『空海コレクション3』(福田亮成 校訂・訳)
本書は空海の著書をまとめた4巻シリーズのひとつ。第3〜4巻は心の向上してゆく過程を10種で示した『秘密曼荼羅十住心論』。空海57歳の時の大作です。第3巻はその前半5つのテーマについて書かれています。第2テーマから難しくなり、第3テーマくらいから分からなくなり、第4・5テーマになると目で追うだけでも大変、という難しい内容。今回は、まずは最後まで目を通すことに重点を置いているので、内容理解は次回以降に。
(印象に残ったところ・・本書より)
①異生羝羊心(宗教以前)
・動物のように食欲と性欲を貪る無知の状態。迷える者が善悪を辨(わきま)えることができない心。愚者が因果の理法を信じない虚妄に執われている心のこと。
・異生は凡夫、すなわち迷える者。
・羝羊は雄羊で、あたかも雄羊が性や食物に対する本能的な欲望のおもむくがままに生きている愚かなものであるのに異生をたとえて、そうした心のあり方を説く。人間が一般の動物にも等しい無自覚な状態にあって、道徳的判断を欠き、道徳律についての感覚が全くないことを指摘して、第一住心とする。
・十種の悪しき行為
■身体
1)殺すこと
2)盗むこと
3)男女の道を乱すこと
■言葉
4)嘘をつくこと
5)罵り言葉を使うこと
6)二枚舌
7)うわべを飾った言葉
■意(こころ)
8)貪(むさぼ)り
9)瞋(いか)り
10)癡(おろか)さ
②愚童持斎心(儒教)
・愚かな子供の状態ではあるが、道徳心に目覚めた状態。
・愚童は愚かな児童。
・持斎は斎(とき)をたもつ意で、自ら節食して他に施すのをいう。
・第一重心の道徳・倫理についての無自覚な状態から、道理への感覚が生じ、初めて人間らしい生き方をする時の心のあり方。
・特定の日には父母をはじめとする全ての縁ある者に施与するのは、まさしく人間的な自覚が生ずる第一歩。
・この第二住心は、道徳・倫理の世界が説かれ、仏教の戒律・儒教的倫理などを基調とする。
・五戒:中国の典籍にある五常の教えと同じ
1)仁:哀れんで殺さない
2)義:相手を損なうのを防いで男女の道を乱すようなことをしない
3)礼:ことさらに心に酒を禁ずる
4)智:清らかに思察して盗みをしない
5)信:道理にのっとった言葉でなければ語らない
・五常
1)人:人に博愛の徳がある
2)義:厳しく禁じる徳がある
3)礼:他を尊び自分を卑しくし、他を敬って人に譲ることを明らかに弁える徳がある
4)智:物事を明らかにする徳がある
5)信:言葉に嘘がない徳がある
・信仰心が芽生え、心が安らいだ状態
・嬰童は幼い子供。
・無畏は煩悩の束縛を離れて畏れがないこと。あたかも幼児が母親の懐に抱かれたり、子牛が母牛にしたがっている時のように、天界に生まれることを願って現世で宗教的実践に勤しむ者が、いっときの安らぎを得る心のあり方。
・第二住心の道徳・倫理の世界より、さらに進んで宗教的に目覚めた世界を明らかにする。インドのバラモン教の哲学学派における生天説や三界の諸天が紹介される。
④唯蘊無我心(小乗仏教(声聞乗))
・世界は、色・受・想・行・識(五蘊)の融合であると悟り、無我を自覚する状態。
・存在を構成する五要素(色受想行識)のみが実在(唯蘊)であり、個々別々の存在には実態がない(無我)という心のあり方について述べる。
・この住心から仏教の解脱の道、すなわち出世間心に入り、声聞(教えを聞いてさとる者)のさとりのあり方を示す。
⑤抜業因種心(小乗仏教(縁覚乗))
・万物の因縁を知り、無明(無知)を断ち切ることのできる状態
・人間の苦しみ、悩みがいかに成立するかの十二種
1)無明(根本的無知)
2)行(潜在的な形成力)
3)識(識別するはたらき)
4)名色(名称と形態)
5)六処(眼・耳・鼻・舌・身・意のこと。心のはたらきのあらわれである6つの場)
6)触(感官と対象の接触)
7)受(感受作用)
8)愛(妄執)
9)取(執着)
10)有(生存)
11)生(生まれること)
12)老死(無常なること)
前半戦で600ページ。内容は難しいですが、読み易く工夫されている思います。難しくともまずは頭を慣らしていくところから。