MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

哲学の技法(ジュリアン・パジーニ)

『哲学の技法』(ジュリアン・パジーニ)(◯)

 本書は、28のテーマについて論じた一冊。東洋哲学も多数引用されており、日本人にも読みやすい哲学本です。難しい内容も多いですが、どのテーマから読んでも大丈夫なので、気になるところを拾い読みする感覚でいけます。私は、「還元主義」というテーマの冒頭に「西洋文化の良い面と悪い面は、すべてマクドナルドに見出せると言われる」という一文に惹かれて本書を買いました。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯還元主義

西洋文化の良い面と悪い面は、すべてマクドナルドに見出せると言われる。西洋の食生活の乱れが嘆かれるときには、決まってビッグマックとポテトフライが槍玉にあげられる。

マクドナルドのウェブサイトでは、商品の原材料と栄養価の詳細な一覧表を見ることができる。ビッグマックを例に取ろう。

・多くの人には意外だろうが、パテそのものは100%牛肉で、塩分も少ない。一方、パンズには小麦粉、水、砂糖、胡麻、菜種油、塩、イースト、グルテン、乳化剤、品質改良剤、保存料、酸化防止剤、小麦でん粉、カルシウム、鉄、ナイアシンチアミンが含まれていることがわかる。

・さらにソース、ピクルス、チーズに入っているものも、数行にわたって記されている。また、カロリーの他、脂肪、炭水化物、食物繊維、タンパク質、塩分のそれぞれの含有量と1日の推奨摂取量の一覧もある。それだけではない、計算器を使って、ビックマックとMサイズのフライドポテトのカロリーが、1日の推奨摂取カロリーの42%、脂肪と塩分が推奨摂取量の約50%、糖分はわずか同10%であることもわかる。おかげで安心して、Lサイズのチョコレートミルクシェークを付け加えられる。

・このように長々と原材料が記される背景には、何世紀にもわたって西洋の考え方の根底に置かれている哲学的な仮説、還元主義の影響がある。還元主義とは、どんなものでも構成要素に分けることで、より良く理解できるという考え方だ。そこでは全体よりも部分が重視される。

・「倫理学者は倫理的な誠実さの最小単位(個人)に倫理の最終的な責任を帰し、物理学者は肉眼では見えない最小単位とそれらの関係に宇宙を分解し、遺伝学者は最小単位と遺伝子とそれらの相互関係の間にどういうつながりがあるかを探っている」(トマス・カスリス)

 

◯調和

・調和は、家庭生活と市民生活、公私の両方に関わる価値観だが、それぞれのケースによっていくらか性格を異にする。五倫(人間の五つの結びつき)を説いた孟子は、調和の保ち方はそれぞれの関係ごとに違うといい、次のように述べている。「父子の間には愛情があり、君臣の間には義があり、夫婦の間には役割の区別があり、長幼の間には序列があり、友人の間には信頼がある」

・「一つの音では音楽にならない。一つの色では模様は描けない。一つの味では美味しい料理は作れない。一つのものでは調和は生まれない」(中国の政治学者司馬)

・調和の名のもとに画一性が強まるとしたら、それは調和というものが誤解されているせい。調和は区別の上に成り立つもの。創造的な緊張関係こそ、調和の原動力だとされる。

・人間を「世界と調和させる」ことを目指すのが道教。人間のために「世界を調和させる」ことを目指すのが儒教。「道徳」は「道とその力」を意味し、「倫理」は「親族関係や人間関係の模範」を意味する。

 

◯徳

・『荀子』の「修身」と題された章より。「他者の中に善を見たら、自分にも同じものがあることを欲し、我が身を振り返りたくなる。他者の中に悪を見たら、自分にも同じものがあることを恐れ、我が身を振り返りたくなる。もし自分の中に善を見出せば、自分を誇らしく感じ、その善を持ち続けたいと欲する。もし自分の中に悪を見出したら、自分を嘆かわしく感じ、その悪を葬りたくなる」

アリストテレスは徳とは中庸のことだといい「過剰による悪徳と、不足による悪徳の二つの悪徳の中間」に徳はあると説いた。だから、浪費(過剰)と吝嗇(不足)の中間に「気前の良さ」という徳はあり、向こうみず(過剰)と臆病(不足)の中間に「勇敢」という徳はある。「情念と行為の両面でしかるべきことが足りない、あるいは多すぎるとき、悪徳は生じ、それらの中間となるところを見つけ、選ぶとき、徳は生じる」という。

 

 西洋・東洋バランスよく書かれているところ、難しいけど理解しやすいという訳文に本書の良さがあるのかなと思います。哲学は思考を動かすのに役立つので、たまに読んで、あれやこれや考えるのもいいかなと思います。

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