『マズロー心理学入門』(中野明)
「欲求5段階説」のピラミッドで有名なマズロー。経営学の中で、従業員の動機づけ理論で初めて知った方ですが、「自己実現」をテーマとする講義を担当する機会に恵まれることになったため、「自己実現」に関連する本を調べていたところ、マズローにたどり着きました。
マズローは、『人間性の心理学』という本が最も有名ですが、ボリュームもあり、いきなり読むのは難しそうな内容なので、まずは解説書の方から読むことにしました。それが本書。入門書というだけあって、これは分かりやすく、もうちょっと探求したくなる内容でした。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯マズローが唱えた欲求階層論
①生理的欲求
②安全の欲求
③所属と愛の欲求
④承認の欲求
⑤自己実現の欲求
◯欲求階層論の論点
①人が持つ基本的な欲求は個人差が少ない
②人の持つ基本的な欲求が、相対的な優先度を基準に階層を構成している
③低次の欲求が満たされると、より高次の欲求が現れる
④欲求の階層と健康度には相関関係がある
⇨一般的な人間では、生理的欲求が85%、安全の欲求が70%、所属と愛の欲求が50%、承認の欲求が40%、自己実現の欲求が10%が満たされていると、独断で当てはめた数字を示している。
◯自己実現者に共通する15の特徴
①現実をより有効に知覚し、それとより快適な関係を保つこと
②受容(自己、他者、自然)
③自発性、単純さ、自然さ
④課題中心的
⑤超越性、プライバシーの欲求
⑥自律性、文化と環境からの独立、意志、能動的人間
⑦認識が絶えず新鮮であること
⑧神秘的経験、至高経験
⑨共同体社会感情(共同体感覚)
⑩対人関係(少数との深い結びつき)
⑪民主的性格構造
⑫手段と目的の区別、善悪の区別
⑬哲学的で悪意のないユーモアのセンス
⑭創造性
⑮文化に組み込まれることに対する抵抗、文化の超越
◯B価値
・仕事は、自己実現車が持つ課題を追求するための手段であって、課題そのものではない。課題は同じでも追求の手段(仕事)はいくつも考えられる。
・自己実現者が追求する「課題=本質的価値」を「Bering(存在)価値」(B価値)と呼んだ。本当の自己実現者は仕事を愛しているのではない、仕事の背景にある価値を愛している。
・安定した生活が送れることを理由に医者になった人物と、人の生命を救いたいがために医者になった人物。急病になったパートナーをどちらの医者を選ぶか?
・自己実現者が追求する14のB価値
①真
②善
③美
④全(二分の超越)
⑤生気
⑥独自性
⑦完全(必然性)
⑧完結
⑨正義
⑩簡素
⑪豊かさ
⑫無努力
⑬遊戯性
⑭自足性
◯自己実現の創造性
・創造性とは、自分自身を最大限に表現すること。本来そうであるべき自分を解放する。自分が持つ潜在的能力を最大限発揮すること。
・自己実現の定義である「人が潜在的に持っているものを開花させて、自分がなり得るすべてのものになること」と一致する。
◯成長動機と自律性
・欠乏動機:生理的欲求、安全の欲求、所属と愛の欲求、承認欲求
・D成長動機:自己実現の欲求
・自己実現者は、課題=本質的価値(B価値)を追求する。美や善、完全、正義といったB価値は、ある程度達成しても人は満足しない。さらに先へと最深部を目指して人は突き進む。人はB価値の追求に飽きることはない。これが成長動機の本質。
・自己実現者は、自分自身の成長が最大の関心事。他人事ではなく自分事。環境依存型ではなく、自律的な独立自足型。
・ところが私たちは、最悪のものに対するのと同じように、最上のものに対しても恐れを持っている。「私には不可能だ」と考える。この傾向を「ヨナ・コンプレックス」と呼ぶ。
・自己実現を目指すには4つの方向がある
①成長を魅力あふれる喜ばしいものとする
②成長の恐れを最小限にする
③安全方向への誘引力を小さくする
④安全、防衛、病気、退行の恐れを最大限にする(リスク意識を高めて成長への原動力にする)
◯6階層目の「超越的な自己実現者」
・自己実現はしているものの至高経験がほとんどない自己実現者を「超越的でない自己実現者」。至高経験を持つ自己実現者を「超越的な自己実現者」と分類した。俗にいう、マズローの5段階欲求は、マズローの6段階欲求と表現するほうが正確。
・超越的な自己実現者と、超越的ではない自己実現者を分ける最大の特徴は、至高経験。あるいは、B価値の認識が持続して続く高原認識の有無。
・至高経験や高原経験が人生の最も貴重な一面になっていること、無意識のうちにB価値の話題がのぼること、世俗的なものの中に神聖さを認めること、B価値が行動の主要な動機になっていること、非言語手段での意思疎通が可能なこと、美に対して敏感に反応すること、人類は一つ宇宙は一つと感じる傾向が強いこと、シナジーへの自然な傾向が強いことなど。
・至高経験により、世界が持つ究極的な価値を経験的に知ることができる。至高経験前後に世界がどのように見えるのか、要約すると「真、美、全体性、二分法超越、生々躍動する過程、独自性、完全、必然、完成、正義、秩序、単純、富裕、安易、戯れ、自足」