人生の武器としての伝える技術(ジェイ・ハインリックス)
『人生の武器としての伝える技術』(ジェイ・ハインリックス)(◯)
レトリック(修辞法)は単なる美辞麗句ではなく、「言葉を使って影響を与えたり説得したりする」だけでなく、怒りの感情をかき立てずに会話や議論をすることを教えてくれる。本書は、コミュニケーションよりもネゴシエーションに近いしたたかさも感じるコミュニケーション術がまとめれられた1冊。好き嫌いは置いておいて、実務では知っておきたいことが多数書かれています。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯選択と時制をコントロールする
・すべての論点は3つに集約される。
①非難(=過去形):責任を誰かに負わせようとしている(懲罰を扱う)
②価値(=現在形):称賛したり糾弾したりする(人と人を結び付けたり区別する)
③選択(=未来形):未来を使った議論は利益を約束する
・議論をコントロールする
非難したいのか?自分たちの共感の価値観に合う人、あるいは合わない人は誰なのかを明らかにしたいのか?それとも聴衆に何かを選択させたいのか?最も生産的な議論をするには、議論を「選択」に絞ること。知らず識らずのうちに、論点が「価値観」や「罪悪感」へと逸れないように気をつけよう。
・時制をコントロールする
最も適した時制を使って議論を進めること。選択をめぐる議論は、未来を向いたものにしよう。
◯聞き手に耳を傾けさせる
・「言葉による議論よりも、人生で示す議論の方が重みがある」(イソクラテス)
・アリストテレスが提唱した、エートス(人柄)を使って相手をセットする時に重要な3つの特質。
①徳(大義)
語り手は自分たちと同じ価値観を持っていると聴衆が信じていなければならない。
②実践的知恵(技能)
どのような場面においても、語り手は何が正しい行いであるかを知っているように見えなければならない。
③公平無私(思いやり)
語り手は、自分自身の利益ではなく聴衆の利益のことを思いやる人でなければいけない。
◯聞き手の感情を変える
・聞き手の感情を動かしたいのなら、「共感」を呼び起こさなければならない。
・「共感」は思いやること。
・感情は、予測と経験があるからこそ生まれる。実際に経験した時の感覚をより生き生きと語れば、より強い感情を聴衆に起こさせることができる。
・気分を変えるのに最も効果があるのは、細部まで詳しく状況を話すこと。
◯有利な立場を築く
・人は、聞き手にとってではなく、自分にとって納得いく話をしたがる。このミスは致命的だ。
・あなたの主張を立証するためには、まず聞き手が信じるもの、聞き手が望んでいるものから話を始めなければならない。
・聴衆が共通して持っている考え方を、話のスタート地点にする。
◯論理の誤りを見抜く
・論理上の誤りがあるかどうかを見分けるためには、次の3つを考える。
①証明が成り立つか?
②選択肢がいくつか示されているか?
③証明は結論を導くものになっているか?
◯議論を台無しにする反則を見極める
・実質議論のルールは一つだけ。「議論できないものを議論しない」。「議論の進行を妨げてはいけない」と言い換えることもできる。
◯気の利いた受け答えをする
・常套句をもじる
・言葉の順序を入れ替える
・二つのものを並べる(対立する立場にあるものを並べて、比べたり対照させたりする)
・発言しながら訂正する(話の途中で自分の言ったことを訂正することで、公平で正確な話をしているように見せる)
・表現の強さを下げる(反対のものを否定することで要点を強調する)
・表現の強さを上げる(クライマックス法、前の言葉を次の文の文頭に重ねる)
・新しい言葉を作り出す(名詞を動詞にしたり、動詞を名刺にしたり)
・特に意味のない言葉を使う(音楽でいう休符)
◯失敗をうまく挽回する
・失敗した時に目指すべきは、評判を取り戻すことではなく、高めること。
・ミスをした時はすぐに目的を定める
・ミスをしたことを最初に知る人間になる
・すぐに未来のことに話を移す
・被害者のことを見下さない
・謝罪に頼らない(謝罪するのではなく、自分の基準に沿わないことをしてしまった気持ちを表す)
議論・交渉をする際に考えるべきことはたくさんあります。本書はテクニックに関することが満載でどちらかといえば対決モードのように感じますが、「相手の関心に関心を寄せる 」ように協調・協力路線がいいこともあります。前提として、「どうなったらいいか」という議論の後に生まれる状態をイメージしてから望みたいものです。