フォーカス(アル・ライズ)
『フォーカス』(アル・ライズ)(◯)<2回目>
原書は1997年。著者は、世界屈指のマーケティング・コンサルタントで表紙でも「全米No.1マーケター」と評されています。著者は多数の書籍を出版されていますが、非常に学びの多い良書ぞろいです。今回、久しぶりにビジネス学び直しの一環として読んでみました。多角化への警鐘とある特定の強みにフォーカスする「フォーカス論」の実践を説いた一冊です。二兎を追う戦略は、一つの強みに絞ったフォーカスする企業に負けてしまう。
利益は大切ですが、売上も重視される世の中。売上が伸びていない→成長していない→ダメな企業と単純視されることも多く、売上を増やすために多角化してしまうという安易な流れが危うさを引き寄せる。
米国のトップ企業を見ても、多角化で成功しているのはGEだけとごく例外的。とにかく線引きが多数になる良書は、再読してもやはり良書でした。
(印象に残ったところ・・本書より)
・クローゼットの中を整理整頓しても、1ヶ月後にはまた散らかっているのはエントロピーの法則が働いている。
・これと同じように、あらゆる企業は、時を経るにつれてフォーカスを失っていく傾向にある。
◯フォーカス
・長い目で見れば、勝つ企業とは「最もよくフォーカスできている企業」であり、負ける企業とは「最もフォーカスできていない企業」。
・フォーカスすることは経営の鉄則。
・フォーカスを失うのは企業の宿命。
◯フォーカス例
・米国航空業界は、ことあるたびに二兎を追ってきた。
「旅客を取るか、貨物を取るか」
「ビジネス客を取るか、観光客をとるか」
「国内線にとどめるべきか、国際線も手掛けるべきか」
・さらに迎えた岐路は、「ファーストクラス、ビジネスクラス、エコノミークラスのうち、どのサービスを手がけるか」だったが、大手各社は揃って3タイプすべてのサービスを提供した。
・「二兎を追う戦略」は、崩壊する運命にある。時間の経過とともに、業界内にフォーカスを絞った競合他社が現れるから。それが、機種ひとつ、低価格に絞った、サウスウエスト航空。
◯ライン拡大への6つの誘惑
①販売・流通:この販路を利用して、他にも何か売れるのではないか?
②製造:工場の製造効率を上げて、間接費を削減できる方法はないか?
③マーケティング:どんな市場でも自分たちのマーケティング手法が通用すると思ってしまう。
④顧客のライフサイクル:この先、顧客の年齢が自社商品のターゲット層を超えたらどうなってしまうのだろうと自問する
⑤地理的問題:地理的に拡大したい
⑥価格設定:我々の価格設定には手が届かないという顧客もいる。どうにかできないものか?
◯ピーター・ドラッカーの言葉
・「集中そこ成功のカギである。経済的成果を上げたいなら、経営者は、最大の収益をもたらす少数の活動に集中せねばならない。しかしこの基本原則は、ことごとくないがしろにされ、なんでも少しずつやろうがビジネス・モットーになってしまっている」
◯トイザらスの5つの成功要因
①フォーカスせよ
②品揃えを豊富にせよ
③安く仕入れよ
④安く売れ
⑤市場を独占せよ
◯重要なのは「良い品質」より「良いイメージ」
・誰もが品質にこだわるが、その実、違いはわかっていない。これが現実。ほとんどの製品は、製造コストも、見かけも、使用感もほとんど変わらない。そう、実際には、「品質」ではなく「好み」で選んでいる。スタイル・味・ルックスについては、とりわけそうだ。見た目、触り心地、味わいこそが重視される。
◯イメージを高める4つの方法
①「専門」効果:病状が深刻な時、人は内科医や町医者ではなく専門医に診てもらうだろう。
②「業界トップ」効果:業界トップは、高品質のイメージを高めるだけではない。地位そのものを強化してくれる。
③「価格」効果:高品質というイメージを広めたいなら、価格を上げること
④「ネーミング」効果:より専門性を訴える商品名にすること
◯万人ウケを狙わない
・どんな戦略であろうと、その展開上、最大にして唯一の障害がある。「非顧客層を取り込むために、万人にアピールしなければならない」という企業の思い込み。
・競争が存在する以上、市場を100%獲得することはできないという現実を受け入れれば、消費者の心に刻み込む言葉も格段に見つけやすくなる。
・犠牲を払うことは、すべてをあきらめることではない。それは、自分のポジションを「定義」すること。自分のポジションを定義するとは、自分と関わりのないものは何かを見極めることでもある。
◯フォーカスを成功させる15の秘訣
①フォーカスは、シンプルであれ(シンプルな言葉がフォーカスになる)
②フォーカスは、記憶されなければならない(個性的か?思いがけない言葉、否定的な言葉を効果的に使う)
③フォーカスは、パワフルでなければならない
④フォーカスは、革命的であらねばならない(伝統的な考え方とは対立する、「成長は善だ」と信じる限り、フォーカスは却下される)
⑤フォーカスは、敵が必要である(コングロマリットには敵がいない。ビジネスには有力な敵が必要)
⑥フォーカスは、未来を切り拓く
⑦フォーカスは、社内にも必要(採用すべき人材、推進すべき研究開発、導入すべき製品がわかる)
⑧フォーカスは、国家にも必要
⑨フォーカスは、製品そのものであってはならない(競合他社は正反対のイメージを打ち出してくる)
⑩フォーカスは、傘であってはならない
⑪フォーカスは、万人にアピールするものであってはならない
⑫フォーカスは、見つけにくいものであってはならない
⑬フォーカスは、すぐ効くものであってはならない(短期間では効果がわからない)
⑭フォーカスは、一般的戦略であってはならない
⑮フォーカスは、永久には続かない
本書で述べられていることは、大企業だけでなく、例えば個人創業している方や副業をしている方にも当てはまるかもしれません。何で尖るのか。これは、「一倉定シリーズ」でも「市場専有率」が何よりも大切という教えともつながります。一つのことにフォーカスし、そこでラインナップを広げていく。その絞り込みに必要なのは、自社の理解、先を読む力、そして決断する勇気なのかもしれません。