MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

あなたの会社は原価計算で損をする(一倉定)

『あなたの会社は原価計算で損をする』(一倉定)(◯)

 著者(1918-1999)は、「日本のドラッカー」と呼ばれた経営コンサルタントで、約1万社の企業を指導してこられました。机上の理論や知識に異論を唱え、競争社会で企業が生き残るために本当に必要な実務の観点から物申される視点が素晴らしく、経営者及び経営者を補佐する経営陣の方に読んでもらいたい一冊です。私にとってもしばらく探求を続けたい著者です。

 本書は、復刻版3冊のうち1作目。昭和38年の作品です。テーマは管理会計。国が作った原価計算基準「全部原価計算」(固定費を生産数量で割って原価に配賦する)は会計上の話でこれを鵜呑みにすると間違った経営判断になってしまうと異議を唱え、「直接原価計算」(売上ー変動費限界利益をベースに、変動費と固定費を分けて計算する)を推奨することを述べた一冊です。

 「全部原価計算」では固定費が製造原価に上乗せされるので、一見「赤字だから生産は中止しよう」と判断してしまうところ、「直接原価計算」では、「売上ー変動費限界利益が黒字であれば、生産を続けよう」という判断となり、両者の経営判断が異なることを指摘。これは、管理会計を学んだことがあることなら、スッと入ってくる内容ですが、簿記など財務会計しか学んだことがない方には、ぜひ押さえておきたい内容です。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

※本書では、計算の実例が多数掲載されていますので、具体例は本書をご参照ください。

原価計算

原価計算の本当の目的は、経営政策決定のため。

・全部原価計算=売上高ー売上原価(変動費に固定費を割掛けたもの)=利益

・直接原価計算=売上高ー売上原価(変動費)ー固定費=利益

 ⇨固定費を売上原価に含めないところがポイント

限界利益=売上高ー変動費=固定費+純利益

 

◯売価の見積り

・製品価格=一台あたり変動費+一台あたり限界利益

・一台あたり限界利益=単位時間あたり限界利益×一台あたり加工時間

・単位時間あたり限界利益=①÷②

①将来必要とする1ヵ月の限界利益(=会社全体のあげたい1ヵ月の総限界利益

②将来予測される1ヵ月の工場総工数(=直接工の数×1人1ヵ月の予測稼働時間)

・こうした計算をする場合、我々は判で押したように「過去の実績」から求めるように教えられてきたが、過去の実績はあくまで過去以外の何ものでもなく、過去に囚われていると後ろ向きになってしまう。

 

 経理部的発想ではなく、経営的発想で会社の数値を捉える、考え方の訓練のようなものだと思います。ちなみに金融機関の企業分析では常識的な内容ですが、昭和38年の原価計算基準が示された時には、世の流れは新しい考え方を重視していたので、著者はここに警鐘を鳴らしたということだと思います。著者の最初の作品がマネジメントや戦略ではなく、原価計算だったことからもこのテーマの大切さを感じます。