『あしたへの論語』<後編>(松崎昇)
『あしたへの論語』<後編>(松崎昇)(◯)
サラリーマンである著者が論語を学んで10年、全500章近い論語の全訳解説を記した本書。学者ではなく、サラリーマンが書かれたということで、堅苦しくなく読みやすい記載です。一方で、様々な東洋思想を学んでおられ、論語以外からの引用も多く、学び多い一冊です。手軽に参照できる逐条解説として使い勝手がよく、保存版にしたい内容でした。後半戦も約470ページ。印象に残ったところをピックアップしてみましょう。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯3つの「き」を見る(易経より)
①幾:ごくわずかな兆しや機微
②機:仕掛けなどを動かす小さな基軸のことで物事のツボ
③期:時機が熟し満ちること
→ごくわずかな変化の兆しを察し、その物事の勘所に焦点を合わせ、時の熟するのを待つこと
◯「学」がないと・・・
・「六言の六弊」(仁・知・信・直・勇・剛)
①仁を好むだけでは愚人と同じで簡単に人に欺かれる(仁→愚)
②知を好むだけでは行いに締まりなく徒らに博識を誇るだけ(知→蕩)
③信を好むだけでは道理をわきまえず物事をやり損なう(信→賊)
④直を好むだけではすぐに人を責め余裕がない(直→絞)
⑤勇を好むだけでは徒らに突進し反乱を起こしやすい(勇→乱)
⑥剛を好むだけでは落ち着きがなく狂人のようになる(剛→狂)
◯仁を問う
・仁とは、自分に克って礼に復ることをいう。一日、自分に克って礼に復れば天下のすべての人が仁道に帰する。
・仁をなすことは自分に由る。他人に由るのではない。礼に非ざれば視ることなかれ、礼に非ざれば聴くことなかれ、礼に非ざれば言うことなかれ、礼に非ざれば動くことなかれ。
・克己復礼の礼とは、人間社会の作り出した美しい法則であり、規約である。己に克つということは、自我を没して己の私欲に打ち克つことである。すべての人々がこの修養をしていくと、その秩序ある社会には争いは起こりえないはず。
・克己ということは、人と己との差別を撤廃することでもある。故に克己のできたときが、真の意味の万物一体なる、心の公平を得ることであるから、これまた仁道に至る道と言い得られる。
・礼は人間界の作りなした儀則ではあるが、元来、これは自然の中に存在する節度を本としてできたものである。
◯「己の欲せざる所人に施すこと勿かれ」(孔子)
・「人からしてもらいたいと思うことを人にしなさい」(キリスト教)
・「あなたのしてもらいたくない方法であなたの兄弟たちを扱ってはならない」(イスラム教)
◯悟りと迷い
・「人間は迷いがあるから悟りがある。逆に迷わない人に悟りはありません・・・孔子も様々な葛藤を乗り越え四十にして迷わなくなった」(伊輿田覺)
◯四悪
①克:他人に勝ちたがること
②伐:他人に威張りたがること
③怨:他人を恨むこと
④欲:私欲に流されること
◯変易、不易、簡易
・不変なようで変化していたりする。これを「変易」「不易」という。
・変化の前には必ず兆しが見られ、この兆しは人間界にも一定の法則のもとに見られる。それが読めるようになれば時制は「簡易」なる簡単なものとなる。
◯思考の3原則
①目先に捉われないで長期的に見る
②一面に捉われないで多面的に見る
③枝葉末節に捉われないで根本的を見る
◯鵜呑みにしない
・「子曰く、衆之を悪むも必ず察し衆之を好(よみ)するも必ず察す」
→大衆がその人を悪く評しても必ず自分の目で注意深く観察しなければならない。大衆がその人をよく評価しても必ず自分の目で注意深く観察しなければならない。
・鵜呑みにせずしっかりと自分の目で見極めなさいということ。
◯人間と過ち
・「子曰く、過ちて改めざる是れを過ちと謂う」
→過ちを改めないのが過ちだ。
・「過ちては則ち改むるに憚ること勿れ」(学而、子罕)
・「人の過は、各其の党(たぐい)に於てす。過ちを観ては斯に仁を知る」(里人)
・「顔回というものあり・・過ちを弐たびせず」(雍也)
・「小人の過つや必ず文(かざ)る」(子張)
・「君子の過ちは日月の食の如し。過つ時は人皆之を見る。更むるときは人皆之を仰ぐ」(子張)
◯君子の九思
①表面的なことに捉われず本質を見る
②話を聞くときは聡く聞き分ける
③顔色は温和である
④容姿は清潔である
⑤言葉は真実を語る
⑥事を執り行うときは正確である
⑦瞬間に思ったときは下問を愧(は)じない
⑧怒りを覚えたときは後で後悔することを思う
⑨利益を受けるときは道義にかなっているかを思う
◯習慣
・「子曰く、性は相い近し、習うは相い遠し」
→人の持って生まれた性質はあまり変わらず近い。その後の習慣が違いを遠くする。
・人は生まれより習慣が大事。
・性質は近きもので憂いへとつながる。習慣は遠きもので幸せへとつながる。
◯詩経を学ぶ意義
①直接的ではなく間接的な喋り方をするようになる
②庶民の生活ぶりから人間の心情を知るようになる
③他人の気持ちを理解でき良人が集まるようになる
④怨みについて正しき怨みの形を知るようになる
⑤父母への孝行のあり方を知るようになる
⑥君(上位者)へ仕える道を知るようになる
⑦人間を取り巻く自然界への万物の名を知るようになる
本書の使い方としては、前から順に読むのもいいと思いますが、私としては、一読したので、今後は、論語の言葉に出会った時の参考図書的に参照するという使い方もになりそうです。論語の言葉に関連して、他の東洋哲学の書物から引用した言葉が散りばめられているのが魅力です。
あしたへの論語 サラリーマン三〇〇〇日の「人間学」探究 ―後篇
- 作者: 松?昇
- 出版社/メーカー: 梓書院
- 発売日: 2017/01/20
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