MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

怒りについて(セネカ)

『怒りについて』(セネカ)(◯)
 セネカ(紀元前1〜紀元後65年)は、ローマ帝国第5代皇帝ネロの家庭教師であり、のちに執政官(政治上の最高ポスト)にも就任しますが、政界引退後ネロ暗殺の嫌疑により自死を命じられる悲劇に見舞われる波乱の人生を送った方です。著者の名著は何冊かあり、岩波文庫から発売されていますが、その中の1冊である本書について読んでみました。「怒り」という人間が持つ基本感情について哲学者らしく様々な角度から論じられており、現代にもつながる人間の変わらない部分を知るという意味も、参考になる良書でした。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯第1巻

・怒りはあらゆるものを、至善至誠のあり方から正反対へと変貌させる。誰であれ一度いかりに捕らえられた者はいかなる義務も忘れ果てる。

・怒りとは、不正に対して復讐することへの欲望である。自分が不正に害されたとみなす相手を罰することへの欲望である。ある人は、次のように定義した。すなわち、怒りとは、害を加えたか、害を加えようとしたものを害することへの心の激動である。

・人間は相互の助け合いのために生まれた。怒りは破滅のために生まれた。人間は集合を欲する。怒りは離散を欲する。人間は貢献を欲する。怒りは加害を欲する。人間は見知らぬ人すら援助する。怒りは愛しい者すら苛む。人間は他人のため、進んで自らを危険に晒す。怒りは危険の中へ、もろともに引き込むまで堕ちていく。

・最善なのは、怒りの最初の勃発をただちにはねつけ、まだ種子のうちに抗い、怒りに陥らないように努めることである。一度常軌をはずれ、斜めに進み出すと、健全なあり方に復帰するのは難しい。なぜなら、一旦情念が侵入し、それにこちらの意向でわずかでも権利が与えられた場所には、もはや理性はな一切存在しないからである。それ以降、情念は、許される限りでなく、欲する限りを行うだろう。

 

◯第二巻

・怒りは決してそれ自身で発するものではない。心が賛同してからである。なぜなら、不正を被ったという表象を受け取ること、それに対する復讐を熱望すること、さらに二つのこと、自分は害されてはならなかったということと報復が果たされなければならないということとを結びつけるのは、我々の意思なしに惹起される類の衝動に属してはいないからである。

・怒りに対する最良の対処法は、遅延である。怒りに最初にこのことを、許すためではなく判断するために求めたまえ。怒りには、初めは激しい突進がある。待っているうちにやむだろう。全部取り去ろうとしてはならない。一部ずつ摘み取っていけば、怒り全体を征服できるだろう。

 

◯第三巻

・怒りは贅沢より悪い。なぜなら、贅沢が堪能するのは自分の快楽であるのに対して、怒りが楽しむのは他人の苦しみだからだ。怒りは悪意と嫉妬を打ち負かす。それらは、相手が不幸になるのを欲するのに対して、怒りは不幸にするのを欲するからだ。そららは人の不幸を喜ぶのに対して、怒りは運を待っていられない。憎い相手が害されることではなく、自ら害することを欲する。

・多くの人は、根も葉もないことを疑ったり、些細なことを深刻にとったりして、苦悶の種をわざわざ自分であつらえている。怒りは頻繁に我々を訪れるが、我々の方がもっと頻繁に怒りへ赴いているのだ。

・君は短い人生を大事にして、自分自身と他の人々のために穏やかなものにしたらどうだ。むしろ、生きている間は自分を皆から愛される者に、立ち去る時には惜しまれる者にしたらどうか。なぜ君は、あの高所から君をあしらう者を引き摺り下ろそうと欲するのか。なぜ君は、あの君に吠えかかる男を、卑しく惨めだが、上の者に辛辣でうるさい奴を自分の力でへこませてやろうとするのか。なぜ奴隷に、なぜ主人に、なぜ王に、なぜ自分の子分に怒るのか。少し待つがいい。ほら、死がやってきて、君たちを等し並にするだろう。

  

 「怒り」は感じないようにすればいいのか、「怒り」は感じてもいいけどその後の対処が大切なのか。そもそも「怒り」が発生しないような環境づくりこそ大切なのか。「怒り」という感情一つとっても、様々な問いが立てられると思います。現代において、アンガーマネジメントという領域があって、その専門の方がいらっしゃるように、コミュニケーション上の大きなテーマであり、「怒り」とうまく付き合うことができるようになると、「悩み」の多くの部分も減少するように思います。

怒りについて 他2篇 (岩波文庫)

怒りについて 他2篇 (岩波文庫)

 

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