『最難関のリーダーシップ』(ロナルド・A・ハイフェッツ)(◯)
『最前線のリーダーシップ』や「NHK リーダーシップ白熱教室」などで日本でも有名になった著者。本書は『最前線のリーダーシップ』の続編です。これまでの経験性や専門性で対処できる「技術的問題」とは異なり、「適応課題」はコミュニティや組織の人々が大切にしている価値観や信念を明らかにして彼らが変化に適応できるような対処が必要。この「適応する組織」に変化していくためのアダプティブ・リーダーシップの理論と実践についてまとめられた読み応えのある、学びの多い一冊です。変革リーダーシップの良書だと思います。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯「技術的問題」と「適応課題」を区別する
・リーダーシップで失敗する最大の原因は、「適応課題」を「技術的問題」として対処してしまうこと。技術的問題は、かなり複雑で重要な場合もあるが、すでに解決策が分かっており、既存の知識で実行可能である。
・適応課題は、人々の優先事項、信念、習慣、忠誠心を変えなけば対処できない。
◯アダプティブ・リーダーシップの3つの主な反復活動
①周囲の出来事やパターンの観察
⇨できる限り客観的な観察を目指さなければならない。そのためには、ダンスフロアを離れてバルコニーに上がること。
②観察したことの解釈
⇨解釈という行動はいわば「言葉に隠れたメッセージ」に耳を傾けるようなもの。
③観察と解釈に基づく介入
⇨良い介入は、組織や自分のリソースも計算されている。介入は自分の居心地の良い場所を抜け出したところで実行しなければならない。
◯始める前に(4つのアドバイス)
①孤立しない
②人生はリーダーシップの実験室だと考える
③拙速に行動しない
④難しい選択の楽しさを知る
◯システムを診断する
・適応課題の他にない特徴
①インプットとアウトプットは直接繋がらない
②公式の権力では不十分
③グループによって求める結果は異なる
④かつての成功法が時代遅れに見える
・自分の周りで起きている状況を多様な視点で捉える3つの要素
①構造(インセンティブ・プログラムなど)
②文化(規範や会議の手法を含む)
③習慣的対応(問題解決や思考・行動様式といった習慣化しているプロセス)
・組織文化と影響力を明らかにする
①伝承
組織の人々にとって最も大切なことを象徴するイメージや考えを表現している。
②慣例
組織がどのような関連を作り、どのような慣例を作っていないかを調べれば、企業の適応力がわかる。
③規範
規範を見れば、学習の機会を作っているか、あるいは現状維持を強めているかがわかる。
④会議の進め方
どのような会議が定期的に行われているか、誰が参加しているのか、どのように議題が進められているのか。そこから組織内のパワーバランス、情報交換の内容が明らかになる。
・技術的要素と適応的要素の判断
適応課題の本質は、技術的な複雑さではなく価値観や信念、忠誠心の複雑さにあり、冷静な分析よりもむしろ激しい感情を掻き立てる。そのため組織は、本質に迫ろうとせず、技術的問題としてやり過ごそうとする。・
・適応課題に直面しているかどうかは、①失敗の繰り返し、②権威への依存という2つの特徴的サインがある。
・適応課題の4種類
①大切にしている価値観と行動のギャップ
②コミットメントの対立
③言いにくいことを言わない
④回避行為(問題のすり替え、責任転嫁)
・政治的状況の診断(以下のことを明らかにする)
①直面している適応課題における利害
②望ましい成果
③関心度
④権力や影響力のレベル
⇨次いで、利害関係者が持っている以下のことを明らかにする。
①行動を駆り立てている価値観を見出す
②忠誠心を認識する
③喪失リスクの特定
④隠れた連携の把握
・適応力の高い組織の特性
①エレファント(見て見ぬ振りをされているもの)を指摘する
②組織の将来に対する責任が共有されている
③自主性のある判断が期待されている
④リーダーシップを育てる力が発達している
⑤内省と継続的な学習が日々の業務に組み込まれている
◯システムを動かす
・「ハンマーしか持っていなければ、すべてがクギに見える」
組織のためにできる最も効果的な行動は、過去に成功した技術的な対処を迅速に適用することではなく、時間を稼ぐことである。
・対立的にならないような方法のヒント
①次々と指示を出すのではなく、質問をする。
②決定事項をうまく実行するのに自分の支援が不可欠というとき、その支援を少し見合わせることによって、やんわりと拒否権を行使する。
③会議に時間的余裕を持たせて、急ぎの用件のために適応課題が後回しにされたり、目先の技術的問題として処理されたりしないようにする。
④問題の解決策を探るために、意見を聞く対象を広げる。
⑤事実かどうかの議論は、隠れた軋轢への対処を避けることになる。まず事実を確認し、その上で考え方や価値観の違いについて議論する。
・効果的な介入をデザインする
①バルコニーに上がる
②システム内の問題の成熟度を判断する
③この状況における自分の存在を考える
④自分の構想をじっくり考える
⑤静観する
⑥出現するグループを分析する
⑦適応を促す作業に常に注目を向ける
・非公式な権威を拡大する
①人間関係を強化する
②早い段階で成功を収める
③適応課題とは関係のない利害に対処する
④自分のアイデアの小さな部分から売り込む
・組織化をやり遂げるためのポイント
①対立に対してこれまで以上に寛容になる
②敵対する人たちと交流する
③拒絶したくなるような人に支援してもらう
④コミュニケーションスタイルを適応させる
・内政と継続的な学習を日々の業務に組み込む
①難しい内省的な質問をする
②リスクをとって実験することを称賛する
③メンバーに正しいシグナルを送る
④上手にリスクを取れた時には効果的に報いる
⑤行動を始めてみるよう促す
⑥複数の実験を同時に進める
◯自分をシステムとして認識する
・自分の習慣的対応のメカニズムを理解する
①忠誠心
自分にとっての忠誠心が何かを明らかにするには、次の問いかけが役立つ
1)誰に対してい一番責任を感じるだろうか?
2)いつもと違う行動を取ると、誰が一番強く反応するだろうか?
3)誰を一番喜ばせたいだろうか?誰に対して一番印象付けたいだろうか?
4)誰が一番がっかりするだろうか?
5)誰のサポートが一番必要だろうか?
②チューニング
③能力の容量
◯自分を戦略的に動かす
・よくある落とし穴を避ける
①周りが見えなくなり、聞く耳を持てなくなる
②殉職者になる
③独善的な印象を与える
④「最高目的責任者」を自認することになる
・リーダーシップのための勇気を出せない原因
①自分の行動を正しいと信じてもらえない人たちへの忠誠心
②能力がないことへの恐怖心
③正しい道筋であるかどうかの不安
④喪失に対する恐怖心
⑤厳しいチャレンジに立ち向かう気持ちの不足
・上記を克服するアイデア
①自分の言葉と行動の違いに注意する
②目の前のことに向き合う
③作り変えなければならない忠誠心を特定する
④必要な会話を行う
⑤先人への忠誠心を作り直すための慣例を作る
⑥自分が守っているものに集中する
大事なポイントが多すぎて、あっという間に線だらけ。まとめるのも一苦労です。随所に「バルコニーにて」(俯瞰目線で)、「現場での実戦演習」という項目が挟まれており、これがまた勉強になります。『最前線のリーダーシップ』と合わせて読むとさらに効果的だと思います。
- 作者: ロナルド・A・ハイフェッツ,マーティ・リンスキー,アレクサンダー・グラショウ,水上雅人
- 出版社/メーカー: 英治出版
- 発売日: 2017/09/06
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