MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

幸福論(ラッセル)

『幸福論』(ラッセル)(◯)<3回目?>

 世界三大幸福論のひとつ。再読してみて、だんだんと日常生活で当たり前のものと感じている部分が多くなってきており、読んでいても入りやすくなってきたのを感じます。具体的には、以前線引きした箇所の納得感、途中泊まるところも少なくなってきているので、読むスピードが早まっています。

 本書の良いところは、前半戦は「これがなくなれば幸せ」という要素がまとめられ、後半戦は「これがあると幸せ」というように、「ない」と「ある」に分けてまとめられているので、整理がわかりやすい点。岩波文庫はハードルが高い印象がありますが、この本は比較的読み進めやすいと思います。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯これがないと幸福💕

①競争

・人々が生存競争という言葉で意味しているのは、成功のための競争に他ならない。

・人々が恐れているのは、明日の朝食にありつけないのではないかということではなく、隣近所の人たちを追い越すことができないのではないかということ。

・成功は幸福の一つの要素でしかなく、成功を得るために他の要素がすべて犠牲にされたとすれば、あまりにも高い代価を支払ったことになる。

②退屈と興奮

・退屈は有史時代を通じて大きな原動力のひとつ。退屈の本質的要素のひとつは、現在の状況と、いやでも想像しないではいられない他のもっと快適な状況とを対比すること。

・退屈の反対は快楽ではなく興奮。興奮に対する欲望は、ことに男性においてすこぶる根深い。

・多すぎる興奮は、健康を蝕むばかりではなく、あらゆる種類の快楽に対する味覚を鈍らせ、深い全身的な満足をくすぐりて置き換え、叡智を小利口さで、美をどぎつい驚きで置き換えてしまう。

・問題は分量。少な過ぎれば病的な渇望を生むかもしれないし、多過ぎれば疲労を生むだろう。退屈に耐える力をある程度持っていることは、幸福な生活にとって不可欠であり、若い人たちに教えるべき事柄の一つ。

③疲れ

・純粋に肉体的な疲れは、過度でなければ、どちらかと言えば幸福の原因になりがち。そういう疲れは、熟睡と旺盛な食欲をもたらし、休日に持ちうる快楽に熱意を添える。

・今日、進歩した社会において最も深刻な疲れは、神経の疲れ。

・疲れは大部分、心配からきている。悩みの原因になっている事柄がいかにつまらないかを悟ることで、ずいぶんたくさんの心配事を減らすことができる。

・いっとき、最悪の可能性をじっくり見据え、真の確信を持って「いや、結局、あれは早退したことにはなるまい」と我と我が身に言い聞かせたとき、心配は驚くほど減る。

④ねたみ

・不幸の最も強力な原因の一つは、おそらくねたみ。ねたみは、人間の情念の中で最も普遍的んで根深いもの。

・自分の持っているものから喜びを引き出すかわりに、他人が持っているものから苦しみを引き出している。できることなら他人の利益を奪おうとする。

・人間にはこれを埋め合わせる情念がある。すなわち「賛美の念」。人間の幸福を増やしたいと思う人は誰でも、賛美の念を増やし、ねたみを減らしたいと願わなければならない。

⑤罪の意識

・罪の意識こそ、おとなの生活の不幸の根底にある心理的な原因の中で最も重要なものの一つ。

・自分が不幸なので、他人に過大な要求をしがちであり、ために、人間関係において幸福をエンジョイすることができなくなる。

⑥被害妄想

・穏やかな形の被害妄想は、不幸の原因になることが多い。

・私たちは万人が自分を虐待していると感じている限り、幸福になることはまるで不可能。

・私たちは、自分に欠点があることをやむを得ずに認めた場合、この明白な事実をあまりに深刻に考えすぎる。何人も完全であることを期待すべきではないし、完全でないからと言って不当に悩むべきではない。

・被害妄想は、いつもおのれの美点をあまりに誇大視するところに原因がある。

⑦世評に対する怯え

・概して、飢えを避け、投獄されないために必要な限りで世論を尊重しなければならないが、この一線を越えて世論に耳を傾けるのは、自ら進んで不必要な暴力に屈することであり、あらゆる形で幸福を邪魔されることになる。

 

◯これがあると幸福💕

①熱意

・幸福な人たちの最も一般的で、他と区別される特徴は熱意。

・食事に例えると、

1)食事に退屈している人(生きがいをなくした賢いバイロン風の不幸の犠牲者)

2)義務感から食べる病人(禁欲主義者)

3)大食漢(官能主義者)

4)美食家(人生の快楽の半分は美的でないと難癖をつける気難し屋)

5)健康な食欲を持って食べ始める人たち。充分食べればそこでおしまいにする。

・人間、関心を寄せるものが多ければ多いほど、ますます幸福になるチャンスが多くなり、また、ますます運命に左右されることが少なくなる。

②愛情

・愛されているという感情は、他の何ものにも増して熱意を促進する。安心感を生み出すのは、人から受ける愛情であって、人に与える愛情ではない。

・人が与える愛情には、人生に対する熱意の最も重要な表現と恐怖の表現の2つがある。前者は、全面的に称賛するものだが、後者はせいぜい慰め。 

③家族

・家族が、原理的には与えられるはずの根本的な満足を与えられなくなっていることが、現在、一般的に見出される不満の最も根深い原因のひとつ。

・親に与えることは、心理的には、人生が提供する最大のかつ最も長続きする幸福を与えうるものであることは明らかだと思われる。これは、男性よりも女性について当てはまる。

④仕事

・量が過多でない限り、どんなに退屈な仕事でさえ、たいていの人々にとっては無為ほどには苦痛ではない。仕事には、単なる退屈凌ぎから最も深い喜びに至るまで、仕事の性質と働き手の能力に応じてあらゆる度合いが認められる。

・仕事は、何よりもまず、退屈の予防策として望ましいもの。そして、休日になったとき、それがずっと楽しいものになる。

・仕事を面白くする要素は、技術を行使することと建設。建設の仕事は、完成した暁にはつくづく眺めて楽しいし、その上、もうどこにも手を加える余地がないと言えるくらいに完璧に完成されることは決してない。

⑤私心のない興味

・人間疲れれば疲れるほど、外部への興味が薄れていく。そして、外部への興味が薄れるにつれて、そうした興味から得られる息抜きがなくなり、ますます疲れることになる。この悪循環は、結果的に神経衰弱を引き起こしやすい。外部への興味が気分を休めさせるのは、それが如何なる行動をも要求しないからだ。

・重要な決定をする前に、「一晩寝て考えてみる」ことが必要だと感じる人たちは、紛れもなく正しい。

⑥努力とあきらめ

 ・あきらめには、絶望に根差すものと、不屈の希望に根差すものがある。後者は良いあきらめ。心配したり、やきもきしたり、イライラするのは、何の役にも立たない感情。思うに、こういう感情に打ち勝つには、先に述べたあの根本的なあきらめによる他道がないのではないか。

 

◯幸福な人とは

・不幸な人は不幸な信条を抱くのに対して、幸福な人は幸福な信条を抱く。 両者とも自分の幸福なり不幸なりを自分の信条のせいにするかもしれないが、真の因果関係はその逆である。

・害的な事情がはっきりと不幸ではない場合には、人間は、自分の情熱と興味が内ではなく外へと向けられている限り、幸福をつかめるはず。

・私たちを自己愛に閉じ込める情念の最もありふれたものは、恐怖、妬み、罪の意識、自己への哀れみ、自画自賛。これら全てにおいては、私たちの欲望は自分自身に集中している。すなわち、下界に対する真の興味は微塵もなくて、あるのはただ、下界がどうにかして自分を傷つけはしないか、自分の自我を育むことをやめはしないかという気遣いのみ。

 

 どの項目を見ても、人類の歴史においてずっと人間が関わってきた項目。マイナスの感情もプラスの感情もどちらもまずは、「自分にある」ということに気づこと。無意識な状態で当たり前の自分を作り出すのがよくない状態で、意識化して今の自分を認識し、次の行動を選び取ることで、感情というのは穏やかになっていくような気がします。ゆっくり考えながら読むと、深い示唆が得られる一冊です。

幸福論(ラッセル) (岩波文庫)

幸福論(ラッセル) (岩波文庫)

 

f:id:mbabooks:20200404171627j:plain