『人生論ノート(NHK100分de名著ブックス)』(著:三木清、解説:岸見一郎)
著者(1897〜1945)は、日本を代表する哲学者の一人。本書は、「文学界」という雑誌に連載していたエッセイを「幸福」「自分を苦しめるもの」「孤独・虚無」「死」からまとめ、1941年に刊行された一冊です。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯幸福論の抹殺とファシズム
・今日の人間は幸福に付いて殆ど考えないようである。我々の時代は人々に幸福について考える気力さえ失わせてしまったほど不幸なのではあるまいか。
◯成功することが幸福か
・幸福が語られなくなった理由。
①成功するということが人々の主な問題となるようになったとき、幸福というものはもはや人々の深い関心でなくなった。
②成功と幸福とを、不成功と不幸とを同一視するようになって以来、人間は真の幸福が何であるかを理解し得なくなった。
・成功と幸福は別物。成功は「直線的な向上」。幸福には「本来、進歩というものはない」。
・幸福が「各人のもの、人格的な、性質的なもの」なのに対し、成功は「一般的なもの、量的に考えられ得るもの」。
・純粋な幸福は「各人においてオリジナルなもの」だが、近代の成功主義者は、「型としては明瞭であるが個性ではない」。
・あれなら自分にもできると思えるのが成功。だから成功は、他人の嫉妬を買いやすく、嫉妬する人は「幸福を成功と同じに見ている場合が多い」。
◯人は幸福に「なる」のではなく、幸福で「ある」
・幸福が「存在」に関わるものなのに対し、成功は「過程」に関わる。
・成功のプロセスを「冒険の見地から理解」している人は健全である。成功は冒険の結果の一つでしかなく、成功したかどうかは、問題にならない。結果がどうであれ、自分が目指すものに対して努力した過程は、その後の人生の糧になるはず。これとは逆に、「冒険を成功の見地から理解する人」、つまり結果にのみこだわる人生は成功主義者であり、そこに「真の冒険はない」。
◯近代の娯楽は幸福の代用品
・娯楽というものは、生活を楽しむことを知らなくなった人間がその代わりに考え出したもの。それは幸福に対する近代的な代用品。幸福について本当に考えることを知らない近代人は娯楽について考える。
◯自分を苦しめるもの
・虚栄。虚栄心は、「自分があるよりも以上のものであることを示そうとする人間的なパッション」。
・すべての人間の悪は孤独であることができないところから生ずる。孤独でいられないから、周囲の目や評価を気にしたり、他の人よりも優位に立って衆目を集めようとしたりする。そんな気持ちから作られるフィクション(人生)は虚栄。
・虚栄心の虜になると「人間は自己を失い、個人の独自性の意識を失うのが常である」
・名誉心において重要なのは、世間からどう見られるかではなく、自分はどうありたいかという自己の品位。
◯怒りを鎮める方法
・我々の怒りの多くは気分的。気分的なものは生理的なものに結びついている。従って怒りを鎮めるには生理的な手段に訴えるのがよい。
・その一つが体操。体操は「身体の運動に対する正しい判断の支配であり、それによって精神の無秩序も整えられる」
・空腹や睡眠不足など、神経を苛立たせる原因になるようなことも避けるべき。
◯嫉妬こそ悪魔にふさわしい属性
・嫉妬が想像力を働かせるのは、そこに混入する「なんらかの愛によって」であり、そもそも愛がなければ嫉妬の感情は湧かない。
・嫉妬の対象となるのは、自分より高い地位にある人、自分よりも幸福な状態にある人。自分とその人との間に何かしら「共通なもの」があり、自分とその人との差異が「絶対的でなく、自分も彼のようになりうると考えられる」場合に起こる。
・嫉妬は「量的なもの」「一般的なもの」に対して働き、特殊なものや個性的なものは対象にならない。
◯虚無
・虚無は、心理的なものではなく、人間がこの世界にどのような仕方で存在するか、人間の存在の状態性、人間の条件。
◯孤独
・すべての人間の悪は孤独であることができないところから生ずる。
・孤独のなんであるかを知っている者のみが真に怒ることを知っている。
・一人でいる、一人でいられるというのは、対人関係の課題から逃れているという意味ではない。さらにいえば、物理的に一人ぼっちでなくてもいい。大勢の中にあって、自分だけが周囲と意見・考えを異にするという一人ぼっちもある。そうした孤独に耐えられるということは大事なこと。
◯人生は旅である
・出発点が旅であるのではない。到達点が旅であるのでもない。旅は絶えず過程である。
・日常生活では絶えず到達点、あるいは結果、結論が問題になる。しかし旅は、「絶えず過程」が重要であり、目的地に着くことばかりを気にしたり、急いだりして途中を味わえない人は、「旅の真の面白さ」を知らない。
・途中に注意していれば、きっと新しいものや思いがけないことに出会える。見慣れたものが目新しく感じられることは旅の効用。習慣的な行為・思考から脱却すること、到達点ではなく過程を大切にすること。
・安住の地に留まっていても、ただ漫然と歩んでいるだけでも、旅の効用を得ることはできない。大切なのは、「動きながら止まることであり、止まりながら動くこと」である。
自分の在り方、考え方。人生の中で考えるべきこと、積み重ねることの大切な視点が溢れており、示唆に富んだ内容です。自分のメガネ(認知)について、今一度考えてみて、偏りを修正するにあたって参考になります。100分の方でない本編の『人生論ノート』は、薄い文庫本でとっつきやすそうなので、本編の方も読んでみたくなりました。
三木 清『人生論ノート』 2017年4月 (100分 de 名著)
- 作者: 岸見一郎
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2017/03/25
- メディア: ムック
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