MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

『論語』がわかれば日本がわかる(守屋淳)

「『論語』がわかれば日本がわかる」(守屋淳)(◯)

 お友達にご紹介いただきました。「日本人らしさ」がどこから来ているのか。多くの日本人を無意識に縛っている常識や価値観とは何か。そのルーツを知るために参考になる一冊です。中国古典をわかりやすく解説されていることで知られる著者ですが、本書は、古典を引用しながら、現代の「日本人あるある」を解説した、古典と現代を繋ぐ内容です。職場、教育現場、親からの教え、様々なところに根付いている日本文化もルーツの一部は中国にあることがよくわかります。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯江戸時代「なぜ『漢籍』や儒教系の教えが普及したのか?」

・根本的な理由は、徳川幕府が治世の基本に文書行政を据えたことにある。

・俗な比喩を使えば、戦国時代が「無法地帯でのヤクザの抗争」であったとすれば、江戸時代は「やたらと序列と上限関係に細かい官僚ないし会社組織。もし序列無視したら左遷かクビ」に組み替えた、という感じ。そして、この制度設計に正統性を与え、強化するために使われたのが『論語』や儒教の教え。

・こうした流れから今に続く、日本人の無意識の価値観が生まれる。

①年齢や年次による上下や序列のある関係や組織を当たり前だと思う。

②生まれつきの能力に差はない。努力やそれを支える精神力で差はつく。

性善説で人や物事を考える。

④秩序やルールは自分たちで作るものというより、上から与えられるもの。

⑤社長らしさ、課長らしさ、学生らしさ、裁判官らしさなど、与えられた役割に即した「らしさ」や「分(役割分担と責任)」を果たすのが何よりいいこと。

⑥本音と建前を使い分けるのを当たり前と思う。

⑦理想の組織を「家族」との類推で考えやすい

⑧組織や集団内で、下の立場の「義務」や「努力」が強調されやすい。

⑨教育の基本は「人格教育」

⑩男尊女卑

 

◯10の価値観を「公教育」に当てはめると

①上下や序列関係が当たり前

⇨年次による先輩・後輩関係が当たり前

②努力・精神主義

⇨「できないのは努力が足りないからだ」という指導

性善説

⇨子供は基本的にいい子という建前

④受け身の秩序・ルール

⇨学校が一方的に決めた校則を、とにかく生徒は守らされる

⑤らしさと分のしばり

⇨学生らしさ、先生らしさ、校長らしさなどが求められる

⑥本音と建前

⇨生徒の個性化は建前で、集団指導に頼るのが現実

⑦家族主義

⇨先生がお父さん・お母さんで、生徒が子供たち

⑧下の義務偏重

⇨現場の教員に対する過剰な負担の押し付けを当然視する

⑨人格教育

⇨日本の学校教育は「徳育」を担うことが大きな柱

⑩男尊女卑

⇨女性管理職、特に校長の比率の低さ

・教育でプラスされる要素

⑪集団の貴族重視、集団の教育力を活かす

⑫「気持ちを考える」ことこそ人格教育の基本

 

◯10+2の価値観を「会社」に当てはめると

①上下や序列関係が当たり前

年功序列

②努力・精神主義

⇨新入社員は全員、社長ないし役員候補

⇨残業や異動を断らないのが出世の基本(生まれつきの差はない)

性善説

⇨不祥事の温床となるチェックの甘い体制

④受け身の秩序・ルール

⇨社員がどこでどう働くかは、基本的に会社が決める

⑤らしさと分のしばり

⇨社長らしさ、課長らしさ、新人らしさが求められる

⑥本音と建前

⇨会議で本音を言わず、飲み会でこぼす

⑦家族主義

⇨社長がお父さんで、社員が子供たち

⑧下の義務偏重

⇨アルバイトや契約社員にまで過剰な責任と労働

⑨人格教育

⇨仕事は修業の場で、人は仕事で磨かれる

⑩男尊女卑

⇨男女の賃金・待遇差別

⑪集団の貴族重視、集団の教育力を活かす

⇨職場やチームの中で、新人は育まれる

⑫「気持ちを考える」ことこそ人格教育の基本

⇨空気を読んだり、忖度の上手い人間が出世しやすい

 

 本書で紹介されている日本人の価値観を『論語』を始めとした東洋思考の古典とともに照らし合わせていくと、おもしろいように当てはまっています。本書は『論語』を中心としていますが、その他の中国古典の書籍も参照してみるとさらに幅が広がりそうで、コンテンツネタになりそうな一冊でした。

『論語』がわかれば日本がわかる (ちくま新書)

『論語』がわかれば日本がわかる (ちくま新書)

  • 作者:淳, 守屋
  • 発売日: 2020/02/06
  • メディア: 新書
 

f:id:mbabooks:20200809074935j:plain