MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

エミール(下)(ルソー)

『エミール(中)』(ルソー)

 著者のルソーは、1712年フランス生まれ。昔社会科の教科書で『社会契約論』とセットで暗記した記憶がありますが、もう一つの代表作が『エミール』。表紙に記載されているように、「ある教師がエミールという平凡な人間を、誕生から結婚まで、自然という偉大な教師の指示に従って、いかに導いてゆくか」が小説の形式で述べられています。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯動かす力

・それぞれの時期にはそれを動かすそれぞれの力がある。しかに人間はいつでも同じ。

・彼は10歳の時にはお菓子に、20歳の時には愛人に、30歳の時には快楽に、40歳の時には野心に、50歳の時には利欲に引っ張り回される。

・人間がひたらすら知恵を求めるのはいつのことか。知らずに知恵へ導かれていく者は幸せなことよ。どんな案内者を使っても構わない。目的地に連れて行ってくれさえすればいいのではないか。

 

◯良い習慣

・恵まれた教育の効果を一生の生活の上に拡大したいと思うなら、子供の頃の良い習慣を青年期の間に持ち続けさせるがいい。あなた方の生徒がそうあるべきものになったら、あとはあらゆる時期に同じような者でいられるようにするがいい。あなた方の仕事のこれからしなければならない最後の仕上げはそういうことだ。何よりもそのためにこそ、青年に教師を残しておくことが必要なのだ。

・あなた方が子供や青年につけさせたつもりでいる習慣は、たいてい、本当の習慣ではない。彼らは強制されて習慣を守るだけのことで、心ならずもそれに従っている彼らはそれから解放される機会を待ち焦がれているのだ。

 

◯旅について

・書物の悪用は学問を殺す。人々は、読んだことは知っているのだと思い、自分はもうそれを学ぶ必要はないと思い込んでいる。あまりたくさん読むことは、生意気な無学者を作るのに役立つに過ぎない。

・文学が冴えた全ての時代の中で、現代ほど書物が読まれていた時代はないし、現代ほど人々がものを知らなかった時代もない。

・ヨーロッパのすべての国の中でフランスほどたくさんの歴史や旅行記が印刷られている国はないし、フランスほど人々が他の国民の精神や風俗を知らない国もない。たくさんの書物は私たちに世界という書物を忘れさせる。

・観察すべき事実はどんな種類のことでも読んではならない、見なければならない、とつくづく思い知らされたからだ。旅行形がみんな正直で、見たこと、あるいは信じたことだけを語り、真実の目に触れて染まるまやかしの色だけが事実の姿を変えるに過ぎない場合にも、右のことは正しいだろう。その上旅行家のうそと不誠実の中から真実を見つけ出さなければならないとしたら、どういうことになるのか。だから評判の高い書物に頼るのは、書物を読んだだけで満足するような人々に任せておこう。

・人間というものを研究するために、地上をくまなく歩き回る必要があるのか。ヨーロッパ人を観察しに日本へ行く必要があるのか。人間を知るためにすべての個人を知る必要があるのか。そんなことはない。あるい人々は互いにとてもよく似ているので、彼を別々に研究するまでもない。10人のフランス人を見た者はすべてのフランス人を見たのだ。イギリス人や、その他いくつかの国民については同様に言えないにしても、それぞれの国民には、その国民の、一人ではダメだが、幾人かについての観察から機能的に引き出される固有の特殊な性格があるということも確かだ。

・観察するためには、みる目を持っていなければならないし、知りたいと思っている対象の方へその目を向けなければならない。旅行が書物よりもっと教えることが少ない人もたくさんいる。彼は考える技術を知らないからだ。書物を読む時、彼らの精神は少なくとも著者によって導かれるのだが、旅行しても、彼らは自分で見ることが全然できないからだ。またある者は、知らないからこそ、知ることにならない。そういう人の目的はまったく別のことにあるので、知るということにほとんど関心をもたないのだ。見たいとも思っていないものが性格に見えることは滅多にない。

 

 古典の良さは、時代が変わっても考えさせてくれる何かがあること。『エミール』上中下巻は人間教育について、あらためて考えさせてくれる良書でした。読みにくいところは飛ばしつつ、ここという要点をしっかりと押さえるだけでも十分な学びがあると思います。