MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

NATURE FIX(フローレンス・ウィリアムズ)

『NATURE FIX』(フローレンス・ウィリアムズ)

 本書は、自然と脳の関係を実証研究した一冊。都会にいる時と豊かな自然がある環境(特に海岸沿い)にいるときの幸福度の差は、一人でいる時と友人と一緒にいる時の差よりはるかに大きい。これは、幸福度を上げる要素として「誰と一緒にいるか」「何をしているのか」に加え、「どこにいるのか」という要因も重要なことを示しており、本書では、この「どこにいるか」が幸福度を左右する事実の背景にある科学を探っています。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯バイオフィリア仮説

・バイオフィリアとは、「生命とすべての生きているものに対する情熱的な愛。それは人間であれ、植物であれ、思想であれ、あるいは社会集団であれ、その成長を促進しようとする願望」

・自然の中にある穏やかで生命を育む要素により、人間が心の平成、明晰な認知機能、共感、希望といったものを取り戻す力を得ると仮定している。たとえ愛情、笑い、音楽といったものが周囲になくても、美しい夕焼けなら誰もが日々の暮らしで目にすることができる。自然が発信する穏やかな美や息遣いを最も敏感に察知できる者は生き延び、次の世代にその能力を受け渡す。

 

◯脳のデフォルト・ネットワーク

・人間の脳の3つの主要な神経回路網

①実行ネットワーク

 集中して知的作業を行う前頭前野などが刺激への対応と行動の抑制を実行する。

②空間知覚ネットワーク

 人間は自分の位置を把握し、その名の通り空間を知覚する。

③デフォルト・ネットワーク

 実行ネットワークの活動が低下しているときに活動を始める。空想に耽ったり、ぼんやりしたりしているときのホワイトノイズ。

・デフォルト・ネットワークは不品行で手に負えないトラブル・メーカーなのか、それとも詩を詠んだり人間性を形成したりする上で欠かせないものかという議論が喧しい。デフォルト・ネットワークは、脳の実行機能を休ませ、最高の力を発揮できるように脳を回復できるから。

・自然には先進医薬のような効果がある。自然の中で気持ちのいい体験をしているときに作用し、デフォルト・ネットワークの効果だけを引き出して、問題を起こす部分には作用しない。

 

◯脳を休ませるために

・「うっとりとした穏やかな状態でいること」。夕陽やそぼ降る雨を眺めているときの状態。

・脳を最も回復させる景色は、興味を惹かれると同時に、興味を惹かれすぎない景色のこと。すなわち注意を惹かれはするものの、集中する必要のない景色。その人の審美眼と一致し、少し神秘的な雰囲気も漂う景色。

・脳の実行ネットワークを休ませ、どこまでも広がる空に浮かぶ雲を眺めれば、脳にいいことが起こる。

 

◯環境騒音による死

・人間が潜在意識の上で、いわば寝ずの番をしていることは、進化観点から見れば理にかなっている。動物は睡眠中や冬眠中であろうと危険に反応する能力を維持しなければならない。動物の中には進化の過程で資格を失った種や嗅覚を失った種も珍しくないが、聴力を失った脊椎動物は今のところ発見されていない。

・聴覚は、動物が「油断なく注意を払い」「方向を見定める」際に主に活用する感覚。音によって何かがそこにいることが悪だけでなく、どちらの方向からそれがやってくるのもわかる。音によって人間は最も大きな驚愕反応を起こす。

・騒音に敏感な人間は、都会の環境では心からくつろぐことができない。たとえ気持ち位のいい公園で巣作りをする鴨を眺めていても、完全にリラックスできない。

 

◯自然に触れる

・ごく短時間でも自然に触れるようにすれば、今脚光を浴びている瞑想などのストレス解消方法より大きな効果が得られる。

・「静寂なる大気は甘美にあらず。音ともつかぬほどのものがあたりに息づくとき初めて心地よさが生まれる。鳥が奏でる三重奏、低く高く鳴く虫の音があってこその静寂」。

・大抵の人は自然の音に癒されるが、とりわけ効果があるのは、風の音、水の音、鳥のさえずり(健康にいい音ベスト3)。

・音を聞き、それを処理し、言語にする私たちの脳の部位は、鳥のそれと驚くほどよく似ている。私たちのニューロンが鳥のそれとよく似ているということは、甲高い、あるいは震えるような、あるいはチッチという鳥のさえずりに本能的に親近感を覚える最もな理由となっているのかもしれない。鳥も人間も言語的な音声や音楽の音色に感情的に反応する能力が、交尾、コミュニケーション、生存に不可欠なものとなった。

・聴力は僕たちの天賦の才。積極的に外に出て、繊細で美しい音を聞き逃さないように努力しなければ、宝の持ち腐れになる。

 

◯視覚

・人間の目は色に素早く反応する構造になっている。網膜には、赤、青、緑を素早く識別する3種類以上の錐体細胞がある。こうした錐体細胞は、後頭部に位置する視覚野と直結している。

・赤は黒と白の次に名前を持つようになった色と考えられている。赤い色を見ると人間は警戒し、奮起する。だから赤い廊下を歩くときには、青い廊下を歩く時より早足になる。「論点を明確にしたいときには、赤い文字で強調するといい」「赤い色を身につけると勝利を収める確率が高くなる」。ピンクでは逆効果。

 

◯1カ月に5時間

・1カ月に5時間、自然の中で過ごすとストレスが軽減される。10時間過ごせば、ますます爽快な気分を味わえるはず。

 

◯自然の中の3日効果

・自然の中で3日間過ごせば五感が研ぎ澄まされ、モノの見方が変わり、認知機能が向上する。

 

◯自然に対する畏敬の念

・畏敬の念はとりわけ好奇心を掻き立てる。すぐには理解できないものがあると、私たちは自分の殻から抜け出し、他の人から情報を得ようとする。恐怖と美と謎が混然一致となったものを体験すると、それは記憶に焼きつく。

 

◯行政による改革

・都会の隅々まで緑で埋め尽くすには、政府の確固たるビジョンが必要。所々に少し野性味を加えると、都会の自然は人の心身に最大の効果を発揮する。

・とりあえず、造花やフェイクツリーではなく、本物の草木を愛でるのが最初の一歩。都会の住人に救いの手を差し伸べているのは、樹木だけなのかもしれない。都会で暮らしている人が最も揺り動かされている自然は、水と木。

 

◯ネイチャーピラミッド

①毎日:庭、観葉植物、街中の公園で一息つく

②毎週:緑豊かな大きな公園、川辺などでリラックスする

③毎月:ハイキングや森林浴に出かける

④毎年:大自然に畏敬の念を抱く

 

 私の場合、定期的に釣りに出かけるため、自ずと自然に触れる機会があるのですが、毎日となるとなかなか自然に目がいかないのが実情です。月に数日ですが、水と緑と空を近くに感じるだけで、心が癒されて行くのがわかります。自然に触れる⇨人間本来の世界へ戻るという感じでしょうか。近代の生活で無理がかかっている心と体もたまに自然に返してあげることが必要だなと思います。

NATURE FIX 自然が最高の脳をつくる―最新科学でわかった創造性と幸福感の高め方

NATURE FIX 自然が最高の脳をつくる―最新科学でわかった創造性と幸福感の高め方

  • 作者: フローレンス・ウィリアムズ,栗木さつき,森嶋マリ
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2017/07/25
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