MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

言志四録(一)(佐藤一斎、全訳注:川上正光)

『言志四録(一)』(佐藤一斎、全訳注:川上正光)(◯)

 江戸時代末期の大儒である著者(1772〜1859)が後半生の四十余年に渡って書き上げた4つの語録(言志録、言志後録、言志晩録、言志耊(てつ)録)の最初の1冊目です。門下生には佐久間象山(さらにその門下性が吉田松陰)らが居てその後の明治維新を支える方々につながっていきます。朱子学四書五経(特に易経)、陽明学など幅広く精通している著者が残した合計1,133条の語録集です。訳者による解説も学び多く秀逸です。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯天を師とす

・最上の人は宇宙の心理を師とし、第二等の人は立派な人を師とし、第三等の人は経典を師とする。

・自然が最良の師。経典は立派なものではあるが、聖賢がいろいろな場合に言われたもので、書かれたものは生き物とは言い難い。それを有り難がっては、真の精神を取り違える恐れがある。

 

◯性分の本然と職分の当然

・人は生まれつき仁義礼智信という性分を持っていて、孝悌忠信という職分も持っている。

・性分は人間が本質的に持っている真心。職分は他人対して尽くすべき奉仕。

 

◯徳と位

・君子というのは徳のある人をいう。

・「中才は肩書きによって現れ、大才は肩書きを邪魔にし、小才は肩書きを汚す」(バーナード・ショウ)

 

◯面と背と胸と腹

・顔面(今は頭脳)が冷静ならば、正しい判断ができる。

・背中が暖かいならば熱烈、人を動かすことができる。

・虚心坦懐にして、我見がなければ、他人を容れることができる。

・腹が充実していれば、胆力が据わって物に動じない。

 

◯地道三則

①人は地道を守らなければならない。地道とは人を敬い、自分は慎むという「敬」ということ。すなわち、天理に従って身を修めるのみである。

②耳、目、口、鼻、および手足その他身体の各部分は、各々自分の職務を忠実に守って、心の支配を受ける。これは地が天に従うのと同じ道理である。

③地がよく、天の命を受けるのは、天が上に立って、地を支配するから。身体がよく心に従うのは、心がそれを総括するから。その理は一つである。

 

◯性と質

儒学から言えば、人の本性は同一であり、気質が異なる。

・気質の異なるところが教育の必要な理由。

・本性が同じであるところが、教育が効果を奏しうる理由。

 

◯待てば晴れる

・「急がずば、ぬれざらましを、旅人の、あとより晴るる、野路の村雨」(太田道灌

・何事でも、事が起きたとき気短に処理すると失敗することが多く、よくこらえて時の宜しきを待つべきである。

 

◯急げば失敗する

・「せいては事を仕損ずる」

・何事も急いでは失敗する。落ち着いて忍耐強く好機の至るを待っていれば、目的を達することができる。

 

◯聖人に遺訓なし

・賢者は死に臨んで、当然来るべきものと考え、死は生者の責任であることを覚悟し、死を畏れることを恥じ、むしろ安らかに死することを希望する。故に、精神が乱れない。

・また、残された教訓があって、傾聴するに値するものがある。しかし、賢者が聖人に及ばないのも、この遺訓の点にある。

・聖人は、平生の言動がすべて教訓となるものであって、沒する時に特に改まって遺訓を述べることはしない。死生を見ることが、まるで昼夜のようであって、特別のものと考えないのが聖人の死生観である。

 

◯「敬」六則

①下らない考えを起こさないのが「敬」であり、下らない考えが起きないのが「誠」である。

②心に「敬」があれば、下らないものを断ち切ってしまう。古人は「敬はもろもろの邪悪に勝つ」といった。いろいろの邪悪が来る時には、きっと下らない考えが先に立って道案内をするものである。

③一個の「敬」は人を非常に聡明にする。昔周公が(成王に)「汝は常に慎みて、諸侯が持ってくる幣物を享けるべきか、享けざるべきかを知らるるがよい」といったが、これは誠があって来た者と、真んがなくて来た者とを、「敬」の一字で聡明に区別すべきだといったことである。

④心に「敬」があれば、妄念を起こさないから、心はいつも純粋で混じり気がなく、はっきりと明るい。

⑤自分がおさめるのに、この「敬」をもってすれば、人々を安んずることが出来、ひいては天下の人民を安んずることができる。

⑥「敬」を誤り認めて、一つの物とし、胸の中に放置してはいけない。かくしては、賢明な働きをあらわさないばかりでなく、反対に賢さをふさいで出なくしてしまう。これは累(わざわい)である。

 

ベンジャミン・フランクリンの13の徳目

①節制

 飽きるまで食べるなかれ、酔うまで飲むなかれ。
②沈黙

 自他に益ないことを語るなかれ。無駄口を叩くなかれ。
③規律

 物はすべて場所を決めて置くべし。仕事はすべて時を決めてするべし。
④決断

 やるべきことをやろうと決心すべし。決心したことは必ず実行すべし。
⑤倹約

 自他に益なきことに金を使うなかれ。すなわち浪費するなかれ。
⑥勤勉

 時間を無駄にするなかれ。常に何か役あることに使うべし。
⑦誠実

 偽りで人を傷つけることなかれ。無邪気に公正に考えるべし。
⑧正義

 他人を侮辱したり、与えるべきものを与えずして傷つけるなかれ。
⑨節度

 極端を避けるべし。怒るに値すると思われる害を受けても耐えるべし。
⑩清潔

 身体、衣服、住所に不潔を許すべからず。
⑪平静

 些細なこと、日常の出来事に心を乱すなかれ。
⑫純潔

 性交は健康、または子孫のためにのみ行い、必ずこれがためになまくらになることなかれ。
⑬謙譲

 イエスソクラテスを見習うべし。

 

◯一事一累

・物が一つ増えれば、やる事が一つ増える。やる事が一つ増えれば、煩わしさが増える。

 

◯読書の法(孟子の三言)

①自分の心をもって、作者の精神のあるところを抑えとるべきである。

②書物に対しては批判的であって、その一部は信用しても、全部は信用しない(孟子の言う書は書経の意であった)

③作者の人柄や業績を知り、またその当時の社会的背景を論じ、進修の資とする。

 

 

 第一巻『言志四録」では、特に「敬」について深めてみたいと感じました。自分に対する慎みとと相手に対する敬い。これを行動に落とし込むとどうなるのか?具体的に話せるように、日常の瞬間瞬間の中で感じ取りたいと思います。

言志四録(1) 言志録 (講談社学術文庫)

言志四録(1) 言志録 (講談社学術文庫)

 

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