MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

物価とは何か(渡辺努)

『物価とは何か』(渡辺努)

 『世界インフレの謎』がベストセラーになっている著者の2022年の著書です。「物価が上がっている」というニュースをよく耳にしますが、そもそも物価ってどうやって決まっているの?何が物価を動かし、物価は制御できるのか?経済理論的に難しい学術寄りではなく、物価に興味を持っている一般の方に向けた一冊です。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯物価とは

・物価とは蚊柱のようなもの。個別の商品の価格の上がり下がりを緻密に調べて、それを積み上げたとしても、それで物価が分かったことにはならない。物価の理解には、商品の群れを一つの塊とみなし、その移動の仕組みを解明することが不可欠。

消費者物価指数(Consumer Price Index→CPI)は、総務省統計局が、地方自治体の協力を得ながら全国のいろいろな場所で焼夷hんの値段を調べ、それを集計することによって計算している。

 

◯CPI(消費者物価指数

・1974年には、CPIが前年比23%上昇した。これに対し、2020年のCPIは前年比0%。

・大きな商品数を持つ企業が少しでも価格を上げたり下げたりすれば、全体の物価には影響が及ぶ。だから、多くの商品数を抱える企業は、経済全体の物価の安定に相応の責任を持つと言える。

 

◯何が物価を動かしているのか

・景気と同様に、物価についても、上がるにせよ、下がるにせよ、人々の予想(気持ちの持ちよう)次第。

ハイパーインフレの事例を調べた研究では、高インフレを起こす仕組みとして、①物価がX%の率で上がると皆が予想し、②その予想を踏まえて企業や店舗が値札を書き換える、③その結果実際にその率で物価が上がる、というメカニズムが考えられるようになった(自己実現的予想)。事後の結果が当初の予想通りとなれば、人々は当初の予想が正しかったと自信を深め、引き続きその予想を前提に行動する。このサイクルが繰り返される中で、その予想が社会に広く共有されていくことになる。

 

◯物価は制御できるのか

・インフレ予想の仕組みについての、とても重要の捉え方の進展は「後ろ向きの予想」から「前向きの予想」への変化。後ろ向きとは、昨日、今日と同じことが明日も起こるという予想の仕方。

・フィリップ・ケーガンは、人々のインフレ予想は過去のインフレ率の加重平均で決まると考えた。加重という言葉がついているのは、遠い過去には小さな重み、近い過去には大きな重みという容易に重みを変えるという意味。

・後ろ向きの予想の難点は、過去に起こらなかったことは予想できないということ。

・そこで登場したのが、前向きの予想という考え方。将来何が起こるかについての情報をさまざまなルートで収集し、その情報のもとで将来はどんな経済になるのだろうかと予想するというもの。

 

◯日本人のインフレ予想

・基本的な構図は、将来のインフレ予想は、マイモデルに過去のインフレ率のデータやエピソードなどさまざまな情報をインプットすることで得られる。

・人々は自分の生まれる前のことは一旦忘れ、自分の経験したインフレ、特に最近経験したインフレをもとに、将来のインフレを予想している。

・30代では、日本人のインフレ予想が外国出身者と比べて低く、その傾向は20代でさらに顕著になっている。日本人の若年層のインフレ予想の低さが、年齢ではなく世代(経験)に由来することを示していることになる。

 

◯値上げの頻度と幅。恐るべきは頻度で、幅は恐るに足らず

・インフレ率の変動は価格更新の回数の変化によって起こる。インフレ率は、大まかにいうと価格更新の頻度と幅の掛け算。インフレ率が高まるときには、①更新の頻度が高まり多くの商品の価格が上がる、②一回の更新での上昇幅が大きくなる。このどちらか、または両方が起こる。何らかの理由でインフレになるリスクがあるときに、その予兆として警戒すべきは、値上げが広い範囲の商品で起こる。ある商品の値上げ幅が極端に大きくなったとしても、頻度や商品の広がりに変化が見られないのであれば、それほど心配はいらない。

・高インフレ期には価格の更新頻度が高く、その逆に低インフレ期には頻度が低い。インフレ率が正の高い水準からゼロに近づくにつれて価格の硬直性が高まる傾向がある。その傾向はインフレ率がゼロ近辺になると薄れる。

・直近の価格更新からの時間が経過するに従って、更新の確率(頻度)が小さくなる。

 

 物価の上昇は目下気になるテーマですが、次に来るテーマは賃金の引き上げとなります。ニュースでも大企業を中心に耳にするようになってきましたが、この辺り、企業に勤める人は、会社の方針に従うしかないので、悩ましいところですね。