悪を判断する是非の心がないのは人ではない。この惻隠の心は仁の萌芽であり、羞悪の心は義の萌芽であり、辞譲のの心は礼の萌芽であり、是非の心は智の萌芽なのである。
・人間にこの四端があることは、あたかも両手両足の四肢があるようなものである。すべて自分に四端があるからは、これを拡大して充実し、仁義礼智の徳を完全にすることを理解できるはずである。その四端は燃え出したばかりの火、噴き出したばかりの泉のごとく、微小なものであるが、いやしくもこれを拡充したならば、広い天下を十分保有することができるし、もし拡充しないなら、父母に仕えるという卑近なことさえできないであろう。
◯内省
・人を愛しても相手が親しんでこない場合は、こちらの仁愛の心が足らぬのではないかと反省せよ。人を治めてもうまくいかぬときは、自分の知恵が足らぬためではないかと反省せよ。およそ自分が行ったことで相手の行動が期待外れだったときは、すべて自分の身に反省して原因を考えるが良い。
◯仁と不仁
・仁が不仁に打ち勝つのは、水が火に打ち勝つようなものである。ところが、今の仁を行う人は、わずかの仁で大なる不仁に打ち勝とうとするもので、ちょうど杯一杯の水で車一台分の薪の火を消そうとするようなものである。そして、火が消えないからとて、水は火に打ち勝てないと言う。これでは、やはり不仁に味方することが甚だしい。つにはせっかくの僅かばかりの仁すらも失ってしまうだろう。
中国古典はたくさんありますが、一体どんな順番で読んだらいいのか。まずは、『論語』。ここが出発点。次にその流れで『孟子』ですかね。私は、『大学』『小学』『中庸』という方向に流れていって、ようやく『孟子』に戻ってきました。そして、性善説の『孟子』に対し、性悪説の『荀子』。『荀子』は法治主義、要は法律で統治する現代スタイル。儒家はリーダーシップを説いた君子の精神的学問であったのに対し、『荀子』とその流れをくんだ『韓非子』は法律で庶民を統制する庶民目線で説かれている。学校のなかった時代、庶民は勉強する機会もなかったのだから、法律で取り締まるべしと。そんな全体像が見えてくると、「今どこを読んでいるかが見えてきておもしろくなってくると思います。
