大乗仏教(NHK100分de名著ブックス)(佐々木閑)
本書は、釈迦の教えを基礎に据えたうえで、様々な大乗の教えを個別に読み解いていくというスタイルのNHK100分de名著シリーズです。小乗仏教は、出家して特別な修行に励んだ者だけが悟りを開くことができると考えるのに対し、小乗より500年ほど後に登場した大乗仏教では、在家のままでも悟りに近づくことができるとしています。お釈迦様のオリジナルの仏教「釈迦の仏教」とも教義の内容が異なる別物として、日本や中国に伝わった大乗仏教のエッセンスに触れられる一冊です。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯釈迦の仏教
・出家修行を最重要視している。出家してヒラすら修行に励み、苦しみの源である煩悩を消し去ることでしか、人は真の安楽に達することができない。
・「出家」とは、財産や家族を捨てて「サンガ」と呼ばれる修行者集団に所属し、朝から晩まで瞑想を中心とした厳しい修行生活を送ることを意味する。
・「真の安楽」とは、悟りを開いて「涅槃」(ねはん)に到達することを指す。涅槃とは、自分の心の中の煩悩をすべて断ち切ること。
◯六道輪廻
・仏教では、この世界は「天・人・畜生・餓鬼・地獄」の5つ(後に「阿修羅」が入って6つ)の領域からなり、あらゆる生き物は、この領域内で、延々と生まれ変わり氏に変わることを繰り返すと考えられている。延々と続く生と死の繰り返しを「輪廻」という。
・涅槃とは、仏道修行によって輪廻を止め、「2度と生まれ変わらない世界に行くこと」を意味する。
・仏教は本来、輪廻や業(行い・活動)といった考え方を除けば、非常に合理的かつ論理的。苦しみが生じるメカニズムと、それを消すための修練方法の提示こそが「釈迦の仏教」の本義。
◯大乗仏教の教え
・涅槃をゴールと考えた点は、「釈迦の仏教」と同じ。
・「釈迦の仏教」が自己鍛錬によって煩悩を消そうと考えたのに対し、大乗仏教では自分の力ではなく、「外部の力」を救いの拠り所と考えた。
・自己修練のための組織であるサンガも意義や重みがなくなり、在家信者でも悟りの道を歩むことは可能だという考えが前面に出ている。
・悟りを開いた者の最終到達点は「ブッダになること」(「釈迦の仏教」の最終到達点は阿羅漢)。
◯五蘊(ごうん):「釈迦の仏教」での世界の分類
①色:我々を構成している外側の要素、つまり肉体のこと
②受:下界からの刺激を感じ取る感受の働き
③想:いろんなことを考える構想の働き
④行:何かを行おうとする意思の働き
⑤識:あらゆる心的作用のベースとなる認識の働き
◯十二処
・「眼、耳、鼻、舌、身、意」の六根と、その対象となる「色、声、香、味、触、法」の六境。
・これに、「眼識、耳識、鼻識、舌識、身識、意識」の六識を加えたものを「十八界」という。
◯釈迦の教え(4つの柱)
①一切皆苦
すべてのものはみな思い通りにならない。この世で生きることは本質的に苦だ。
②諸行無常
すべてのものは常に変化してゆく。生じては滅びるものが、物事の定めである。
③諸法無我
すべてのものにおいて、「私」とか「私のもの」という実体は存在しない。すべてのものは、その関係性において存在している。
④涅槃寂静
仏教における絶対平安の境地。時間の流れを超えた真の安らぎ。
◯六波羅蜜
①布施:他者に物品や金銭を施したり、教えを説いたり、安心を与えること
②持戒:戒律を守ること
③忍辱:苦難を耐え忍び、心を動かさないこと
④精進:ひたすら仏道修行に励むこと
⑤禅定:瞑想により精神を統一すること
⑥智慧:道理を見極めて煩悩を消し、悟りを完成させる
◯般若経
・大乗経典と一口に言っても、お経ごとに教えの内容はかなり異なっている。
・般若心教は、数ある般若経典の系統に分類されるお経の一つで、般若経の教えをコンパクトにまとめたもの。
・般若経の特徴は、「すべての人は過去においてすでにブッダと会っていて、誓いを立てている」と考える点。
・それまでの仏教になかった考え方として、「すでに私たちは菩薩としてこの世界に存在しているのだから、日常生活の中で善い行いを積み重ねて行けば、それが悟りへのエネルギーとなり、やがてはブッダになることができる」という考え。「釈迦の仏教」では、出家修行の中で煩悩を断ち切ることこそが、悟りに至るための唯一の方法と考えられていたのに対し、般若経では、「日常の生活で善行を積み重ねていけば、悟りに近づくことができる」と変わった。
◯法華経
・般若経との最大の違いは、法華経が「一仏乗」という新たな教えを説いた点にある。一仏乗とは、一言で言うと、「すべての人々は平等にブッダになることが可能である(衆生成仏)」という教えのこと。
・般若経の場合は、「三乗思想」という考え方をベースにしていて、すべての人が平等にブッダになれるとは考えていなかった。
◯浄土教
・一言で言えば、「阿弥陀仏がいらっしゃる極楽浄土へと往生する」ことを解く教えのこと。
・浄土教系の宗派といえば、法然の説いた浄土宗、親鸞の浄土真宗、一遍の時宗が有名。
・浄土教では、修行などは一切不要であるといい、「南無阿弥陀仏という言葉を称えさえすれば、誰もが極楽に往生して成仏できる」と説いた。
・般若経や法華経は、「私たちはまず、どこかでブッダと出会い→これから自分もブッダを目指して修行に励むことをそのブッダの前で誓い→菩薩(ブッダ候補生)になり→菩薩修行を続けて→やがて悟りを開きブッダになる」と考えた。
・浄土教は、「私たちはまだ菩薩にはなっておらず、これからブッダと出会い菩薩になる」と捉えた。
・浄土教は、「空」の概念を無視してはいないが、「空」の比重を軽くした大乗仏教の教えであると考えて良い。
全体整理の知識はまだまだ追いついていませんが、まずは、この世界に触れることが大切かなと思っています。ところどころに聞いたことがある言葉があり、それを拾って読んでいくだけでも、表面的に知っているところから、実はそうなんだ!という発見があったりで、宗教の奥の深さを感じます。だんだん知っている世界を広げて、生きていく上で大切なことを掴みたいなと思います。
別冊100分de名著 集中講義 大乗仏教 こうしてブッダの教えは変容した (教養・文化シリーズ)
- 作者: 佐々木閑
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2017/02/25
- メディア: ムック
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