MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

宋名臣言行録(朱熹編、梅原郁編訳)

宋名臣言行録』(朱熹編、梅原郁編訳)(◯)

貞観政要』と並ぶ帝王学の書で明治天皇の愛読書のひとつ。今から約1000年近く前、中国の北宋時代の八代の皇帝と臣下の会話をまとめた一冊です。統治に必要な心構えを転じて、リーダー、その中でもトップの考え方、姿勢を問うた内容であり、当時の会話を想像しながら、上に立つ者は何を考えるべきか、内省本としても使える内容だと思います。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯56 小を許せば大をひらく

・程琳は契丹使節の接待役を仰せつかった。使者は「中国の使節が我が国に来ると殿上に座り、席の位置も高い。それなのに契丹の使いが中国に来れば、低い席に座らされる。あげていただくべきだ」と語気も鋭く申し入れた。おかみと大臣たちは、いずれも小さなことで、問題にするほどでもないと許可しようとした。

・琳は「小さいことを許せば、大きいことの糸口をひらくものです」と、断乎として反射し、結局認められなかった。

 

◯59 若い時は目立たぬように

・門弟の一人が県知事となった時、杜衍は「君の才能器量は県知事には惜しい。しかしそれを包み隠し、角を立てることをするな。たとえ自分が正しくても相手に合わせ、程々に味方をしておけ。さもなくば、何事もなしえず、禍を招くだけだ」と訓戒した。

・その男は、「あなたは平生、公明正直、誠実で信頼できることで、天下に鳴り響いておられる。それに今、私にこのようにおさとしになるのはなぜでしょうか」と尋ねた。

・途衍配下のように答えた。「私はたくさんの職務につき、年もとっている。上は天子の思召をこうむり、下は多くの人たちから信用されている。だから自分の思う通りができる。君は今県知事になったばかりで、うまくゆくゆかぬの鍵は上役に握られている。

・立派な州知事はそうはおらぬもの。もし認めてもらえなければ、君はどうして志を伸ばすことができよう。つまらぬ禍を招くだけだ。だからわしは、君がたとい間違っていてもみなに合わせ、平均値で行けというのだ」

 

◯62 部下に人材を集めるには

・韓琦の話。ある時范仲淹と呂夷簡が人材について議論した。「わしも随分多くの人を見てきたが、節操ある者はいないものだ」という夷簡に対し、仲淹は「世間には人物がいるので、あなたがご存知ないだけです。そうした先入観で人に接しておられると、節操ある者がやってこないのはむしろ当たり前でしょう」と応じた。

 

◯89 人はやめさせにくいもの

・韓琦は進退に関して「選択が難しい場に立たされた時は、強引にことをすすめて後にしこりを残してはいけない」と語った。彼は新人の副宰相が或る人を任用したのを聞くたびに、「上に引き上げるのはたやすいが、降格させるのは難しい」と歎息した。

 

 ◯97 人は人、己は己

・(嘉佑)三年、竜図閣学士の肩書きを加えられて国郡開封府の長官に就任した。前任の包拯(孝粛公)は厳しく部下を統御し、その名は都中に鳴り響いていた。欧陽脩はことを複雑にせず、ただ理に循(したが)い、とかくの名声を求めなかった。包拯の施政を持ち出し、脩の尻を叩く者に対し、彼は次のように答えた。「そもそも人の才能や性質はさまざまである。長所を利用すれば物事はやってゆけるものだ。無理に短所を持ち出すと、まずうまくゆかぬのは必定。わしはやはりわしの長所を使うだけだ」。聞いた者はその言葉に納得した。

 

 今も昔も、「人」に対する向き合い方は課題であり、これは永遠の課題と言っていいのかもしれません。何らかの組織ができれば、共通の目的、異なる個性、さまざまな考え方、これらを調和していくことができて、一人よりも良い状態を作れるかどうか。学ぶところが多い一冊でした。 

宋名臣言行録 (ちくま学芸文庫)

宋名臣言行録 (ちくま学芸文庫)

  • 発売日: 2015/12/10
  • メディア: 文庫
 

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