MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

『言志四録(四)』(佐藤一斎、全訳注:川上正光)(◯)

 四巻セットの第四巻は『言志耋(てつ)録』。著者(佐藤一斎:1772〜1859年)が80歳から82歳に記した340条からなる語録です。ピンとくるもの、来ないもの。古典、特に語録系を読みながら思うのは、読み手の体験、思考力、あり方が試されること。私は、線引きしながらリアル本を読みますが、全然線が引かれないページが続くこともあります。「あぁ、この領域は全然意識せずに生きてきたな」と思ったとき、自分の中でアンテナが立つので、少しずつその後の日常の中で意識を向けてるようになります。言志四録四巻では、1133条もの条文があるので、自分の思考の偏りチェックにも役立つと思います。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯学は一、等に三

・学問の道は1つ。しかし、これを学ぶ段階は3つある。

①古人の文章を学ぶ

②古人の行為を学び、我が行為を省みる

③深く古人の真の精神を学ぶ

・はじめに古人の文を学ぼうと志したのは、自分の心に起こったこと。最後の古人の真の精神を学ぶというのは、自分の志した学問が成熟した証拠。だから学問に三段階があると言っても、本来個々に独立したものではなく、終始一貫して、心で心の学問をする。

 

経書を読むは我が心を読むなり

・聖賢の書かれた経書を読むということは、実は自分の本心を読むということ。決して、自分の本心以外のものと見てはいけない。

・自分の心を読むということは、天地宇宙の心理を読むということである。決して他人の心のことだなと思ってはいけない。

・「経書を読むの第一義は、聖賢に阿(おもね)らぬこと要なり。若し少しにても阿る所があれば、道明必ず、学ぶとも益なくして害あり」(吉田松陰

 

◯学問を始める時の心得(「自警」足代弘訓(江戸後期の国学者))

・人を欺くために学問すべからず

・人と争うために学問すべからず

・人をそしるために学問すべからず

・人を馬鹿にするために学問すべからず

・人の邪魔をするために学問すべからず

・人に自慢するために学問すべからず

・名を売るために学問すべからず

・利をむさぼるために学問すべからず

 

◯「悔」

・「悔」という字は善と悪との分岐点にある文字。立派な人は悔いて善に移って行き、つまらない人は悔いてやけになり悪を追うもの。

 

◯人の生くるや直し

・「人が生きておれるのは、正直であるからだ」。この言葉を十分に噛み締めて、自己反省の資料とし、自分の心を持ってこの言葉の註となすべきである。

 

◯よく身を養うもの

・よく身体を養う人は常に病気を病気でない時に治めているし、精神修養に心掛ける人は、私欲の出る前にこれを取り去ってしまう。

 

◯人心の霊

・人の心の霊明な姿は丁度太陽が照り輝いているのに似ている。ただ克(人に勝つことを好む)、伐(自ら功を誇る)、怨(忿恨)、欲(貪欲)の四悪徳が心中に起こると、雲や霧が起こって四方をふさぎ、太陽が見えなくなるように、この心霊が何処にあるかわからなくなってしまう。だから誠意をもって向上に力(つと)め、この霊霧を払いのけて照り輝く太陽、即ち心の霊光を仰ぎ見ることが何より先決。

・凡そ学をなすの要点は、これより基礎を築き上げること。ゆえに『中庸』にも「一切はまことに始まり、誠に終わる。誠は一切の根元であり、誠がなければ、そこには何もあり得ない」とある。

 

◯事物の見聞は心でせよ

・目や耳だけで事物を見聞すると、事物の真相を欠くということで、真相を知るためには心を用いなければならない。言動を察するについても同一理である。

・「心ここにあらざれば視れども見えず、聴けども聞えず、食えどもその味を知らず」(『大学』)

 

◯人は自分の言行不一致はとがめない

・寒さ暑さの季節と天候が、少しでも暦と違うと、人々は気候の不順を訴えて不平を言う。しかし、自分の言葉と行動については、常に喰い違いがあっても、自ら反省しとがめることを知らない。

 

◯人のための仕事と自分のための仕事

・もともとは自分のためを計ってした仕事が、その形跡から見ると他人のためにしたように見えることがある。こういうことは自分で戒めてしてはいけない。

・反対に、もとは他人のために計ってした仕事が、或いは自分のためにしたかと疑われるものがある。疑われるからと言って、これをしないと言うことがあってはならない。

・「情けは人のためならず」

・「陰徳ある者は必ず陽報あり。陰行ある者は必ず昭明あり」(『淮南子』)

 

80歳を超えても書を著し、後世に伝えていく生き方に惹かれます。集大成を書物に。それも人生の半ばを過ぎてから言志四録を残した著者を知れば知るほど、私もいつ終わるとも分からない命を意識しながら知識・経験から得た幸せに生きる術を書物にまとめていきたいという思いが湧き上がってきます。

言志四録(4) 言志耋録 (講談社学術文庫)

言志四録(4) 言志耋録 (講談社学術文庫)

 

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