『高僧伝 空海』(松長有慶)(◯)
現在、高野山大学の単科生でもありますが、そろそろレポートを書かないといけないので、課題図書を読んでみました。本書は、高僧伝シリーズ(全10巻)の1冊で、1985年発行当時高野山大学学長であった著者が様々な文献にあたり、空海の生涯を人間性と共にまとめた一冊です。これまで空海に関する本を何冊か読んできましたが、レベル感といい、まとまりといい、良書だなと感じる内容でした。
ちなみに、レポートの課題は、次の2点を各4,000字程度でまとめること。
①弘法大師空海の生涯における高野山開創の意義について論じなさい。
②平安京における弘法大師空海の活動について関心のある事績をひとつ選び、歴史的意義について論じなさい。
高野山大学って感じでしょーー!
(印象に残ったところ・・本書より)
◯綜藝種智院開校(828年)
・当時、都には大学があり、地方には国学があった。ところが、都の大学には五位以上の官吏の子弟しか入れませんでしたし、地方の国学にしても、やはり国司の子弟が入るなど、官吏のための学校だった。
・中国の大きな都市では、ブロックごとにろ塾という学校があって、ここで教育が行われていた。それを見てきた空海は、一部の限られた者だけでなく、大衆の中にまで教育が浸透してこそ、大きな成果が得られるのだと、「性霊集」に書いている。
・今の日本がこれほど経済的な発展を遂げたのは、日本人が勤勉んだということもあるでしょうが、何よりも江戸時代からの教育が徹底していて、国民全体の教育レベルが高かったからではないか。もともと仏教の思想の一切衆生、生きとし生けるものはみんな平等である、みんな同じように教育を受ける権利があるという考え方。
◯綜藝種智院の特色
①環境の選択
・今の東寺(教王護国寺)の隣を藤原三守からもらった。広い土地と5つの家屋を学校とした。静かで水も豊富で鳥が歌うような、教育現場としては大変恵まれたところ。密教は大自然を相手に瞑想するから、土地の選択にはとてもうるさい。
②教育の機会均等
・「社会が繁栄することの原因は人にある。その人が正しい方法で活躍するかどうかということは、道を正しく踏んでいるかにかかっている。ここには一つの大学があるけれど、みんなが入れるものではない。貧しい家庭の子弟は、入っていくべき場所がない。また、遠くの方にあっても、これに通うのは大変なことである。だから今、この左京の九条に一院を建てて、たくさんの人を救いたい」(性霊集より)
③出家者と在俗の博士による幅広い総合教育
④経済的な保証
・学びたい者には徹底して勉強できるだけの奨学金をあげる。先生方にも、精魂込めて研究できるほどの経済的保証をしていこう。密教というのは、厳しさに耐えることだけではなくて、物質的にも恵まれた状態にあることが理想。
◯高野山開創
・現実世界の中に理想世界を見出すことは、密教の基本的な性格の一つ。社会に働きかけるとともに、世俗的なものをいっさい捨てて山に入りたい、一人静かに自分の心を見つめていたいという願望を非常に強く持っていた。
・「自分は20歳〜50歳ごろまでは山を住処とし、瞑想こそが自分の心がけるべきことだとして参った。世俗的なことに関わるのは自分の本性ではなく、煩わしくて仕方ない」(「性霊集」より)
・一般に世俗的なことに活躍したと思われている空海が、本心においては大自然に憧れていたことがよくわかる。
・空海があれほど驚異的な大活躍をしながらいつも心のゆとりを失わなかった秘密は、このような非俗の世界への傾斜にあったと見て良い。高野山を修禅の場として開創し、整備したのもそのためだった。
課題レポートは、本書にも課題箇所の記述があり参考になりますが、この本をきっかけに深堀りしないと浅い内容で止まりそうで、まだまだ足りない感じです。これで1科目。残り4科目あるので、真面目に取り組まないと期限前に大変なことになりそうな予感です。。。