MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

リスキリングは経営課題(小林祐児)

『リスキリングは経営課題』(小林祐児)(◯)

 ここ最近の流行ワード「リスキリング」。DX化の推進とともに学び直しなど中高年社会人教育にフォーカスがあたっています。パーソナル総研上席主任研究員の著者が議論のベースとなるデータを提供しながら、学び直しの必要性や何をどのように学んでいくとよいのかという観点がまとまった良書です。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯「変わらなさ」の根本に助け合いの不都合な真実あり

・「相互依存性の高いメンバーが、チームで仕事を行う」という日本の慣習が、強みを生んできたと同時に、現場での変化とスキルの発揮を「抑制」する方向に作用していそう。

・日本組織の特徴はことごとく「変化創造」というプロセスと相性が悪い。

・日本企業の横のつながり、メンバー間の職務横断的な協働関係を支えてきた「助け合い文化」や「業務の相互依存性」が、「個のアイデア」や「変化を生む意思」を削いでしまう(変化抑制意識)を高めているのは極めて興味深い。

 

◯リスキリングを支える3つの学び

①捨てる学び(アンラーニング)

・これまでの仕事に関わる知識やスキル、考え方を捨て、新しいものに変えていく

②巻き込む学び(ソーシャル・ラーニング)

・他社を積極的に巻き込みながらともに学んでいく

③橋渡す学び(ラーニング・ブリッジ)

・学んだ事柄同士や学びと仕事を結びつけていくこと

 

◯「変化抑制」に対する処方箋

①変化報酬型施策

・何らかのベネフィットを与えることによって、予期されてしまったコストの「打ち消し」を狙う発想

②挑戦共有型施策

・変化抑制意識を生じさせないための施策。変化を起こしたい組織にとって必要なのは、変化や挑戦のための「風土改革」や「意識改革」ではなく、「予測改革」。一般的なリスキリングとデジタル・リスキリングの両方に影響していたのは、上司の「探索行動」を部下が認知していること。

 

◯学びの共同体の仕組み

・コーポレートユニバーシティの潮流。企業が「学校」という独自の教育機関を通じて人を内部育成する施策は、もともと日本の製造業の十八番。

・DX人材育成、リスキリングブームの中で、大企業・中小企業ともにこのコーポーレート・ユニバーシティ方式を取り入れる企業が増えてきた。

・日立アカデミー、トヨタインスティテュート、ローソン大学、HAKUHODO UNIV. ダイキン情報技術大学、Yamato Digital Academy、Zアカデミア(ヤフー)など

 

◯対話型ジョブマッチングシステム

・世代を問わず、キャリアについて他者との「対話」の機会をベースにおき、社内公募や副業、社内留職のような形で事業部が人材を募集し、それに個人が手を挙げて流動していく仕組み。

・自分の仕事やキャリアについて他の誰かに自己開示し、相談する経験を持つ人ほど「変化対応力」が高い。

 

◯リスキリングの議論が表層的なものになる理由

・ほとんどのリスキリングの発想は、「未来に必要なスキルを明確化し」→「そのスキルを新たに身につけて」→「ジョブ(ポスト)とマッチングする」という線的な「工場モデル」に従って議論されている。

・工場モデルの欠点

①「個」への過度なフォーカス

 人の学びとは、他者との相互作用の中で「社会的」かつ「共創的」に営まれる。組織で行われる学びとは「個」の学習を単純に足し合わせた総和ではなく、総和以上の創発的なメカニズムを持つことが示されてきた。

②学びの偏在性

 工場モデルは「学ぶ人しか学ばない」という学びの偏在性を解決できない。

③スキル明確化という出発点

 現在のリスキリングはDXというさらに広義なバズワードに紐づいてしまっている。「スキルニーズの明確化」をスタートに置く時点で、リスキリングの議論は現実味のない「教科書的なきれいごと」へ堕ちていく。

 

 日本人は、世界的にみても学びの習慣がないようです。学生時代の受験勉強と社会人になって仕事が軌道に乗るまで学んだら、あとは自然体。管理職になって部下よりも猛烈に学んでいる人がどれくらいいるか?100年人生をより楽しく生きていくためにはある程度の収入が必要となり、65歳退職後引退というわけにもいかない長期ライフプラン。60歳になってから学び直すのではなく、できるだけ早いうちからパラレルキャリアを持つくらいの感覚で、インプットとアウトプットを回していけるといいなと思います。