昭和の仏教大家であり、インド哲学の第一人者である著者。本書は、ブッダの生涯を追いながらその思想がどのように生まれたのか、教えの要点は何か、といった点を原始仏典の経典を紐解きながら、わかりやすく解説された一冊です。著者の著書は多数発行されていますが、一般の方にもとてもわかりやすく書かれているのが特徴です。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯人間の真の姿
・「世の中は行為によって成り立ち、人々は行為によって成り立つ。生きとし生ける者は業(行為)に束縛される。進み行く車が楔(くさび)に結ばれているように」(『スッタニパータ』654)
①人間は「死すべきもの」だと言うのが、人間の本質的な特徴の一つ。
②人間は欲望に衝き動かされている。
③人間は欲望や執着によって「自己でないものを自己」と見なし、「自己のものでないものを自己」と見なしている。
◯苦しみとは何か
・「生も苦しみである。老も苦しみである。病も苦しみである。死も苦しみである。愛されない者と会うことも苦しみである。愛する者と離別するのも苦しみである。すべて欲するものを得ないことも苦しみである。要約して言うならば、五種の執着の素因(五種薀)は苦しみである。」(『律蔵』)
・この句から、「四苦八苦」という言葉が出ている。「生老病死」は「四苦」と言われ、残りの四つ「怨憎会苦」「愛別離苦」「求不得苦」「五種薀苦」を加えて「八苦」という。のちにこれを「四苦八苦」というようになった。
◯欲望の根源
・人間を衝き動かしているものは、理性でもなく、知性でもなく、心の奥底に渦巻いているどす黒い欲望であると、ブッダは見ていた。
・「八つの詩句の章」(アッタカ編)の冒頭
①人間存在の根源には、「欲望」「貪欲」が潜んでいる。
②それらに基づいて執着が起こる。
③そのためにいろいろな危難がふりかかってくる。
④それゆえに苦しみがついてくる。
◯煩悩の性質
・貪瞋癡(とんじんち)の三毒
①貪り(貪欲)
②憎しみ(嫌悪)
③迷妄(愛執)
◯慈悲
・他人に対する温かい思いやりは、我執を離れたところから起こってくる心情。その我執を離れたところから出てくる温かい思いやりの表れが、つまり慈悲のはたらき。
・「慈」は、人々に利益と安楽をもたらそうと望むこと。
・「悲」は、人々から不利益と苦とを除去しようと欲すること。
・世俗の愛は条件が変わればすぐ憎しみは変わってしまう相対的な愛。絶対的な愛は、条件によって変わることがない。慈悲は、そのように変わることのない純粋な絶対的な愛のこと。
・「あたかも、母が己が独り子を命を賭けても護るように、そのように、一切の生きとし生けるものどもに対しても、無量の「慈しみの」心を起こすべし。また、全世界に対して、無量の慈しみの意を起こすべし。上に、下に、また横に、障害なく怨みなく敵意なき慈しみを行うべし」(『スッタニパータ』149、150)
・欲捨てた者は怒りを制し、無量の慈悲の心を養う。すべての生物に鞭をあてるのをやめ、梵界にいたり非難はない。