『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか』(山口周)(◯)
美術史学専攻からボストンコンサルティンググループを経てコンサルタントとして活躍されている著者。その経歴にも裏付けられた本書は、分析・論理・理性に軸足を置いたサイエンス重視の意思決定では、世界の変化が大きい昨今ではコモディティ化してしまう。そこで、全体を直感的にとらえる感性と「真・善・美」が感じられる打ち手を内省的に創出する構想力や想像力が求められている。右左脳バランスの取れた経営を目指す1冊です。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯論理的・理性的な情報処理スキルの限界
・日本人は、ビジネスにおける知的生産や意思決定において「論理的」であり「理性的」であることを「直感的」であり「感性的」であることよりも高く評価する傾向がある。歴史を振り返ってみれば、過去の優れた意思決定の多くは、意外なことに感性や直感に基づいてなされていることが多い。
・「勝ちに不思議な勝ちあり」。つまり論理ではうまく説明できない勝利がある。「負けに不思議の負けなし」。つまり、負けはいつでも論理で説明できる。
・論理的かつ理性的な判断力を高める努力をしているが、その努力の行き着く先はレッドオーシャン。正解のコモディティ化。過剰供給されるものには価値がない。そこでスピードとコストで競争してきたが、その強みは失われつつある。
・経営は、アート(直感)、サイエンス(論理性)、クラフト(過去の経験値)で成り立つ。3つの要素が戦えば、必ずサイエンスとクラフトが勝つ。コモディティ化を脱するには、トップにアートを据え、左右両翼をサイエンスとクラフトで固める。
⇨PDCAのPをアート型人材、Dをクラフト型人材、Cをサイエンス型人材が行う。
・サイエンス型人材が強くなるとコンプライアンス違反のリスクが高まる。レッドオーシャンでストレッチした数値目標を設定し、現場のお尻を叩いてひたすら馬車馬のように働かせるというスタイルに傾斜せざるを得ない。
◯巨大な「自己実現欲求の市場」の登場
・消費者はそのブランドを選ぶことで「ああ、あなたはそういう人なのですね」というメッセージが伝わるブランド購入することになる(例:スタバでMacbookを持つ人)。全ての消費されるモノやサービスは、ファッション的側面で競争せざるを得ない。
・現代はVUCAの時代。Volatility(不安定)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧)。
・デザイン思考波動的であり最初から解を捉えにくい。直覚的に把握される「解」を試してみて、試行錯誤を繰り返しながら、最善の回答に至ろうとする。
◯システムの変化が早すぎる時代
・ルールが社会の変化に追いつかない時代。単に「違法ではない」という理由で、倫理を大きく踏み外してしまった場合、後出しジャンケンで違法とされてしまう可能性がある。
・目の前でまかり通っているルールや評価基準を「相対化できる知性」を持つことが重要。
◯脳科学と美意識
・変化の激しい状況でも継続的に成果を出し続けるリーダーが共通して示すパーソナリティとして、「セルフアウェアネス=自己認識」の能力が非常に高いことが挙げられる。
・セルフアウェアネスとは、自分の状況認識、自分の強みや弱み、自分の価値観や志向性など、自分の内側にあるものに気づく力のこと。
◯どう「美意識」を鍛えるか
①見る力を鍛える(VTS)
・ビジュアルアートを用いたワークショップによる鑑賞力教育。
1)何が描かれていますか?
2)絵の中で何が起きていて、これから何が起こるのでしょうか?
3)どのような感情や感覚が、自分の中に生まれていますか?
⇨「何が起きているのか、これから何が起こるのか」は、ビジネスの世界で経営者が議論しなければならない最重要論点。
②哲学に親しむ
・海外のエリート養成では、まず哲学が土台にあり、その上で功利的なテクニックを身につけさせる側面が強いのに対して、日本では、土台となる部分の哲学教育がすっぽりと抜け落ちていて、ひたすらMBAで習うような功利的テクニックを学ばせている。
・哲学からの学び
1)コンテンツからの学び(その哲学が主張した内容そのもの)
2)プロセスからの学び(そのコンテンツを生み出すために至った気づきと思考の過程)
3)モードからの学び(その哲学者自身の世界や社会への向き合い方や姿勢)
⇨現代社会を生きるエリートが、哲学を学ぶことの意味合いのほとんどが、実は過去の哲学者たちの「コンテンツ」ではなく、むしろ「プロセス」や「モード」にある。
美意識と言われるとピンとこなくても、私の場合であれば、哲学を学ぶ意味合いを具体的に知ることができたことにより、哲学を学ぶ意欲がグンと高まりました。一般教養を身につけるのは単に常識感や話題作りということではなく、歴史や世界の全体感を捉えるという俯瞰目線の訓練に繋がりますね。
世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」 (光文社新書)
- 作者: 山口周
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2017/07/19
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