『獄中からの手紙(NHK100分de名著ブックス)』(中島岳志)
先に岩波文庫を読んでいたので、復習として読んでみました。やはり、100分de名著シリーズはまとめ方が秀逸で理解しやすいなと思います。ちょっと難しそうな名著を読むならまずはこのシリーズからがお勧めです。本書は、インド建国の父ガンディーが「塩の行進」で逮捕された際に獄中から修行道場アーシュラムに向けて送り続けたメッセージをまとめた『獄中の手紙』のエッセンスがまとめられています。「非暴力」「スワデーシー」など、お馴染みのガンディーのテーマが収められています。
【本書の学び】
①有限な人間に永遠の真理は掴めない
②受け身の姿勢で生きることは、人をコントロールしないことでもある
③スピードを落とすことも大事。ゆっくりとした中に本質がある。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯真理
・真理は唯一であると考えた。その真理は人間である以上掴みきれない。人間はいつか死んでしまう有限なものであり、その有限なものが「真理」という無限なるものを全て把握することはできない。
・人間にできるのは、真理を「究極には掴みきれない、しかし確かに唯一のもの」として想定し、かつそこに至る道について語ることだけ。
・宗教が違ってもそれは道であって、どこを通っても真理に至る。それなのに、道の違いであってなぜ争っているのか?
・「神は真理なり」と言うよりも「真理は神なり」といったほうが、より的確。
◯個別の宗教は不完全
・すべての宗教は、有限で不完全な存在である人間の言葉によって紡がれている。
・人間が考え出した宗教がどれも皆不完全だとすれば、宗教の優劣を比較するといった問題は起こりえない。どの宗教もみな、真理の啓示によって成り立ってはいるが、同時にみな不完全であり、過ちを免れない。一なる完全な宗教は、一切の言語を超えたもの。
◯文明
・文明とは、人間が自分の義務を課す行動様式。義務を果たすことは道徳を守ること。道徳を守ることは、私たちの心と感覚器官を統御すること。このよう見して私たちは自身を認識する。
・つまり、文明というものは意思を持って超えていかないといけないもの。
◯請願の重要性
・誓いを立てるというのは、弱さの証拠ではなく、強さの証拠。神は請願のイメージそのもの。
・言葉の本当の意味における文明は、需要と生産を増やすことではなく、慎重かつ果敢に欲望を削減すること。欲望は全て捨てろとは言わない。あくまで「減らせ」。
◯アヒンサー(愛)
・アヒンサーは寛容という概念とパラレル。差異と同一性という絶対矛盾の中に生まれてくる感情があって初めて他者に対して寛容になれる。他者を尊重しようという意識が生まれる。
・愛=アヒンサーとは、万人に対する、さらに言えば万物の生に対する「博愛」に近いもの。それゆえ、ある特定の相手に向けた愛については、相手を所有するというような概念につながるとして否定的でさえある。
◯非暴力は手段に過ぎない
・アヒンサーはあくまでも手段であり、真理が目的。手段が手段であるためには、それは常に私たちの手の届くところになければならない。
◯受け身と否定形の論理
・「私」は常に受け身で、そこにいろんなものが影響してきて、それによって私は一歩ずつ前に進んでいく。そういう「受け身」こそが真に積極的な姿勢であり、他者に対して、そして世界に対して開かれた存在ではないか。
・「受け身」とパラレルに位置するのが「非暴力」「不服従」「食べない」などの否定形。「〜すべきだ」という主張は、「自分が絶対に正しい」という意識の上に立って他者をコントロールしようとするものであり、極めて暴力的。
・それよりも「〜しない」という否定形のほうが、他者に対する寛容というか、いろんなものを拒まず、吸収する余地を備えている。しかも、否定形には常に自己反省の論理が含まれている。
◯よいものはカタツムリのように進む
・「近代のスピードへの懐疑」。ガンディーは鉄道の代わりにカタツムリを置き、「よいものはカタツムリのように進む」と言った。鉄道のような速さは、真実の速さではない。カタツムリのような速さ、あるいは人がこうしてとぼとぼと歩く速さこそが、正しいスピードではないのか。
◯労働
・単にその日の金を稼ぐため、生計を立てるための手段ではない。労働とは他者に、そして人類全体や宇宙、神に献身すること。それは、宇宙全体の一部として自分が果たすべきダルマを果たすこととも言い換えられる。
謙虚さやシンプルさなんですが、とても強い芯を感じる言葉が多いなと思います。時代背景や宗教観などの地域特性もあるとは思いますが、その信念そして行動力という点に学ぶべきことが多い一冊でした。
ガンディー『獄中からの手紙』 2017年2月 (100分 de 名著)
- 作者: 中島岳志
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2017/01/25
- メディア: ムック
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