MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

危機と人類(上)(ジャレド・ダイヤモンド)

『危機と人類(上)』(ジャレド・ダイヤモンド)(◯)

 本書は、個人や国家が直面した危機とその危機を乗り越えた経験を現代が直面する課題解決に活用できないかという視点から危機について考える内容です。上巻は、個人が1章、国家が4章(フィンランド、日本、チリ、インドネシア)が収録されています。フィンランドと日本が外的要因による危機、チリとインドネシアは内的要因による危機というアプローチで、日本は黒船来航への対応が書かれています。下巻では、ドイツとオーストラリアの危機を取り上げた後、日本とアメリカの現在進行中の危機が書かれています。視点を時間軸と世界地図の2軸で広げて視野を広げるのにも役立つ内容です。

 

【本書の学び】

①現実を認めることとその認識の一致が出発点

②選択する際には価値観と見極め

③状況に応じた柔軟性。回り道の選択もあり。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯個人的危機に関わる要因

①危機に陥っていると認めること
②行動を起こすのは自分であるという責任の受容
③囲いをつくり、解決が必要な個人的問題を明確にすること
④他の人々やグループからの物心両面での支援
⑤他の人々を問題解決の手本にすること
⑥自我の強さ
⑦公正な自己評価
⑧過去の危機体験
⑨忍耐力
⑩性格の柔軟性
⑪個人の基本的価値観
⑫個人的な制約がないこと

 

◯国家的危機の帰結に関わる要因

①自国が危機にあるという世論の合意
②行動を起こすことへの国家としての責任の受容
③囲いをつくり、解決が必要な国家的問題を明確にすること
④他の国々からの物質的支援と経済的支援
⑤他の国々を問題解決の手本にすること
⑥ナショナル・アイデンティティ
⑦公正な自国評価
⑧国家的危機を経験した歴史
⑨国家的失敗への対処
⑩状況に応じた国としての柔軟性
⑪国家の基本的価値観
地政学的制約がないこと

 

フィンランドの対ソ戦争

・現在のフィンランドは科学技術力と工業力で世界に知られ、一人当たり平均所得はドイツやスウェーデンと並ぶ最富裕国のひとつ。社会民主主義体制をとりながら、数十年にわたりかつてはソ連共産主義)と、現在はロシア(独裁政権)と極めて良好な信頼関係を維持している。この組み合わせは選択的変化の見事な一例。

フィンランドのナショナルアイデンティティの強さと源泉、フィンランド地政学的情勢に対する極度に現実的な自国評価、その結果として生じた矛盾を孕む選択的変化の組み合わせ、フィンランドの選択の自由の欠如と手本にできる成功例の欠如が特徴。

フィンランドは選択的変化と囲いづくり(要因3)の好例。継続戦争(1944年)行こう、フィンランドソ連を相手にせず無視するという、それまでの政策を転換した。彼らが新たに採用した政策は、ソ連と経済関係を築き、頻繁に政治対話を持つというもの。これは極めて選択的な変更。フィンランドソ連に占領されたわけでも、政治的独立を諦めたわけでも、自由民主主義を捨てたわけでもない。対ソ関係は改め、それ以外の社会制度は以前と変わらないというのは、一見矛盾するふたつのアイデンティティが共存しているようにみえる。

 

◯近代日本の起源

・1954年再びペリーがやってきた。当初は6隻が浦賀に来航し、遅れて3隻が到着。ペリー代将は、日本が西洋諸国と初めて結ぶ条約となる、日米和親条約を締結した。無理やり開国させられた結果生じた様々な問題に、江戸幕府はどうにか対処しようとしたが、最終的に徳川将軍家はその対処に失敗する。開国が引き金となった日本社会や江戸幕府の変化は、もはや止めようがなかった。それらの変化が今度は、国内の対抗勢力による倒幕につながっていき、さらにその対抗勢力によってたてられた新政府のもと、広範にわたる変化が起こった。

・日本国内でも最も先鋭化したのは、日本の基本的戦略におけるジレンマをめぐる対立だった。今、外国人に抵抗し、排斥すべきか?それとも、日本がもっと国力を充実させてからにすべきか?幕府による不平等条約の調印は、日本国内に反発を引き起こした。

・明治政府の指導者たちは基本的な大原則を3つ採用した

①現実主義。明治政府の指導者たちも、今の日本には西洋人を追い払う実力はないと認識するようになった。

②明治政府の最終目標を、西洋諸国に強要された不平等条約の改正とする・

③外国の手本をそのまま導入するのではなく、日本の状況と価値観に最も適合性の高いものを基本としつつ、日本向けに調整する。

・勝算が絶望的にないにも関わらず日本が第二次世界大戦を始めた理由の一部(あくまで一部)は、1930年代の若い軍幹部に現実的でかつ慎重で公正な自国評価を行うのに必要な知識と経験が欠けていたこと。そしてそれが日本に破滅的な結末をもたらした。

・明治日本は、本書で論じる他のどの国よりも多く、外国を手本として借用した変化を経験している(要因5)

・ペリー来航によって、日本が直面しているという世論が日本人全体で広く合意されていた(要因1)

・劇的な変化と保守的な伝統保持の併存には、状況に合わせた国としての柔軟性(要因10)という要因もよく表れている。

・強いナショナル・アイデンティティ(要因6)。日本人や指導者層は、日本は類稀な、優れた、世界の他の国とはかけ離れた国だと考えていた。

・明治日本は忍耐の好例。最初の解決策が失敗したとき、それを許容した上で次を模索する意欲、うまく機能する回答が見つかるまで諦めない粘り強さがある(要因9)

・決して譲れない基本的な価値観(要因11)によって、日本人は自己犠牲を厭わない国民として団結した。国家の基本的価値観の中で上位にくるのは、天皇への忠誠だった。原爆を二つ落とされても、戦況が絶望的であっても、日本は、ひとつの条件を頑なに主張し続けた。「天皇の国家統治の大権を変更するの要求を包含し居らざることの了解の下に受諾す」という条件である。この条件が認められなければ、日本はアメリカ軍との本土決戦をも辞さない覚悟だったのだ。

 

 12の観点を意識しながら歴史を紐解くことによって、歴史の捉え方が明確になり、当時の状況も俯瞰して考えられると思います。下巻で日本の現状の課題を捉え、何ができるのかを考えるのも楽しみです。

 

(以下、お友達からいただいた補足です)

◯組織的(チーム)危機の帰結に関わる要因

①組織(チーム)が危機にあるという社内的合意形成
②行動を起こすことへの、組織(チーム)としての責任の受容
③囲いをつくり、解決が必要な組織的(チーム内)問題を明確にする
④他の組織(チーム)からの、物心両面の支援
⑤他の組織(チーム)を問題解決の手本にすること
⑥社訓やビジョン、チームの存在目的を意識する
⑦公正な自組織(自チーム)の評価
⑧過去の危機体験の共有
⑨組織的(チーム内)の失敗への対処
⑩状況に応じた組織(チーム)の柔軟性
⑪組織(チーム)の基本的価値観
⑫組織的(チーム内)に制約が無いこと

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