MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

深く考える力(田坂広志)

『深く考える力』(田坂広志)(◯)

 論理思考は、思考の初歩的段階。深く考える力とは、心の奥深くの自分と対話する力。心の奥深くにいる、賢明なもう一人の自分が持つ叡智。その叡智を引き出す5つの技法が紹介されています。智と在り方の第一人者である著者だからこそ語ることができる領域を知ることで、毎日の思考の質を変えるきっかけにもなる一冊です。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯深く考えるとは?

・長時間考えることや一生懸命に頭を絞って考えることではない。

・自分の中にいる「賢明なもう一人の自分」と対話すること。

・我々の能力を分けるのは、人生を分けるのは、その「賢明なもう一人の自分」の存在に気づき、その自分との対話の方法を知っているか否か。

 

◯「賢明なもう一人の自分」が持つ2つの能力

①論理思考を超えた「鋭い直観力」(突如新たな考えが閃く直感力)。

②膨大な記憶力

⇨自分の中にそうした力があると信じていないから、これらの能力が発揮されない。この無意識の自己限定を取り払うことができたら、我々の中から「賢明なもう一人の自分」が現れ、直観力や記憶力など、素晴らしい叡智を発揮してくれる。

 

◯「賢明なもう一人の自分」が現れる「5つの技法」

①自分の考えを「文章」にして表してみる。

・徹底的なブレーンストーミングを行い、頭の中のアイデアを一度、文章として表に出す。

・そのアイデアがすべてであるとは、決して思わないこと。

・一度、心を静め、しばらくしてそれを読み直す。

 

②異質のアイデアを、あえて結びつけてみる

・対極の言葉を結びつける

「無用の用」「無計画の計画」「逆境という幸運」「病という福音」など

弁証法に基づく思考を深める技法

「正・反・合」のプロセスによる「止揚」(アウフヘーベン

 

③自分自身に「問い」を投げかけること

・「問い」を自問自答の形で、自分自身に問うと、最初は心に何も浮かんでこないが、間もなく、心の奥深くから「答え」が浮かび上がってくる。

 

④一度、その「問い」を忘れること

・無心のとき、直観が閃く

・直観力は、表面意識で「答えを知りたい」という気持ちが強すぎると、働かない。

 

⑤自分自身を追い詰めること

・アイデアであれば、「いつまでにアイデアを出す」と周りに宣言して、自分を追い詰める。

 

◯「文章を読む」ときにも「もう一人の自分が現れる」

①思索的なエッセイ、随筆、随想などを、数多く読むこと

・筆者の思考の流れや思索の深まりを推測しながら読む。

②自分だけの格言集を編集するつもりで読む

・なぜ自分はこの言葉にひらめきを感じるのか?なぜこの言葉に共感を覚えるのか?、なぜこの言葉に考え込んでしまうのか?を考えてみる。

③筆者に代わっての加筆・修正

・自分ならば、この言葉をどう書き直すか?自分ならば、この言葉の後に、どういう言葉を付け加えるか?を考えてみる。

 

◯直観力を身につける2つの道

①「考えて、考えて、考え抜く」という論理思考に徹する技法

②座禅や瞑想という古来伝えられてきた技法

→この2つを同時に究めていくときに何が起こるか?

・不思議なことに、「直観」というものは、退路が断たれ、追い詰められた状況において、閃くことが多い。

→ただ、退路を断ち、自らを追い込むだけでなく、追い詰められた自分を楽しむ「もう一人の自分」が生まれてきたとき、「直観力のマネジメント」は佳境に入る。

 

◯静寂心

・深い「直観力」が働くためには、深い「静寂心」が求められる。

・焦りや苛立ち、不安や恐れ、怒りや憤りというものは、それを静めようとすればするほど、逆に、増大していく。

・我々がなし得ることは、ただ一つ「静かに見つめる」こと。

 

◯成功者の不思議な偶然

・「人生の成功者」が書いた自叙伝や回想録の中で、最もよく使われている言葉。

「たまたま」「丁度そのとき」「ふとしたことから」

→偶然の出来事によって人生が導かれたことを語る言葉が最も多く使われていた。

・「運の強さ」と呼ばれるものの奥に、「成功者」が共通に持つ、もう一つの言葉がある。

「人生の出来事に、深い意味を感じ取る力」

→「偶然」と見える出来事の中に「大切な意味」を感じ取る力。「自分を導く声」を感じ取る力。それが、優れた仕事を成し遂げ、「人生の成功者」と呼ばれる人々が共通に持つ資質。

 

◯創造という行為の秘密

・アイデアとは、自分という小さな存在が生み出すものではなく、大いなる何かが与えるもの。

・「我が業(わざ)は、我が為すにあらず」

 今自分が成し遂げようとしている仕事は、実は、自分が成し遂げようとしているのではない。大いなる何かが、自分という存在を通じて、世の中のために、成し遂げようとしている。その感覚を心に抱くとき、不思議なほど、様々なアイデアや発想が、心の奥深くから湧き上がってくる。その小さな個を超えた感覚こそが、古くから「使命感」と呼ばれてきたもの。

 

◯才能の開花を妨げる「迷信」

・「人は歳を取ると、精神の若さと瑞々しさを失っていく」

 我々が、歳を取るにつれ、精神の若さと瑞々しさを失っていくのは、多くの人が信じる、その「迷信」によって、それが真実であると思い込み、無意識に「自己限定」をしてしまうからに他ならない。

 

◯「解釈力」という究極の強さ

・「引き受け」

 すべてを、自分自身の責任として引き受けること。その心の姿勢を大切にして歩むならば、我々は、確実に、一人の職業人として、一人の人間として、成長できる。逆に、我々が成長の壁に突き当たるときは、この「引き受け」ができていない。

・その背後には、心の中の「小さなエゴ」(俺は悪くない。私は間違っていない)の動きがある。

・今、この出来事から、自分は何を学ぶべきか。いかなる成長をとげるべきか。その「解釈力」を身につけたときに、自然に与えられた出来事の「引き受け」ができるようになる。

・何が起こったか。それが人生を分けるのではない。起こったことを、どう解釈するか。それが、人生を分ける。

・人間の真の強さとは、いかなる出来事が与えられようとも、その「解釈」を過たない力。その意味を肯定的に解釈する力。「人生で起こること、すべてに深い意味がある」「人生で起こること、すべて良きこと」。

 

 田坂先生の著書は、いつも考えさせられます。その考えを、単に思考力、考え方にとどまらず、「人生にどのように生かすか」まで広げて示していただけるのが、さらに読書を活かす「活読」「活学」として活用できる書籍だと感じました。

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