MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

ジャータカ(松本照敬)

『ジャータカ』(松本照敬)(◯)

 「ジャータカ」とは、「ブッダの前世の物語」。

 読む前は、過去世?なんか怪しそうって思うところもありましたが、ジャータカは、これで一つの経典(教え)となっており、全体が物語風でとても理解しやすい内容です。「なんだ!いい本だぁ」というのが実感であり、「過去世」という言葉で怪しそうなイメージを持って避けるともったいない。「ジャータカ」は、ブッダ釈尊)入滅後200〜300年経った頃原型ができました。釈尊ほどの人なら、きっと前世から悟り(仏陀)に向けて修行を積んでいたに違いないという考え方がベースにあります。

 全体の構成は、①現世でこんな問題がある、②(そこに釈尊が登場して)同じような話が過去世でもあった・・と過去世の回想シーンが物語で綴られる、③釈尊が過去世の物語からの教えを説くというパターンです。

 本書は、ジャータカの物語全体547話あるようですが、その中から抜粋された31話が紹介されています。現代語訳も読みやすいです。非常に良かったので、『ジャータカ全集』(中村元、全10巻)を読み進めることにしました。やはり、物語というのは、惹きつけられますね。

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◯「逆恨みした王の物語」

①現世の物語

・一人の怒りっぽく、情緒不安定な修行僧。少しでも他人に注意されると、不機嫌になって、怒りや不満を言葉遣いや態度であらわにしていた。

・それを聞いた釈尊が、この修行僧は、過去世においても怒りっぽかったと、過去世の物語を始める。

②過去世の物語

・学芸を修める修行に出た王子。沐浴の途中で老婆が干していた白胡麻をひとすくい取って食べた。3日間続いたとき、老婆が先生にそのことを告げ、先生は、「他人の物を盗んではならぬ」と竹の棒で王子の背中を3回打った。

・王子はこのことを恨んでおり、王になってから「余を侮辱した先生を生かしてはおけぬ」と先生を呼び出したが、先生も王の気持ちを察し、理由をつけて何度も断っていた。

・月日が流れ王も中年になり、先生は「王も分別のある年頃になったから、今なら王を説得できるだろう」と王の元へ赴いた。王は、「殺されるのを覚悟してここにきた。今日先生を死刑に処するだろう」と伝えたが、先生は「大王よ。あなたは今や人民の主です。王者の威厳を損なう態度を取るべきではありません。怒りを鎮めて私の話をお聞きください」と言って、教え諭す。

・「悪事は小さなうちに摘み取らねば、次第に増大する性質を持っています」「一握りのゴマを奪う行為は、菓子を奪い、果物を奪い、金品を奪い、村々を襲って掠奪することになるでしょう」「掠奪を行う盗賊はいつか捕えられ、王は国の秩序を保つため、自分の息子といえども獄に送って王位を譲ることになるでしょう。そうすればあなたは、牢獄から釈放されても自国には住めず、他国を放浪することになるでしょう」・・

・周囲も「先生の言うことは道理にかなっている」と王を諌め、王も冷静になって考えてみると、先生や大臣の言うことが理解でき、先生を司祭の位につけ、父のように遇したと言う物語。

③教訓

1)悪事は次第に増大する性質を持っているので、芽のうちに摘み取らねばならない

2)教育者はたとえ弟子の恨みをかうことがあっても正しい道を教えなければいけない

3)人が道理を十分に理解するためには、一定の年月や経験が必要

4)正しい指導者を得るか否かで、教育されるものの一生が決まってくる