エミール(上)(ルソー)
『エミール(上)』(ルソー)
著者のルソーは、1712年フランス生まれ。昔社会科の教科書で『社会契約論』とセットで暗記した記憶がありますが、もう一つの代表作が『エミール』。表紙に記載されているように、「ある教師がエミールという平凡な人間を、誕生から結婚まで、自然という偉大な教師の指示に従って、いかに導いてゆくか」が小説の形式で述べられています。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯小説の前提
・一人の架空の生徒を自分に与え、その教育に携わるにふさわしい年齢、健康状態、知識、そしてあらゆる才能を自分が持っているものと仮定し、その生徒を生まれた時から、一人前の人間になって自分自身の他に指導する者を必要としなくなるまで導いていくことにした。
・書物を無用に大きくしないために、私は誰でも真理だと感じることができる原則を述べるにとどめた。
◯経験の教えるところによれば、こまごま世話をしてやって育てた子供の方が、そうでない子供よりも死ぬ率がずっと大きい。
・体に習性がつくまでは、なんの危険もなしにどんな習性でもつけられる。しかし、ひとたび体が固まってくると、あらゆる変化は危険なものとなる。
・子供は大人が耐えられないような変化にも耐える。子供の線維はやわらかく、しなやかだから、苦もなく、与えられたひだを取る。大人の線維は固くなっているから、強い力を加えなければ、すでに与えられているひだを変えることができない。
・だから子供は生命と健康を危険にさらすことなしに、頑丈な体にすることができる。
◯人間の教育は誕生とともに始まる。
・子供が最初に感じる感覚は、純粋に感情的なもの。子供は快・不快を認めるに過ぎない。
・子供につけさせていいいただ一つの習慣は、どんな習慣にも馴染まないということ。
・あらゆる人間に共通した自然の言語。それは、子供が話をすることができるようになる前に語っている言語。
・人間の最初の状態は欠乏と弱さの状態だから、その最初の声は不満と泣き言。
・子供の最初の泣き声は願い。気をつけていないと、それはやがて命令になる。
◯時期が来ていないのに、子供に急いで話をさせようとすることから生じる最も大きな弊害
・子供にしてやる最初の話や子供が語る最初の言葉が、子供にとってなんの意味もないものになるということではなく、私たちの意味とは違った意味をその言葉が持つことになり、しかも私たちがそれに気づかないでいるということ。
・子供にとって言葉が持っている本当の意味に私たちが注意を払わないこと、これが子供の最初の間違いの原因になるものと思われる。そしてこういう間違いは、子供がそれを改めてからも、一生の間彼らの考え方に影響を及ぼす。
◯うそには2つの種類がある
①過ぎ去ったことについての事実のうそ
②これからありうべきことについての当為のうそ
・一般的にいって、意識的に事実に反したことを語る場合には、事実のうそをついていることになる。まもる意思のない約束をする場合、そして一般的にいって、考えていることとは反対の意向を表明する場合には、当為のうそをついていることになる。この二種類のうそは、時には同じ一つのうその中に混じり合っていることがある。
・事実としてのうそが子供に自然に生じてくるものでないことは明らか。
◯子供の状態を尊重するが良い
・良いことであれ、悪いことであれ、早急に判断を下してはならない。
・長い間自然のなすがままにしておくがいい。早くから自然に代わって何かしようなどと考えてはならない。そんなことをすれば自然の仕事を邪魔することになる。
・へたに教育された子供は、ぜんぜん教育を受けなかった子供よりずっと知恵から遠ざかる。
本書を知るきっかけになったのは、最近発売された『冒険の書』(孫泰蔵)。リスキリング、アンラーンという最近の流れの中で、学ぶヒントは昔の教育にあるとして、古典的名著が紹介されている中で、本書『エミール』が目にとまりました。上中下巻とボリュームはありますが、小説形式なので、割とサラッと読めるのが良いところだと思います。