『ブッダの瞑想 ヴィパッサナー瞑想の理論と実践』(地橋秀雄)(◯)
ヴィパッサナー瞑想の要点がわかりやすく解説された一冊。「気づき→観察→洞察」というプロセスが不可欠なヴィパッサナー瞑想は、「観察の瞑想」「気づきの瞑想」とも呼ばれます(一点集中型のサマタ瞑想と対比される)。見たものを「見た」、聞いたものを「聞いた」、感じたものを「感じた」と一つひとつラベリングして行く作業(サティ)を通じて、現在の瞬間の事実に気づき、ありのままに観察して行く。そのことによって、妄想を離れ、色眼鏡を外して、裸眼の観察で物事の本質を洞察して心を浄らかにして行く瞑想法の世界です。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯ヴィパッサナー瞑想の効果
①能力開発系
・頭の回転が速くなる
・集中力がつく
・記憶力が良くなる
・分析力が磨かれる
・決断力がつく
・創造性が開発される
②経験事象の変化系
・現象の流れが良くなる(トラブル解消、人に優しくされる、健康になる)
③心の変化系
・苦を感じなくなる
・怒らなくなる
・不安がなくなる(根本的に解決する)
・執着しなくなる(静かに達観する)
◯瞑想修行を始める原則、五戒を守る
①不殺生戒(ふせっしょうかい:殺さない)
②不偸盗戒(ふちゅうとうかい:盗まない)
③不邪婬戒(ふじゃいんかい:不倫をしない)
④不妄語戒(ふもうごかい:嘘をつかない)
⑤不飲酒戒(ふおんじゅかい:酒や麻薬など酩酊させるものを摂らない)
◯思考を止める
ヴィパッサナー瞑想は、思考を止めて、事実をありのままに観ることができれば、一切のドゥッカ(苦)から解放されるだろうという理論に基づいている。苦の原因は妄想にあり、その妄想は一瞬一瞬の事実に気づく「サティ」の技術によって止められる。
◯心が生まれる瞬間
①対象:知覚される外界の事物と脳内イメージや思念(色・声・香・味・触・法)
②六門:眼門、耳門、鼻門、舌門、身門、意門
③(触)識:眼識、耳識、鼻識、舌識、身識、意識
・・意識は同時に二つの対象を取ることはできない。一瞬の意識の対象は一つ。
④受:苦受、楽受、不苦不楽受
→理想的なサティ(事実の気づき)
⑤想(知覚)
→ここでのサティもOK。
⑥尋(絞り込み)
⑦反応
◯事実を認める潔さ
・起きた出来事をありのままに認めるのが、ヴィパッサナー瞑想。全ての事実を客観視する訓練が、エゴを対象化していくことにもつながる。
・ヴィパッサナー瞑想は、価値判断を超えた世界。
◯悟りの七覚支
・サティとは「現在の瞬間に気づく」という働きをするメンタル・ファクター(心所)ですが、気づき→観察→洞察という流れで成長しながら、解脱の瞬間に向かってレベルアップさせていくべきもの。
・ヴィパッサナー瞑想では、最終的には、7つのファクター(七覚支)が絶妙のバランスで出揃ったときに解脱の一瞬が訪れるという総合的な瞑想システム。
①六門から入力される情報がすべて対象化し、ただ認知するだけで留めて淡々と気づいていく(サティ)
②分析的にとらえる視点に立って、瞑想対象を眺める(択法)
③瞑想に必要な心のあらゆるファクターをフル稼働させるために、強力に努力精進のエネルギーを放出する(精進)
④取り組んでいる仕事がうまく行き始めると、興味が出てきて楽しくなってくる(喜)
⑤心や体の激しい波立ちや昂奮を鎮め、静かに安らいだ状態を作っていく(軽安)
⑥対象に没入し、瞑想者と瞑想対象が融合し合一するほど集中する(サマーディ)
⑦心に入ってくる全ての対象を公平に、等しい距離をもって眺め、無差別平等の精神に貫かれた明晰な無関心の状態を保つ(ウペッカー(捨))
◯歩く瞑想の原理とラベリング
・ヴィパッサナー瞑想は、まず体の動きに気づくことから始める。
・心の現象よりも体の動きの方が簡単に気づける。妄想は止めようと思っても留められない。
・座る瞑想や立つ瞑想よりも、まず歩く瞑想から始める方が効果的。動きがダイナミックなので感覚が取りやすいから。
・一歩一歩、歩くたびに実感されるセンセーションに集中していくのが歩く瞑想。
・気づきを言語化して認識確定する仕事を「ラベリング」という。
・「左」「右」「左」「右」・・と足の動きを感じるたびごとにラベルを貼っていけば、これでヴィパッサナー瞑想が始まっている。
・ポイントは掛け声にならないこと。感覚をしっかり実感し、感じ終わってからラベリングすること。
◯現象が先、確認が後
・たとえ1/1000秒であれ、経験する心と確認する心は時系列であって、同一の瞬間に生起することはない。感じながら同時にラベリングをしているというのは偽りの印象。
・一定時間歩いたら、次に歩く速度をゆっくりにする。観察するのは、動いている足の感覚。
・集中が高まるにつれ、微細な感覚に気づくことができるようになる。
・次は感覚を4段階に分けて感じる。「離れた」「移動」「接触」「圧」あるいは「圧が抜けた」「進んだ」「触れた」「踏みしめ」など、一つ一つの動作の始めから終わりまでをよく感じる。
◯中心対象に戻る意味
・中心外の音や思考にサティを入れた直後には、必ず一旦中心に戻す。
・「(足が床から)離れた」→「進んだ」→「着いた」→ワンワン→「聞いた」→「(足が)離れた」→「進んだ」→犬のイメージ→「雑念」→「(足が)着いた」→「圧」・・・
・一旦中心に戻すのは、①集中力を養うため、②中心対象に戻す瞬間、執着を捨てる訓練になっているから。
◯妄想が浮かんできたり、音が聞こえたりしたら
・立ち止まって、それぞれの現象に「音」「聞いた」「考えた」「妄想」「雑念」「イメージ」あるいは、「見た」とラベリングする。消えたら、また中心対象の歩行感覚に戻る。
◯ふらついたら
「ふらついた」「よろめいた」とラベリングする。それが事実の確認。事実のみを観ていくならば、妄想を離れることができる。
他にも瞑想のやり方や心の気づき方など多くの例が紹介されています。一点集中の瞑想や無になる瞑想とは異なり、今気づいていることをしっかりと一つひとつ認識していくヴィパッサナー瞑想は、出来事に対する意識を高めることで集中力が高まったり、「なんとなく」の感覚を手放すことに役立つと感じています。こういうのも瞑想なんだという率直な気づきもあり、視野が開けた感じがします。