『「幸せ」について考えよう(NHK100分de名著ブックス)』(島田雅彦他)
本書は、以下の4冊の要点をまとめた一冊。幸せと一言で言ってもいろいろなアプローチがあります。人それぞれの幸福感を自分に合った著書で探せるところに4冊をまとめた意味があり、逆に言えば1冊では語れないということでもあると思います。
①『好色一代男』『好色一代女』(井原西鶴)<解説:島田雅彦>
【本書の学び】
①執念深さがあればそれも幸せに繋がる形。
②変化は不安だが一度理解してしまえば安心できる。経済も同じ。
③「自由」と「承認」の両立を探し求めると幸福に行き当たる。
(印象に残ったところ・・本書より)
・書くことの4つの動機(①英雄になりたい、②復讐したい、③モテたい、④現実からの逃避の道を見出したい)が全て当てはまるのが西鶴の著書。とりわけ『好色一代男』の世之介というキャラクターには全部の願望が詰まっている。
・世之介の志は、それほど褒められたものではないが、しかし男として生まれたからには誰もが一度は夢見る好色の道、愛欲の世界を、死ぬまで徹底的に追求してやるぞというもの。モテたいとの人間の根源的欲求を全面的に肯定している。
・『好色一代男』は、読者をあたかも自分がモテまくり、快楽を伴う恋愛状態であるかのように錯覚させるテキスト。
・『好色一代男』と『好色一代女』は江戸時代の封建制の元で、考えられるあらゆる愛の形を描いている。幸福を最も実感できる営みである恋愛の可能性を徹底的に追求した結果、出来上がった物語は、幸福について回る哀しみや無常や諦念にまで筆が届いている。2人ともある悟りに到達するが、それでも懲りるということがない。その執念深さがあれば、最後はどんな目にあっても幸福だとは言えないか。
・『国富論』は経済が人の「心」に及ぼす影響まで論じられている。分業が進むにつれて人々の大部分の仕事が「単純な仕事に限定」され、仕事において「理解力を働かせたり、創意を働かせたりする必要がない」ため、「人間としてなりうる限り愚かで無知になる」「寛大、高貴、あるいは優しい感情を持つこともできなくなる」と警鐘を鳴らしている。
・カラクリを知ることほど、不安を払拭するためによく効く薬はない。『国富論』はカラクリの解明に終始しているほんと言っても良い。重商主義のカラクリ、分業のカラクリ、貿易のカラクリ、租税制度のカラクリ、国家財政のカラクリ、、、
・人間は歴史と無関係に初めから自由な存在なのではなく、「時代の精神」がゆっくりと歩んでいく歴史の中で、だんだん自由というものを知っていく。初めは自由など知らず人々が密接にかかわり合って生きていた共同体の段階から、次第に「私個人」の感じ方や生き方に気づき、それを実現しよとしていくと捉えた。
・自由は基本的に大変大切なことであると思う一方で、方向を誤るという面もある。自分だけの自由な生き方を追求していくと、他者や社会とのつながりを失い、いつしか孤独になってしまう。自分生きる意味もわからなくなったりする。
・自己意識は他者からの承認を求めるもの。自分は価値ある存在だと自分でも認識したいし、同時に他人からもそう認めて欲しい。
・自己意識には、「私は私だ」という自律性、自由を表現したいという欲求もある。
・自分とは個別性に囚われた存在で間違うこともあるが、だからこそそれを自覚して常に他人と語り合い、本当に良いことを確かめ合いながら生きていくということ。そんな経験を積み重ねて、絶えず自分を新しくしながら、社会の中でいい仕事をしていくということ。そんな生き方ができれば、人は自由にもなれるし、同時に幸福にもなれる。
・幸福のカギを握っているのは自我。自我が安定している状態のときに、心は「幸せ」を感じる。しかし、一時的に自我が安定したとしても、それは幸福とは言えない。一時的な幸福は単なる「快」であって、本当の幸福とは、もっと永続的なものを意味する。
・「不安や悩みのない人間などは、この世に存在しない」「すべての人間は心の病を発症する原因を抱えている」といったフロイトの言葉に触れることで、自分が抱えている悩みや苦悩が、自分一人の問題ではなく人類全てが抱えている問題であることに気づいて、少しは気持ちが楽になるのではないか。
![別冊100分de名著 「幸せ」について考えよう (教養・文化シリーズ) 別冊100分de名著 「幸せ」について考えよう (教養・文化シリーズ)](https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/51lOmZr3-UL._SL160_.jpg)
別冊100分de名著 「幸せ」について考えよう (教養・文化シリーズ)
- 作者: 島田雅彦,浜矩子,西研,鈴木晶
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2014/04/25
- メディア: ムック
- この商品を含むブログ (1件) を見る