著者は、昭和の仏教思想の大家。本書は昭和44年に発売された、ブッダの生涯と思想をまとめた著者の代表作です。その後、中村元選集『ゴータマ・ブッダ』Ⅰ・Ⅱとしてまとめられたものをあらためて、全3巻にわたってまとめて新装発行されたものです。上巻は、ブッダの誕生からさとりを開くところまで。「ブッダは何をさとったか」というあたりは、とても興味の湧く内容でした。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯若き日の悩み
・『あぁ短いかな、人の生命よ。100歳に達せずして死す。たといこれ以上長く生きるとも、また老衰のために死す。』
→「若き日の驕り」「健康の驕り」「いのちの驕り」。驕り高ぶるということは、普通は高位顕官にある人々、財産のある富豪、深い学殖を具えた学者、常人には真似のできない技術を持つ職人、芸術家のものであると考えられ、時には世人はこういう高ぶった態度を示す人々を非難する。
→しかし、問題はもっと深刻である。非難する世人自身が実は驕りを持っているのである。自分は若い、元気だ、生きているということを誇っている。その驕りは人間に本質的なものだ。そして空虚なものである。まさに人間存在の本質をついているのである。
◯悪魔の誘惑(『スッタニパータ』より)
自分の内面から自分を誘惑する10のもの
①欲望
②嫌悪
③妄執
④飢渇
⑤疑惑
⑥睡眠
⑦恐怖
⑧見せかけと強情
⑨誤って得られた利得と名声と尊敬と名誉
⑩自己を褒め称えて他人を軽蔑すること
◯何をさとったか(十二因縁をさとったという伝承)
・7日の間ずっと足を組んだままでときに世尊(ブッダ)は、その7日がすぎてのちにその瞑想から出てきてその夜の最初の部分において縁起(の理法)を順逆の順序に従ってよく考えられた。
すなわち、
「無明によって生活作用があり、
生活作用によって識別作用があり、
識別作用によって名称と形態があり、
名称と形態によって6つの感受機能があり、
6つの感受機能によって対象との接触があり、
対象との接触によって感受作用があり、
感受作用によって妄執があり、
妄執によって執着があり、
執着によって生存があり、
生存によって出生があり、
出生によって老いと死、憂い、悲しみ、苦しみ、愁い、悩みが生ずる。
このようにして苦しみのわだかまりがすべて生起する」
「しかし、
貪欲をなくすことによって無明を残りなく止滅すれば、生活作用が止滅する。
生活作用が止滅するならば、名称と形態とが止滅する。
名称と形態とが止滅するならば、6つの感受機能が止滅する。
6つの感受機能が止滅するならば、対象との接触も止滅する。
対象との接触が止滅するならば、感受作用も止滅する。
感受作用が止滅するならば、妄執も止滅する。
妄執が止滅するならば、執着も止滅する。
執着が止滅するならば、生存も止滅する。
生存が止滅するならば、出生も止滅する。
出生が止滅するならば、老いと死、憂い、悲しみ、苦しみ、愁い、悩みも死滅する。
このようにしてこの苦しみのわだかまりがすべて止滅する」と。
私の場合、ブッダの教えや仏教を「宗教」というより「学問」の対象として興味が湧いて、特に原始仏教(ブッダの説法をまとめたもの)を中心に読んでいます。日々の過ごし方、ビジネスの場面など、さまざまな場面で自分の感情変化、感情を通じて思考の状態、ひいては在り方そのものを見つめ直すきっかけになっています。著者の著書はとても平易な表記で分かりやすいので、私のような読み物として読む読者にも読みやすいと思います。