MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

マインドコントロール(岡田尊司)

『マインドコントロール』(岡田尊司)(◯)

 マインドコントロールには、他人の心理状態を操作することにより他人を支配したり搾取したりするマイナス側面と自分の心理状態をコントロールすることで能力を発揮したり、より高いパフォーマンスを実現するポジティブな面がある。本書は、精神科医であり作家でもある著者が医療少年院の臨床現場で長年かかわってきた経験も生かした内容で、とても興味深く、内容もよくまとまっています。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯マインドコントロールのプロセスは「トンネル」

・「トンネル」は細く長い管状の通り道で、下界から完全に遮断されている。入り口を入れば出口まで光はない。そこには2つの要素がある。外部の世界からの遮断と視野を小さな一点に集中させること。トンネルの中を潜り続けている間、そこを進んでいく者は、外部の刺激から遮断されると同時に、出口という一点に向かって進んでいるうちに、いつの間にか視野狭窄に陥る。

・「トンネル」は、教育や訓練の方法として、効率的で強力なものであるが、それは他の多くのものを犠牲にするということを知っておくべき。子供をトンネルに誘い込むことは、知らず知らずに、ある種のマインドコントロールを施すことに等しい。

 

◯問題集団が陥る「全か無か」のワナ

・純粋な理想主義者が抱えやすい一つの危うさは、潔癖になりすぎて、善か無かの二文法的な思考に陥りやすい。

・そうした集団心理は、2つの方向に左右する。①誰かが次の「裏切り者」になりはしないかと、周囲に対して目を光らせ、相互監視をする心理状態が生まれる。②自分が「裏切り者」となることを強く禁圧する方向に働く。

・強い集団プレッシャーのもとでは、「裏切り者」となることは、命を失うことよりも恐ろしいこと。

 

◯マインドコントロールする側の特性

①閉鎖的集団の中で優位な立場にいる

②弱者に対する思いやりや倫理観の欠如

③マインドコントロールを行う者にとっても支配することが快楽になっている

 

◯マインドコントロールされやすい要因

①依存的なパーソナリティ

 主体性の乏しさと過度な周囲への気遣いを特徴とするパーソナリティ。愛着不安が強いだけに、誰かに頼らないと自分を支えられないため、手近な別の人に、すがり付くということが起きやすい。

②高い被暗示性

 入ってくる情報に対して信じていいか、信じるべきではないかを批判的に判断する能力が低下した状態。全ての情報を無批判に信じてしまいやすい。

③バランスが悪い自己愛

 1)自らが神のような偉大な存在でありたいという願望、2)自らが神のような存在となることはできないが、神のような偉大な存在を崇拝し、その存在に自らの偉大な存在でありたいという願望を投影することで間接的に満たされる。

④現在及び過去のストレス、葛藤

 人の顔色を気にする傾向や他人に依存しようとする傾向も強まり、人から支配されやすくなる。

⑤支持環境の脆弱さ

 孤立や精神的な支えの乏しさが、マインドコントロールを容易にする。

 

◯暗示

・効果的なのは、善意の第三者としての意見を小声で囁くこと。 「あなたは騙されている」と匂わせられたり、「なろうと思えば王にもなれるのに」と予言めいたことを耳にすることは、正攻法で説得される以上に心を動かされる。

・第三者的な仄めかしは、説得する意図をあたかも持っていないように振る舞うことで相手の抵抗を避けることができる。第三者の目から見た「観察事実」を述べたに過ぎないように見せかけるのだ。誰もそれを信じてくれとは言っておらず、それゆえ、それを否定することはかえって難しい。

 

◯転移のワナ

無防備で善良な人ほど、頼られ悩みを持ちかけられると、なんとか助けたい、力になりたいと入れ込んでいくうちに、いつのまいか恋愛感情に陥り、自分の家族や生活を捨ててまでその人に尽くそうとすることも珍しくない。

・職業としての専門家が、相手の内面の悩みを聞いたり、秘密を打ち明けられる仕事を行う場合には、転移の危険を知って、それを適切に扱うことが、職業倫理として不可欠。

 

◯情報負荷に左右される脳機能

・入力情報が極度に不足した状態に置かれると、脳はどんな情報でも取り込み、吸収しようとする。それまで信じていた信念と異なる内容の情報であろうと、抵抗なく吸収しようとする。その結果、それは強く浸透し、そのれまでの信念に取って代わることもおっこる。

・情報過負荷の状態が続くことによっても、脳は次第に主体的な思考力や判断力を失っていく。最初は強い反発と抗議を呼び起こすような考えであっても、さらにまた同じことを言われ続けると、最初ほど強い反発や抗議を続けられなくなっていく。

 

◯マインドコントロールの5つの原理

①情報入力を制限する、または過剰にする

 「トンネル」状態を作り出すこと。

②脳を慢性疲労状態に置き、考える余力を奪う

 脳のキャパシティ自体を低下させること。過剰な情報を負荷して処理能力をオーバーした状態を作り出す場合、同時に脳の処理能力自体を低下させれば、主体的な判断能力を奪うことが一層容易になる。

③確信を持って救済や不朽の意味を約束する

 隔離と情報遮断によって、欠乏状態におかれたうえで、希望や愛が与えられると、それは一層光り輝くようなものとして体験される。

④人は愛されることを望み、裏切られることを恐れる

 群れで生活するのが基本である人間は、一旦仲間だと認めたものに対して、忠誠を尽くすという本能を持っている。

⑤自己判断を許さず、依存状態に置き続ける

 自分で考えたり決定したりすることを極力排除し、支配する者だけが意思決定を行い、本人はただそれだけに従う。

 

 良くも悪くも、意識的に無意識のうちに利用されるマインドコントール。どちらかというと、マイナスイメージが強いと思いますが、意識的に情報量を少し減らして吸収しやすい状態を作ってから勉強するなど、プラスに意識的に使っていくと、インプットの生産性が高まりそうです。「いいこと知った!」そんな感想が聞けそうな日常に役立つ一冊です。

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