ブッダ伝(中村元)
この著者の解説はとてもわかりやすいです。20世紀の日本を代表する仏教研究者である著者の著書は多数あるのですが、その中でもブッダの生涯を中心に原始仏教の仏典についてまとめられた一冊です。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯真理は一つ
・各自が自説こそ正しいと主張する限り、自分にとって自分は賢者であり、反対意見を述べる者は愚者になるが、逆に相手の立場から見れば彼が賢者であり、それに反対する自分が愚者になってしまうという矛盾が生じる。
・世の中には、多くの異なった真理が永久に存在しているのではない。ただ永久のものだと想像しているだけである。彼らは、諸々の偏見に基づいて思索考究を行って「我が説は真理である」「他人の説は虚妄である」と2つのことを説いている。(『スッタニパータ』885,886)
・他の説を「愚かである」、「不浄の教えである」と説くならば、彼は自ら確執をもたらすであろう。一切の哲学的断定を捨てたならば、人は世の中で確執を起こすことがない。(『スッタニパータ』893,894)
◯十二因縁
・無明によって生活作用があり、生活作用によって識別作用があり、識別作用によって名称と形態があり、名称と形態によって六つの感受機能があり、六つの感受機能によって対象との接触があり、対象との接触によって感受作用があり、感受作用によって妄執があり、妄執によって執著があり、執著によって生存があり、生存によって出生があり、出生によって老いと死、憂い・悲しみ・苦しみ・愁い・悩みが生ずる。このようにしてこの苦しみのわだかまりが全て生起する」
・無明を止滅するならば、生活作用が止滅する。生活作用が止滅するならば、識別作用が止滅する。識別作用が止滅するならば、名称と形態が止滅する。名称と形態が止滅するならば、六つの感受機能が止滅する。六つの感受機能が止滅するならば、対処との接触も止滅する。対象との接触が止滅するならば、感受作用も止滅する。感受作用が止滅するならば、妄執も止滅する。妄執が止滅するならば執著も止滅する。執着が止滅するならば生存も止滅する。生存が止滅するならば、出生も止滅する。出生が止滅するならば、老いと死、憂い・悲しみ・苦しみ・愁い・悩みも止滅する。このようにしてこの苦しみのわだかまりが全て止滅する。
◯人間のありよう
・世の中は行為によって成り立ち、人々は行為によって成り立つ。生きとし生ける者は業(行為)に束縛されている。進み行く車が轄(くさび)に結ばれているよう(『スッタニパータ』654)
・人間は「死すべきもの」、人間は欲望に衝き動かされている生きものである、人間は欲望や執著によって、「自己でないものを自己とみなし、自己のものでないものを自己のもの」とみなしている。
・人間には色々な面があるが、基本的な面を3つ挙げると、①苦しみ・苦悩の存在、②欲望・執著の存在、③常なきもの・無常の存在。
◯空ということ
・インドではゼロ(零)を意味する言葉。永遠不滅の固定的な実体というものがあるわけではない。未来永劫に変わらないものはない。いろいろな条件に恵まれて、たまたまここに存在しているだけで、その条件が消え失せれば、その人もそのものも消え失せてしまう存在。
・「色即是空、空即是色」
・「色」は人間を構成しいてる五要素の一つ。五つとは「色・受・想・行・識」。
・「色」:目に見える色や形のあるもの、つまり物質的な形のあるもの。肉体。
・「受」:外からの印象を受けること
・「想」:いろいろなことを心の中で思い浮かべること
・「行」:その思い浮かべることによって、何か私たちを動かしているもの
・「識」:私たちはいろいろなことを意識して識別している
◯八正道
・中道とは、八正道のこと。八正道とは四諦のなかの「道諦」のこと。これは、苦を滅する実践の道のこと。
・八正道とは、「正見、正思、正語、正業、正命、正精進、正念、正定」
・正見:四諦を正しく理解すること
・正思:俗世を脱した」思い、怒らない思い、アヒンサーの思い
・正語:嘘偽り、そしる言葉、荒々しい言葉などを言わないこと
・正業:殺生、偸盗、邪婬を行わないこと
・正命:正しい出家修行者の生活を守ること
・正精進:邪悪なことを断ち、善を勧めるように勤め励むこと
・正念:身心をよく観察し、貪りや憂いをなくするように気をつけること
・正定:禅定の」境地に住すること
どれも現代でも生かせる発想で、特に十二因縁は一つひとつ自分に照らしてみていくと、なるほど確かに!っていうことが感じられるのではないでしょうか。